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第八十二話 真髄

「ぅおっ!?」

 間一髪、ローガはその爪を大剣でいなして回避した。

 俺の考えが正しかったということだ。

「相手の攻撃も歪んでいる……そういうことですね」

「ああ。混乱しないように気をつけろ」

 敵はこの歪んだ空間のことを知り尽くしている。

 見る限りではこちらを狙っていても、実際は違う方向に攻撃をしかけようとしているのだ。


「頭も目もない形してるからな。……おかげでわかりにくい」

「こちらの攻撃は届かず、向こうは攪乱してくる……そんなんじゃ、どうやってここを突破すんだよ!」

 遙か天井からローガが叫ぶ。

 そう、一見それは、攻略不可能なように思える。

 一方的に責め立てられるだけではないのか、と。

 しかしそうではない。

 俺たちが十五年前に見つけた方法……それが、今知る中では唯一の攻略方だ。

 ややリスキーだがな。


「さあ、来い……!」

 そのためには、敵の攻撃を待たなければならない。

 しかし、敵はその名の通りこの異次元を守護するもの。

 護るべきものが攻撃を加える条件は……。

 剣に魔力を送る。

 弱くていい。これはただの釣り餌だ。

「避けろよ、ローガ!」

「へ?」

 予期される事態に勧告してから、俺は剣を振るった。

「『電光石火ライトニング・ソニック』!」

 飛翔する雷撃。しかし、それもねじ曲がった異空間の法則には逆らえず、左上の空間へと飛ばされた。

「のわっ!?」

 反射的に屈んだローガの頭上を、俺の魔剣術は通過していく。

 守護者にはかすりもしていない。

「んだよ、危ねえな!」

 その吠えには反応できない。

 勝負はここからだからだ。


「ミリアルド、準備を」

「はい」

 勝負は一瞬だ。

 その一瞬を逃せば、また厄介なことになる。

 守護者は右肩の爪をもたげた。

 その先端は、俺たちとは魔逆の空間。そこには誰もいない。

 しかし、突き出されたその爪は、空気を裂いて俺の眼前へと迫る。

「ッ!」

 速い。が、紙一重で避けた。

 だが、避けただけで終わってはならない。

 俺は即座に左腕を延ばし、その爪を掴んだ。

「ぐっ……」

 爪が食い込み、手のひらから出血する。

 しかし、力は緩めなかった。

 守護者が爪を引っ込める。それを掴んだままの俺の身体も当然、同時に引き寄せられ――

 いびつな空間の移動先は、守護者の、背後。

 爪から手を離し、俺は剣を両手で握った。

 腹と寸分違うことのない背中に、全力の一撃を叩き込む!


「轟け、雷吼!」

 ティムレリアの力によって高められた魔力、そしてそれを増幅する指輪と宝剣。

 この三つが織りなす、最大の魔剣奥義!

「『轟雷滅斬ギガボルト・パニッシュ』!」

 切っ先がわずかに守護者の甲殻に食い込む。

 剣が背を切り裂くとともに雷光が伝わり、雷鳴が異次元に轟く。

 意味不明な身体を持つ守護者に、稲妻が伝播する。

 口もないこいつは悲鳴を上げることはない。

 しかし、ダメージはある。それを俺は過去の経験から知っている。

 このレベルの術の反動に、俺の身体はまだまだ耐えられない。

 気絶はしないだろうが、凄まじい疲労が襲ってくるだろう。

 着地すると、全身に鈍痛が走った。しばらく動けないだろう。

 だが。

 今も昔も、同じことがある。


「――ミリアルドッ!」

 俺には、信頼できる仲間がいるということだ。

「はい!」

 一瞬、空間がぐにゃりと歪んだ。

 この守護者に大きなダメージを与えたときに起こるある現象。それこそが、俺の狙い。

「瞬け、七星! 『セブンスレイ』!」

 ミリアルドが神霊術を発動する。

 その周囲に赤・朱・黄・黄緑・緑・青・紫の――虹色の光が発生した。

 その一つ一つから細い光線が撃ち出され、まっすぐ守護者へと延びていく。

 本来ならそれも、この歪んだ異空間にねじ曲げられるはず。

 しかし、七色光線は曲がらなかった。

 七つの光線すべてが守護者の身体に突き刺さる。

「はっ!」

 突き出した腕を、ミリアルドは横に払う。

 それに呼応し、光線が守護者の甲殻を焼き削っていった。

 全身から焼け焦げた煙を発しながら、浮いていた守護者の身体が地に落ちる。

 だが、まだ終わりじゃない。

 こんな程度でやられるほど、守護者はヤワじゃない。 


「トドメを!」

「はい!……くっ」

 次なる一撃を加えようとしたミリアルドが、突然膝をついた。

 首輪の負荷だ。今発動した神霊術に反応し、首輪がミリアルドを痛めつけているのだ。

「ちっ……!」

 再び守護者の身体が浮き上がる。

 放っておけば守護者は傷を回復してしまう。

 今が最大の好機なのだ。

 俺はまだ動けない。ミリアルドも難しい。

 ならば、残っているのは。


「私が参ります!」

 吠え、サトリナが駆けた。

 槍を回し、突撃の体勢となって駿馬のように。

 鎧を身につけているというのに、なんと軽やかに疾走る。

 だが、それだけではダメだ。

「サトリナ! 守護者には魔力がないと……!」

 ただの剣、ただの槍ではダメなのだ。

 異次元の生物にとっては、魔力や神霊力が最大の天敵なのだ。

 いくら硬い甲殻を打ち破ったとしても、それだけでは相手には出来ない。

 

「魔力……」

 サトリナの接近を危機と取ったか、守護者が爪を突き出した。

 空間のゆがみのない今、まっすぐ放たれた爪は素直に襲い来る。

「――そのようなもの!」

 だが、サトリナは身体を翻して軽々とそれを避けた。

 そのまま素早く間合いへ入り、槍を振るうべく胴をねじった。

「――やッ!」

 渾身の突き。空気を斬り裂き、穂先が焼け焦げた甲殻をぶち抜いて貫通する。

 しかし。

 守護者にダメージはない。


「逃げろ、サトリナ!」

 二本の爪が共にサトリナを向く。

 この距離では避けようもない。

 このままでは……!

「逃げる必要などありません」

 しかし、サトリナは笑った。

 なぜならば、と。

「――これが、我が槍の真髄ですことよ!」

 槍を握る手が、強く。

 瞬間、突き刺さった穂先から火炎が迸った。


「な……!」

 体内で燃え上がる炎に、守護者の身体が硬直する。

 その体内すべてに火炎が進入し、溢れた火の粉がミリアルドの神霊術によって破られた箇所から溢れ出す。

 猛毒である魔力の炎を体内で燃やされた守護者は、硬直したまま身体を地を沈め、そして。

 沈黙した。


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