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第七十四話 夜分の謁見

「失礼します」

 入ってきたのは、何かの書状を手にしたクリミアだった。

 俺の顔を見て、ほっと安心したように微笑んでくれる。

「よかった、目を覚まされたんですね」

「はい。すいません、ご心配をおかけして」

「いえ。あなたのおかげでユニコーンを捕らえられたんです。本当にありがとうございました」

 クリミアは手にした書状を俺に差し出した。

「これは?」

「陛下からです。……あの方が、外交目的以外で個人に対して手紙を書かれることなんて、滅多にないんですが……」

 作戦開始前にもクリミアはそんな疑問を口にしていた。

 ……残念ながら、それを解消することはできないだろうが。


「とにかく、目を覚ましたらすぐに読んでもらってほしいとのことです」

「わかりました」

 ということなので、俺はすぐに手紙を開いた。

 以前と変わらず相当な達筆で、文字が書かれていた。

 その内容は。

「陛下は何と?」

 ミリアルドの問いに、俺は微笑んでこう答えた。

「ご協力感謝いたします、ってさ」

「それだけ……ですか?」

「義勇参加の報酬の話だとか……まあ細かいことも書いてあるが大雑把に言えばそれだけだ」

「それだけのことなら、あとで直接お話になれば……」

 確かに、これだけならわざわざ手紙にすることでもない

、とクリミアも不思議そうだ。


「ま、陛下もお忙しいだろうからな、いつ目覚めるかわからん相手だし、手紙に方が都合がよかったんだろう」

「本当にそうでしょうか……。陛下は、怪我をした一兵士の我々にもわざわざお声をかけに来てくださるような方なのですが……」

 作戦で倒れた人間に対してなら、普通はそうするだろうな、クリスなら。

 そうしなかったということはつまり、手紙にしなければいけない事情があるということ。

 ……そう、手紙に書かれているのは作戦参加への感謝や労いだけではない。

 これからの、俺たちの道筋を決める大事な内容が書かれていた。

 



「……ミリアルド。おい、起きろ」

 草木さえも眠りにつくという深い夜。

 その理からも外れて、暗い中で起きた俺は、隣のベッドで眠るミリアルドの身体を揺する。

 かわいい寝姿を邪魔するのは忍びないが、国王直々の呼び出しだ。

「……んぅ」

 半目を閉じたまま身体を起こし、ぽけっとした表情のまま俺の顔をじっと見つめる。

「……なんれすか、ふろーむさん……」

 うつらうつらとして呂律が回っていない。

「ほら、しっかりしろ。王様に会いに行くんだ」

 頬を数回軽く叩いて覚醒を促す。

 それでもまだ、ミリアルドは眠そうだ。

 まあ、まだまだ子供だしな。


「陛下にれすか……?」

「ああ。さっきの手紙の件でな」

 手紙と聞いて少々ハッとしたか、ミリアルドは眠たい眼をごしごしとこすり、ベッドから降りた。

 話そうと口を開き……思わず出てしまったあくびをかみ殺してから……言う。

「ぅ……あの手紙、やっぱり重要なことが書いてあったんですね」

「ああ。クリミアさんには知られちゃいけないと思ってな、誤魔化しておいた」

 そして、城にいる他の誰かにも知られないよう、こんな深夜に会いに行くことになっている。

 そう簡単に説明し、俺はさらに隣で爆睡しているローガをたたき起こした。

「おら、起きろ」

「ぐあぅっ」

 頬を一発ひっぱたく。

 するとこちらはすぐさま飛び起きた。


「なんだ!? 敵か!」

「違う。今から国王に会いに行く。準備しろ」

「王様?」

 理由を軽く説明して納得してもらったところで、三人揃って俺たちは部屋を出た。

 寒さに強いローガを除く俺とミリアルドは、防寒マントをしっかり羽織る。

 なにせ今から俺たちは、寒い夜空の下に出るのだから。

「しかし、わざわざ夜に出るこたあねえだろうに」

「出来る限り話を広げないようにっていう陛下の配慮だ」

「そんな隠すような話なんでしょうか?」

「……さあな」

 ミリアルドの疑問にはうまく答えられず、そうはぐらかすことしかできなかった。

 広まっちゃならないのは、俺とクリスの関係だ。

 それを話すと、ではなぜ一旅人の俺と国王が親しいのかという話になり、俺の正体を話さなければならなくなる。

 それは……まだ、避けたいところだ。


「こっちだ」

 向かっているのは、この間俺とクリスが話した、隠れ訓練場だ。

 あそこの存在を知っているような人間はほとんどいない。

 こそこそ話をするのにはぴったりだ。

 たどり着くと、そこにはすでにクリスと、事情を知る人間の一人、ゲザーさんが待っていた。

 篝火が焚かれ、とりあえずの灯りは確保されている。

 ゲザーさんはその手に何かを持っているようだ。

「夜分、よく来てくれた」

「いえ、お待たせして申し訳ありません」

 昔の俺クロードとクリスではなく、あくまで今の俺クロームと国王陛下として話す。

「お手紙、拝見いたしました」

「ああ、ありがとう。クロームさん、ミリアルド様、そしてローガくん……君たちはこれまで、大変な道のりを辿ってきたようだね」

「と、言うと?」

 ミリアルドが聞く。

 クリスは老いの見え隠れする口元で小さく笑うと、視線をゲザーさんの方へとやった。


「例のものを」

「はい」

 返事をし、ゲザーさんは手にしていたものを俺たちに見せた。

「それは……」

 丸い……円盤型だ。白い布に覆われてはいるが、それはわかる。

「クロームさん、以前君から話を聞いた時から、これが役に立つんじゃないかと思っていてね。宝物庫にあるはずのこれを、探してもらっていたんだ」

「宝物庫……」

 かつてはこのジオフェンサーが飾られていたこともあるところだ。

 セントジオ王家の秘宝がいくつも保管されている。

 中には神話に語られるようなものも存在すると聞く。


「それは一体……」

「真実を照らし出す鏡だ」


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