表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
目が覚めたらお兄様になってしまった⁉ とある伯爵令嬢入れ替わり騒動記  作者: 武州青嵐(さくら青嵐)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/25

11話 夢じゃない、それは出現した

「ローゼリアン」


 足を止めました。


 いえ。

 正しくは凍り付いたのです。

 足が。いえ。体中が動きません。


 ひたひたひた。

 足音が聞こえてきます。


 さっきまで聞こえていた陽気なアコーディオンも、軽やかなフルートの音も消え失せました。川面を走る風さえやみました。


 ひたひたひた。


 たくさんの人がいるはずなのに。

 露店からもそんなに離れていないのに。

 それなのに、どうしてこんなに。


 ひたひたひた。


 足音がはっきりと聞こえるの。

 まとわりついてくるの?


「ローゼリアン?」


 ハッとしました。

 視線を向けると、少し先に進んだルシウスが振り返っています。


 私は必死になって、両腕を彼に向かってのばします。


 ですが。

 ゆっくりとしか動けないのです。


 まるで夢の中のようだ、とそのぎこちなさに焦りました。


 そうです。

 どうして気づかなかったのでしょう。


 あの足音。 

 この凍り付く感覚。

 悪夢そのものではありませんか。


「ローゼリアン」


 私の名を呼ぶ。

 この声。


 これはあの。

 悪鬼ではないのでしょうか。


「ローゼリアン!」


 不意に右手を引っ張られ、私は前のめりにルシウスの胸に飛び込みます。


 彼は私を抱き留め、そのまま数歩下がりました。私はというと、もう動けず、ただ人形のようにじっとしています。


 しゅん、となにかが走る音がしました。


 ルシウスの背中にしがみついたまま、顔を起こします。首をねじりました。

 彼が抜刀したのだと知ります。


 そして悲鳴を上げます。


 というのも。

 私に手を伸ばそうと、真っ黒な腕が伸びてきていたからです。


 怖くて目を閉じようとする刹那。

 光がきらめきました。


 朝日のような透明度で、真夏のように力強い光。

 それはルシウスの剣が陽光を反射し、真っ黒な腕を一閃したものでした。


 どすり、と。

 重い音をたてて腕は地面に落ちます。


 血がしたたるわけでもなく、肉が散るわけでもありません。

 それは陽の光に晒されると、あえなく黒靄に姿を変えて消滅いたしました。


「悪鬼……」

 私はかすれた声で言います。


「の、ようだな。結構つけられていたらしい。しくじったな」


 ふと。

 ルシウスがなにかを凝視していることに気づきました。

 私は彼に抱き着く腕を緩め、おそるおそる振り返ります。


 そしてぎょっといたしました。


 舗装された道路。

 そこに点々と残されたのは、コールタールのように真っ黒な足跡。

 それはどこからともなく現れ、そして私の真後ろでぴたりと止まっていたのです。


「意外に居場所を知られるのも早かったな」


 ルシウスが鞘に剣をおさめ、ぽつりとそんなことを言います。

 私は震えが止まりません。


「……本当に悪鬼が……」


 あれは夢ではなかった。

 本当に呪詛だった。


「ローゼリアン……? ローゼリアン!」


 私は呪われていたのだ。

 そんなことを思いながら、意識を失いました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ