表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/188

第六十三話 王の妹

「お兄さま……!?」

 妹……この、サトリナという少女が、クリスの?

 ……あり得ない。クリスに妹なんかいない。

 それに……仮に、俺が知らなかった妹がいたとして、しかしこの二人は似ていなさすぎる。

 クリスは銀の強い金髪だ。これはセントジオ王家に代々伝わる血脈によるもので、父王も、絵画に残る祖父、曾祖父もまったく同じ髪をしている。

 だが、目の前の少女の髪色は黒に近い緑。これは、真の王家の血筋ではない。クリスを産み落としたときに亡くなったという母君とも異なる。

 誰なんだ、この少女は。

「陛下……」

 他の二人がいるため、元・仲間ではなくあくまでクロームとして、クリスに呼びかける。


「彼女は、一体……」

「みなさん。この度は我が妹が失礼しました」

 国王陛下ともあろうものが、頭を下げる。

 俺もそうだが、ローガとミリアルドも驚きでたじろいでいた。

「か、顔をお上げください、陛下!」

「そうですわお兄さま! 悪党たちに何を謝ることがあると――」

「サトリナ!」

 クリスの叱咤が飛ぶ。

 びく、と少女の肩が震えた。

 ゆっくりと上げられたクリスの表情には、怒りと言うよりも呆れたような感情が強く出ている。


「捕らえた男二人の証言を聞いた。彼らとこの青年は無関係だ」

「え……」

 少女が目を丸くする。

 それを見て、クリスははあとため息をついた。

 額を指で押さえて首を振る。懐かしいクリスの癖だ。

「お前は正義感は強いが、せっかちで、勘違いで突っ走りやすいところがある。物事の判断は冷静に行えと何度も言っているだろう?」

「しかし、この男は……」

「謝りなさい」

 言い訳しようとした少女にクリスが言う。一回り以上離れていて、親子と言われても通じるかもしれない年齢差があるというに、その姿はまさしく兄のように見えた。


「わ、私は……その……」

「以前に何があろうと、今回お前の早とちりで彼らに迷惑をかけたのも事実だ。謝りなさい、サトリナ」

「ぅ……」

 しゅんとした、つつけば泣き出してしまいそうな悲しげな表情で、少女はこちらを向いた。

 一瞬、恨みがましくローガを睨み、しかししっかりと腰を曲げる。

「ごめん、なさい……」

「……お、おう……」

 そんな一幕を見せられては、ローガもこれ以上強くは出れないのだろう。素直に許してやったようだ。


「本当に申し訳ありませんでした」

 改めてクリスが俺たちに頭を下げる。

「ああいや、別に。誤解が解ければそれでいいんですよ、俺は」

「本当に申し訳ありません」

 一国の主にそこまでされると、俺たちも逆に困ってしまう。

 ……だがまあ、とりあえず、この少女の正体を聞いてみよう。


「あの、陛下。……妹君が、いらっしゃったのですか?」

 俺の言葉に、クリスはああそうか、という風に一瞬だけ目を細めた。

 ……やはり、俺の知らない妹だったようだ。

「ええ。彼女はサトリナ・ミラ・カールル・セントジオ。私の、義理の妹です」

「義理の……?」

 やはり、実妹ではなかったか。

「もう、十四、五年前にもなります。当時はご健在であられた前王が、川に流れ着いた赤子を見つけられたのです」

 俺は視線を少女……サトリナの方へとやった。

 川に流れ着いた赤子、か。

「前王はそれを不憫と思い、その赤子を養子となさいました。それがこの、サトリナなのです」

 なるほど、だから彼女はクリスの妹なのだ。

 あの前王はかなりのお人好しだった。拾った赤ん坊を、わざわざ自分の養子にするぐらい、やりかねないな。



「血こそ異なるとはいえ、王族の娘として教育してきたつもりですが……。この度は本当に……」

「だ、大丈夫ですって……」

 三度謝罪をしようとするクリスを、ローガはたじろいで止める。

 サトリナ、か……。なるほど、そんな事情があったのか。

「ご迷惑をかけたお詫びに、城の客室を用意しております。今日はどうか、そこでお休みになってください」

「……よろしいのですか?」

 宿を取ろうとしたところで捕まってしまい、しばらく拘束されていたから、この申し出はありがたかった。

 しかし、建前上どこの馬の骨とも知らない俺たちを、城内に留めておいていいのだろうか。

 そう思って聞き返すと、クリスは口角をわずかにあげて微笑んだ。


「ええ、大丈夫です。……神官様ご一行となれば、怪しいわけもありませんから」

 クリスの視線は、俺の隣のミリアルドを向いていた。

 ……やはり、気付いていたか。

「ぼ、僕は……」

 ごまかそうとしたのだろう、口を開こうとしたミリアルドの頭をぽんと叩いて黙らせる。

 代わりに俺が話し始めた。

「了解しました。陛下のお言葉に甘えさせていただきます」

「それはよかった。では、兵に案内させましょう」

 クリスがゲザーさんへ視線を送る。

 こくりと一つ頷いて立ち上がり、部屋の扉を開けた。

「どうぞこちらへ」

「はい」

 不安そうに俺を見上げるミリアルドに、心配するなと言外に目で伝え、俺はゲザーさんに着いていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ