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第六十八話 ユニコーンの捕獲

 来客があったのは、二日後の昼ごろのことだった。

 客室で久々にゆっくりと本を読んでいたところ、部屋のドアがノックされたのだ。


「はい」

「失礼します」

 若い女の声。サトリナ殿下ではないようだが。

 扉を開け、入ってきたのは、国防軍の青い鎧に身を包んだ女……ナクナルドで出会った、クリミアだった。

「クリミアさん……!」

「お久しぶりです、クロームさん」

 タウラスオーガに全滅させられた部隊の生き残りで、彼女の祖父にはその時手に入れた魔法石の加工を頼んでいた。

 そうか、あれから何日か経って、彼女もこのセントジオガルズに戻ってきたのだろう。


「驚きました。まさか、城の客室にいるだなんて」

「いろいろありまして……」

 説明は面倒なので省いた。

「それより、もしかして魔法石が……」

「はい。完成したものをお届けに参りました」

 彼女は手にしていた小箱を開き、俺に差し出した。

 透き通る赤い宝石が装飾された、輝く金の指輪だ。

「それを身につければ、魔術を使用するとき、魔力を増幅してくれるはずだとお爺ちゃんは言っていました」

 宝剣ジオフェンサーと同じような能力だ。

 だが、効果は比べものにならないだろう。剣の方はあくまでも多少の増幅程度。

 しかし、この魔法石があればきっと、今までと同じ威力を出すために使う魔力を半減できるはずだ。

 

「ありがとうございます、クリミアさん」

 これで、俺はさらに強くなれる。

 魔物と有利に戦うことができるだろう。

「ただ、お爺ちゃんはこうも言っていました。……魔力の増幅のしすぎには気をつけろ、と」

「え?」

 クリミアさんは神妙な顔つきになって続きを話す。

「この魔法石は、あの塊の中の、格別に純度の高い部分を使って作った。実質、ほとんど十割だ、と」

 不純物のまったくない、完全なる魔法石だということだ。

 十入れた魔力を、不純物に邪魔されることなく完全に増幅して、混じりけのない百にする。

 しかし、強すぎる力には大抵、リスクがあるものだ。


「込める魔力の量を間違えると、放った魔術を操りきれず、暴走してしまう恐れある……だから、十分気をつけろ、と言っていました」

「……わかりました。肝に銘じておきます」

 魔術の暴走……誰かを守れるはずの力で、それを傷つけるかもしれないということだ。

 気をつけなければ。

「それと、もう一つ」

「指輪のことですか?」

 いいえ、とクリミアさんは首を振る。

 そして、気持ちを切り替えるかのように、背筋を伸ばして右手のひらを左胸に当てる、この国の敬礼をした。

 知り合いとしてではなく、この国の兵士としての言葉を告げる。


「我らセントジオガルズ国防軍は明後日、カルネイアの森に棲息するユニコーンの捕獲作戦を決行いたします! クローム・ヴェンディゴ氏におきましては、この作戦に義勇による参加を願いたい!」

「ユニコーンの……捕獲?」

 緊張を解き、クリミアは再び柔和な微笑みを浮かべて、はいと頷いた。

「民たちに度々被害を出すユニコーンを、陛下は第二種危険生物と定めました。よって、かのユニコーンを捕らえるための作戦を発令することになりました」

 第二種危険生物……確か、かつてクリスに聞いた話だと、第一種が要駆除対象、第二種が要捕獲対象だったはずだ。

 第一種としなかったのは、ユニコーン自体に悪意があるわけじゃないことと、一応聖獣であることを考慮してだろうか。


「陛下はクロームさんたちが貨物船を襲った魔物や、ナクナルト近辺に発生した魔物を退治したことを知り、あなたたちに協力を願うように仰られました」

 なるほど、考えがあるとはこのことか。

 国外の人間に、森に入る特例を与えることは難しい。

 しかし、ユニコーンの捕獲作戦への義勇参加という建前があれば、俺は合法的に森に進入できるというわけだ。

 さすがクリスだ。

 ……それはいいのだが。

「ユニコーンの捕獲なんて可能なんですか?」

「かねてより訓練は行っておりました。昨日の訓練で、ばん馬の捕獲に成功いたしましたので、作戦の決行を決意なされたそうです」

 ばん馬とは、車を牽くことに特化した巨大な馬なことだ。

 通常の馬より体躯が大きく、力も強い。

 それを捕獲したとなれば、かなりの実力と技術だろう。

 得てして、生物の殺害よりも捕獲の方が難しい。


「どうでしょうか、参加してくださいますか?」

「もちろん参加します。同じ女として、ユニコーンの被害は見過ごせません」

「ありがとうございます。では、その旨を伝えておきます」

「はい、お願いします」

 最後に再び敬礼し、クリミアは嬉しそうに部屋を出ていった。

 

「これで森に入れるな……」

 クリスのことだ。たぶん、作戦中に抜け出せる手筈も整えてくれているだろう。

 ならばあとは、その時を待つだけだ。

「明後日か……」

 恐らく、危険を取り除くため、俺自体はユニコーンと直接相間見えないようにはなっているはずだが、それでも絶対回避できるとは言い切れない。

 今、そのために出来ることと言えば……。

「指輪の効力を試してみるか……」

 クリミアからもらった、この魔法石の指輪。

 この指輪で、果たして俺はどこまで出来るのか。

 その力を確認するために、俺は一人になれる夜を待った。



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