第五十一話 元気な別れ
「わっ」
窓の外を覗いてぼんやりしていると、急に視界が真っ暗になった。
「な、なんだ!?」
「落ち着いて。トンネルに入っただけですから」
トンネル……そうか、確かにナクナルトからラクロールの間には山がある。そこを切り開いて列車の通る道にしたのか。
中には光が届かないから、こんなに暗くなるのだろう。
……と、視界が晴れた。
トンネルを抜けたのだ。
「……おお」
すると、世界が変わっていた。
緑が茂っていた窓の外の景色。それが、一面の銀世界へと姿を変えていたのだ。
「これを見ると、セントジオガルズへ近付いた実感が湧きますね」
「ああ。……さすが、万冬の大国だ」
セントジオガルズの存在する、セントジオ大陸の北半は、大地がほぼ万年雪で覆われているのだ。
山を挟んで気候が大きく異なるため、南半では通常の四季があるが、こちらは違う。
雪が解けきるのは冬から春、夏にかけて特に暖かかった年のみ。十年あって二、三度あれば多い方だ。
そうでないほとんどは、雪に足を沈める毎日になる。
「うは、見るだけで寒そうだ」
「ええ。とはいえラクロールはまだ、暖かい方ではありますけどね」
「セントジオガルズは、真夏になっても防寒具が手放せない。……らしいな」
前の旅で来たときは、それを知らずに苦労した。
ラクロールに着いたら何か厚着できるものを買った方がいいだろう。
「あと少しで到着ですね。……そこでお別れになっちゃいますね」
「そうだなぁ。寂しくなるぜ」
ソルガリアから船に乗り、このセントジオ大陸まで、決して長いとは言えないが、それでも結構な時間を共にしたローガ。
その力には何度も助けられたが、そもそも俺たちとは目的が違うのだ。
致し方あるまい。
「例え別れても、お前等のことは忘れないぜ!」
「ああ。こっちも、お前みたいな奴のことは忘れられないよ」
いろんな意味で強烈な奴だからな、こいつは。
「武闘大会、頑張ってくださいね」
「ああ、旅の途中にでも応援してくれよな」
「覚えていたらな」
窓の外に、街並みが見える。
同じ大陸だからか、ナクナルトと似たような建築様式の建物が並ぶ、そこがラクロール。
その駅の中へ列車は滑り込んでいく。
徐々に速度を落とし、そして、完全に止まった。
「じゃあな、クロ、ミル坊!」
列車から降り、乗るときに貰った真鍮の券を返して駅から出て、そこでローガはにかっと笑ってそう言った。
寂しい気分になるはずなのに、その笑顔を見ると元気が出る。
「ああ、また機会があったら会おう」
「そうですね。また会いましょうね、ローガさん」
「おう!」
大剣を担ぎ、大手を振ってローガは歩き去っていく。
その向こうに見えるのは、このラクロールの中で一番巨大な建造物……闘技場だ。
昔の実力があれば、俺もそこそこ戦えただろうが……今は、まだまだだな。
「それで、セントジオガルズにはどうやって?」
列車に関してはまったく知らないので、俺は素直にミリアルドに聞いた。
「このラクロール発のものがあるのですが……残念ながら、早くても明日の朝のようですね」
壁にかけられた表を見ながらミリアルドは言う。
なるほど、列車の発車する時刻をここで見れるみたいだ。
だが、今日はこれから列車の点検があるようで、列車は出発しないようだ。
「列車の運行もまだまだ試験中ですからね。仕方ないですし、今日は宿を取って休みましょう」
「そうだな」
駅を出て、街に出る。
近くの宿に適当に入り、二人部屋を借りることにした。
荷物を置いてベッドに腰掛けるが、寝るにはまだまだ早い時間だ。
さて……これからどうするか。




