表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
目が覚めたらお兄様になってしまった⁉ とある伯爵令嬢入れ替わり騒動記  作者: 武州青嵐(さくら青嵐)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/25

19話 呪物

 二時間後。

 俺はぐっすりと眠るローゼリアンを確認し、紗をくぐって出た。


 どうみても、この女の子っぽい部屋にはそぐわない、あきらかに他所の部屋から持ち込んだと思しき椅子は3脚。それとテーブルがひとつ。


 その2脚にセドリック師とレインが座り、ウイスキーの入ったグラスを揺らしてテーブルをみつめていた。


 正確には、テーブルの上の膿盆を、だ。


「呪物を取ったから、もう悪夢は見ぃへんと思うけど、どうや?」


 セドリック師が眼鏡を擦りあげて俺を見た。


「ええ、よく眠ってます。しばらく見ていましたが……悪夢を見ているような気配はありません」


「しばらく、見ていた。ローゼの、寝顔を」


 忌々しそうにレインが言い、噛みつくようにしてグラスを呷る。なんなんだこいつは。帰宅してからやけにつっかかってくるじゃないか。


 なにか言い返してやろうかと思ったが、セドリック師が視線を合わせて肩をすくめるので……。まあ、やめることにする。それが大人ってもんだ。


 残った椅子に腰をかけ……そして、否が応でも膿盆の中身が目に入る。


 一本や二本じゃない。

 俺の手で握っても……もてあましそうな髪の束だ。


 女ものなのだろうか。

 長髪だからそう思うだけなのかもしれないが。

 赤毛のそれからは、どこか女性特有の色気のようなものがあった。


「これが腫瘍の中に? 呪詛の原因……ということですか」


 改めて尋ねると、セドリック師がうなずいた。思い出したのか、レインも舌を出して「うえ」と呻いた。


「結構メジャーな呪詛やねんな。自分の髪や爪を相手に飲ます。んで、それが悪さをする。ローゼリアンの場合、それが腹に巣食ったんやろう。長期化したぶん、勝手に髪も増殖したんやろうなぁ。そりゃあ、こんだけふさふさとした活きのいい髪質やったら……宿主からごっそり生気を吸い取ってたんやで」


 感心したようにセドリック師が言う。


 確かに……。

 なんというか。

 いま、切り取りました、というような艶めいた赤毛なのだ。


 しかも高齢者の、というわけじゃない。

 まだみずみずしい若人のものだ。


「ちょっと待って。これを……飲ませたって? 髪を?」


 レインは俺にも酒の入ったグラスを手渡しながら、眉をひそめた。


「そう。きっかけは、たった一本の髪の毛やと思うで?」

「飲ませるって……。どこで」


 レインの眉根がさらに寄る。セドリック師は、なんでもないことのように言う。


「そりゃ、彼女に近づいて、や。呪いって、あんた、どこのだれか知らんひとから受けるんじゃない。その9割が身近な人から受けんねん」

「身近な……」


 呟いてからゾッとする。


 そりゃそうだ。飲食をともにする相手でないと髪の毛や爪なんて飲ませられない。

 混ぜられない。


「ご両親ってわけじゃなさそうやし、もちろんぼんでもない。使用人も怪しそうな者は……おらなさそうやし?」


 セドリック師は指を折る。その手首にはなぜだか包帯が巻かれていた。


「あとはご友人やないかな。女性やったらお茶会があやしい。クッキーのなかにいれたら結構わからんと食べてしまうしな」

「お茶会……」


 呟いたのはレインだ。

 じっと膿盆の中の赤毛を見つめている。


「これで、呪いが解けたというわけではないんですよね?」

 俺が確認をすると、セドリック師はうなずいた。


「ただ、この呪物から栄養をとって悪鬼は成長したわけやから。だいぶん弱ると思うで。今度出現した時、成敗してもらえたら」


 よろしく、とばかりに片目をつむられるから苦笑が漏れた。

 あっさりと言ってくれる。


「悪鬼を叩き斬ったら、呪いは返るんだよね。呪ったやつは死ぬ?」


 レインが物騒なことを聞く。セドリック師もさすがに苦笑いだ。


「まあ……。近いことにはなるかもな。呪い自体はごく単純なものなんやけど、呪っている期間が長かったからなぁ」

「ふぅん」


 なにか思案気なレインに、俺は探りを入れる。


「さっきからあれだな」

「なに?」


「なんか……気づいたっぽいというか」

「なにに」


「呪詛の相手」

「まあ……9割がた?」


 レインは言い、グラスの中の酒をあおる。

 あとは何を聞いても、はぐらかされるばかりで、答えてはくれなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ