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第八十話 異次元への門

次元の門に着いたのは、太陽が高く昇るころだった。

 門の前の見張りにクリスからの書状を見せると、彼らは快く通してくれた。

 サトリナにも当然気がついたが、書状のおかげか特に何か言われるということもなかった。

 ……実は黙って城を抜け出していると知ったら、どれだけ驚くだろうか。


「この先だ」

 次元の門は、石造りの建物に囲まれた、その中央にある。

 鍵がなければ到底開けられない、強固な扉を押し開き、俺たちは門の眼前に立った。

「……なんじゃ、こりゃ」

 ローガが間抜けそうに口を開けっぱなしにして驚いた。

 無理もない。

 次元の門は、"門"とは言うがその実体は、まるで泉のように溜まった渦巻く液体なのだ。

「僕も実物を見るのは初めてですけど、圧巻ですね……」

 ミリアルドも感嘆する。

 俺も初めて見た体で話を進めることにした。

「ここに足を踏み入れると、異次元へと進めるそうだ。……かなり、勇気がいりそうだ」

「ですわね。……でも、臆せず進みますわよ!」

 意気揚々、最初に飛び出したのはサトリナだった。

 駆け出し、泉に一歩飛び込む。

 瞬間、空気が歪むようにサトリナの姿が掻き消えた。


「うおっ!?」

 ローガが驚愕する。

 が、いちいち構ってはいられない。

「私たちも行くぞ」

「はい!」

 おののくローガを尻目に、俺も次元の門へと踏み入った。

 足が生ぬるい感触に包まれた、その瞬く間に俺の体は異次元空間へと移動していた。


「サトリナ」

 きょろきょろと周囲を見渡すサトリナに声をかける。

「クロームさん。……ここが、異次元なのですか?」

「ああ、そのようだ」

 サトリナは驚いている。

 だが、異空間に出たことによる驚きではない。

 これは……意外だ、と思っているときのそれだ。

「案外大したことない、と思っているな?」

「え、ええ……」

 この異次元は、一言で言えば黒い石壁で出来た神殿、というような造りをしている。

 理解不能な模様が走り、触るとほのかに暖かい石……それが、俺たちの天地左右を覆っている。

 どんな仕組みかは知らないが、その石は青白い光が走り、それが明かりになっているようだ。

 だが、その程度だ。


「私、異次元というのはもっと……わけのわからないようなところだと」

「ああ。しかし案外、ただの建物のようだ」

 まあ、今のところは、だが。

「クロームさん、サトリナさん!」

 うしろからミリアルドの声がする。

 振り向くと、ミリアルドと、妙に顔を青くしたローガが歩いてきた。

「……お前等、よく躊躇なく飛び込めるな」

「勇者戦紀では勇者クロードが何度も往復しています。少なくとも出入りは安全だとわかっていますから」

「いや、だからってよ……」

 案外ビビりなローガに苦笑しながら、俺は改めて前を向いた。


「ここからまっすぐ行って、向こう側の門にたどり着けばそこがグレンカムだ。行こう」

 先導して歩く。

 ミリアルドが言ったように、俺はこの空間には立ち入り慣れている。

 守護者と出会うまでは、さほど怖いことはない。

 ……びっくりするようなところは多々あるが。

 そして、その一つと、俺たちは間もなく出会った。

 何気なく、一歩を踏み出したその時。

「のわ!」

 真後ろにいたはずのローガの、驚愕の声を頭上から聞いて俺は、その場所にたどり着いたと気付いた。

「な、な、なんだぁ!?」

「慌てるな!」

 天井を見上げ、大声で伝える。

 俺のうしろにいたはずの三人が、今のわずかな一瞬でなぜか、はるか高い天井にコウモリのように逆さになって立っている。

 そしてその光景を、向こうも見ているはずだ。

 俺の方が天井でコウモリ状態になっているだろう。


「ただの天地逆転だ、気にするな!」

 この異次元空間は、空間そのものがまっすぐ整っていない。まっすぐ歩いていたはずが、次の一歩いきなり、天井へと移ってしまうようなことがままあるのだ。

「いや"ただの"ってなんだよ! 意味がわかんねーよ!」

 ……その突っ込みも当然か。

 俺の方が少々慣れすぎているようだ。

 仕方ない、と俺は来た道を戻った。

 すると、天井にいたはずのみんなのもとにまた一瞬で戻ってくる。

「まあ、こういうことだ。この異次元はこうなっている。気にするだけ無駄だ」

 見る分には驚きだが、歩いている感覚としては何もない。

 体が宙に浮いて天井に落下するとか、そういう現象ではないからな。


「さすが異次元……一筋縄では行かないのですね」

 サトリナもその表情に驚きと隠しきれない好奇心を見せながら、手にしていた槍を突きだした。

 すると、柄の中途からその先が消え、見上げた先の空間から続きが生え延びていた。

「でも、そうとわかればちょっと面白いですわね」

「直接的な害はないですしね」

「……お前等なぁ」

 顔を見合わせて楽しげに笑うミリアルドとサトリナに、ローガはげんなりと肩を落とした。

 サトリナもミリアルドに負けず劣らず、精神が強い人間のようだ。

 ちょっとやそっとのことでは物怖じせず、躊躇や恐怖よりも好奇心が勝る……だからこそ、城を抜け出して遊び回っていたのだろう。


「ほら、行くぞ」

「はい」

 いつまでも遊んでいるわけにもいかない。

 すっかり緊張の解れた四人でさらに進んだ。

 道自体は道なりの一本道で、迷うことはない。

 ただし、歩いていると急に景色が回る。真逆になったり、真横に倒れたり……。

 そんなこんなで十数分ほど歩いた、その先。


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