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第七十五話 神獣鏡

 ゲザーさんがそれに被さった白布を取り去った。

 すると、それはクリスの言うとおり、円い形をした鏡だった。

「まさか……神獣鏡ですか!」

「知ってんのか、ミル坊」

 さすがミリアルド、知識が豊富だ。

 俺にもその正体はわからないため、説明を任せることにした。

「映し出すものの真実の姿を写すという神器です。セントジオガルズに保管されていたんですね」

「真実を写す、か……」

 一瞬、寒気がした。

 あの鏡に写ったら俺の真の姿……クロードの顔が写るんじゃないのかと思ったのだ。


「ソルガリア大陸では、ミリアルド様の偽物が現れているのだとか。ならば、この鏡が役立つはずです」

 どんな魔術、神霊術を用いているかはわからない。

 だが、それがなんであろうと関係ない、とにかく嘘を暴いてしまえばいい。

 それが出きるのが、この神獣鏡ということか。

「神獣って……なんだ?」

 ローガが問う。

 確かに、見た目はただの鏡だ。神獣とかいうご大層な名前の要素はどこにある。

「裏の装飾です」

 ミリアルドの言葉に合わせ、ゲザーさんは鏡を裏返した。

 するとなるほど、古めかしい様式ではあるが、確かに獣の意匠が掘られている。

 あれが神獣ということか。


「神獣イグラム……イグラ族のルーツと言われている古代の獣です」

「確か、人語を介する巨大な狼だったな。人間との間に子を設けて、それが最初のイグラ族だったとか」

「へえ。……まったく知らんかった」

 なぜ当のイグラ族がこの神話を知らないのか。

 ……まあ、未だに部族意識の高い連中もいるリウ族と違って、イグラは早々に他の人間と交わった。

 神話まで遡るような話を知らないものがいてもおかしくはないが……。

 ……ローガはバカなだけだな。


「ユニコーンの捕獲に大きく貢献してくれた君たちに、私もお礼をしないとと思ってね」

 クリスは厳かな声でそう言う。

 元々俺たちの無茶を聞き入れてくれたのは向こうだ。

 礼をしなければならないのはむしろこちら側だというのに……。

「神官様の目の前で言うのも失礼ですが……ここ数ヶ月ほどの教団は、どこかおかしいと感じていました。しかし、その理由もこれでわかった。教団の内部で、己の欲望を吐き出し続けるものがいるということですね」

 クリスの言葉に、ミリアルドは痛いところを突かれたように顔を俯けた。

 図星ということだろうが……俺にはまだ何か、隠し事をしているようにも見えた。

「ミリアルド?」

 不安そうに俺の顔を見上げ、そして、観念したように小さく、ため息をついた。

「……確かに、バラン・シュナイゼルが私利私欲のために動いているのは確かです。しかし……それだけではないのです」

「しかし?」

 あの強欲百貫野郎の暴虐だけはではない、と。ミリアルドはそう言って、さらなる真実を口にした。


「今、我が教団には……大神官様が、いらっしゃらないのです」

「なに……!?」

 眼を見開いたのはクリスとゲザーさんだった。

 大神官……なんだ、また聞いたことのない言葉だ。

 だが、音の響きでなんとなくわかる。

 神官のさらに上を行く、より大きな権力の存在だ。

「まさか、大神官様が……お亡くなりに?」

「……いえ、失踪です。半年ほど前から、お姿がまったく見えなくなってしまったのです」

「……そうか、それで神官一人が大手を振り始めたということですか」

「……はい」

 クリスとミリアルドの間で話が進んでいく。

 理解の追いつかない俺はちんぷんかんぷんだ。


「おい、ミル坊。……説明してくれぃ」

 ここにもう一人、理解のできない仲間がいた。

 俺とローガ、二人の顔を見て、ミリアルドは改めて説明を始めてくれた。

「僕を含めて、教団の管理の大部分を担うのが三神官と呼ばれる存在です」

 それは俺も知っている。

 三人が協議し、その時その時の時勢に乗って教団を運営するのがティムレリア教団だ。

 ただの宗教の集まりではなく、組織化しているということだ。

 では、その上を行くという大神官とは……?


「そして、僕ら三神官の上に立ち、直接女神ティムレリア様のお言葉を聞くことの出来るお方が……大神官様なんです」

「女神ティムレリアの……言葉?」

「はい。ティムレリア様のお言葉を聞き、それを僕らに伝えるのが、大神官様のお役目です。そのお言葉に添えるように教団を動かすのが僕ら三神官ということです」

 つまり……教団は三神官が運営していたのではなく、その大神官が聞くという女神ティムレリアの意志に従っていた、ということか。

 ……知らなかった。

「じゃあ、その大神官がいなくなったってことはよ……」

 そう、ローガでさえすぐに気づける、この半年の教団の動きというのは……。

「ティムレリア様のお言葉を聞くことなく、僕らが勝手に考え、行っていたんです」

「……だから、様子がおかしいと陛下はお気づきになったわけですか」

 説明の間、待ってくれているクリスの方を見る。

 うむ、と一つ首肯する。


「最近の教団は、今まで以上に教団を大きくすることに執着していたように思えてならなかった。その真実が、それということですか」

「はい。……大神官様がいなくなった後、一番長く神官位についていたのは自分だ、と半ば強引に指揮を取るようになったのが、バラン・シュナイゼルなんです」

「あの腐れデブが……!」

 あいつには少なくない恨みがある。

 あいつさえいなければ、今頃俺たちは……!

「……隠していてごめんなさい、みなさん。教団の裏の裏の話で、神官以外の幹部にさえも伝えていないことだったので……」

 確かに、下手にその事実が知られれば信者たちは不安になるだろう。

 神の言葉が聞けない今、本当に安寧が訪れるのだろうかと。

 それこそ、組織の縮小だってあり得る事態だ。


「よく話してくれました、ミリアルド様」

「いえ。……ここまで厚い協力をしてくれる陛下に、隠し事は申し訳ないと思ったまでです」

 俺にはわからなかったが、一国の王にはわかった教団の不穏。

 それもすべて、バラン・シュナイゼルの悪行が原因だ。

 やはり、次はあいつをどうにかしないといけないみたいだな……!

 乱れた教団を直し、俺たちの不当な指名手配も解除できる。

 一石二鳥だ。

「そんじゃあ、ちゃっちゃとソルガリアに戻るか!」

「いや……それではダメでしょう」

 揚々と意気込むローガに、しかしミリアルドは冷静に答える。

「戻るとしたら船になるでしょうが、港に着いたら即座に逮捕されるのは目に見えてます」

 バランだって俺たちが大陸外に逃げたと目星をつけているだろう。

 港に部隊を待機させている可能性は十分にある。


「それじゃあどうすんだよ」

「……それを今から考えるんだ」

 船がダメだというのはわかりきっている。

 では、他に道があるかと言うと……。

 ないのが……現状だ。

「港を押さえられると、他の大陸に渡る術はありませんからね……」

「うーん……」

 当然だが、このセントジオ大陸とソルガリア大陸は陸続きではない。

 となれば海を渡るしかないのだが、それも封じられていると来た。

 いきなり打つ手なしだ。


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