第六十七話 仄暗い道の先へ
「ったく。人が歩み寄ってやろうってのに……」
サトリナが部屋を出た後も、ローガはぐちぐちと口にしている。
それを無視し、俺はミリアルドと今後のことを話し合っていた。
「女神様に本当に会えるでしょうか……」
「わからない。こればかりは、陛下を信じるしかないな」
考えがある、とは言っていたから、無駄に終わることはないと思うが……。
少なくとも、今俺たちにできることはない。
「もし森に入れなかったらどうしますか」
「……どうするかな」
その可能性について思い当たっていなかったわけじゃない。
だが、どうするかまでは考えてはいなかった。
俺の転生の理由については最悪知らずにいてもいいが、魔王復活についてのことは聞いておきたい。
今この世界に何が起きているのか……これからどうなっていくのか……。
脆弱な人間にはわからないことが、この世界には多すぎる。
「泉に行けなかったら、ここまでの旅が半ば無駄になる」
教団から逃げ延びる意味があったから、すべてがというわけではないが、それでも無価値な旅路となったことは確かだ。
人々を助け、魔物を倒すことはできたが……それ以上に、手の届かないところで、目の見えないところで魔物に襲われた人たちがいる。
「最悪……忍び込むのも手だな」
「国の管理下にあるところにですか?」
「森に進入する程度なら数日の拘留で済む。女神様に会う代償としては安いものだろう」
「会えるかどうかもわからないのに……」
ミリアルドはまだ、本当に女神ティムレリアと会うことができるのか半信半疑というところだ。
まあ、そう思うのが当然だ。
「首尾よく泉にたどり着いても、女神様にお会いできなかったら……」
「なんとしてでも会う。会って、話を聞く。……この世界を救うためなんだ、嫌だとは言わせない」
「……クロームさん……」
俺は知っている。女神ティムレリアがこの世界を、この世界に住む人々を愛しているのを。
だから、仮に俺が会う方法を知らなかったとしても、きっと顔を出してくれただろう。
そういう人なんだ、あれは。
「もしも会えなかったらなんてことは、会えなかった時に考えるさ」
「そんな行き当たりばったりな……」
「私たちの旅は、行き先明るい道ばかりじゃないってことさ」
一歩先に何があるかわからない。それも、旅の醍醐味だ。
「今までもそうだった。私はソルガリアの王都を目指していて、たまたま君と出会った。そして運悪くバランの計略にはまって、セントジオガルズにまで来ることになった。……全部、行き当たりばったりの旅だったよ」
だから、これでいい。
もしもダメだったらなんてことばかり考えていたら、本当にダメになってしまう。
今は前に進むしかない。
例え、仄暗い道でも。
「もう今日は寝よう。陛下は数日待てと仰っていたから、この街で過ごしている間に、事態は進むさ」
「……はい。そうですね」
ミリアルドも考えても仕方ないとわかったか、俺の言葉に素直に頷いてくれた。
ローガはすでにベッドの上でうとうとしている。ミリアルドもベッドに寝ころんだところで、部屋の灯りを消した。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
焦る必要はない。
俺たちは歩んでいるんだ。
着実に、確実に。
この世界を平和にするための一歩を。
ほんの、少しずつ。




