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第五十話 神霊術と魔術

「……なあ、一ついいか?」

 ローガが言う。

「はい、なんですか?」

「……神霊術と魔術の違いって、なんなんだ? 別物なんだよな?」

「そうか、ローガは魔術を使えないから、それについてもよく知らないのか」

 それなら仕方ない。魔術を使うには生まれ持っての才能が必要だ。

 使えないと知れば、進んで学ぼうとも思わないだろう。


「魔術は魔素マナを、神霊術はその名の通り神霊を用いて使うものです。似ているようで、ちょっと違いますね」

「それがよくわかんないんだよなぁ。使えない人間にとっちゃ、どっちもどっちって感じだ。いっしょくたに魔術に纏められないのか?」

 まあ、言いたいことはわからんでもない。

 素人からすればどっちも超常現象を起こすという点では変わりないだろうしな。


「一応教団の神官である僕が言うのもなんですが……」

 ミリアルドは少し困った顔でそう言い出した。

 一応ではなく、ミリアルドは神官だ。……偽物のせいでソルガリア本土では指名手配されているが、それは変わりようのない事実だ。

「神霊術というのはほとんど、ティムレリア教の神聖な雰囲気を高める目的で作られたようなものなんです」

「……雰囲気?」

 聞き返したのは俺だった。

 確かに神霊術の大本は教団が作り出したものだというのは知っている。

 しかし、雰囲気とはどういう意味だ?


「教団が発足した頃の昔の話なのですが……」

 確か……大本の宗教としては百五十年ほど前で、大きな教団としては百年ほど前、だったか。

魔素マナを使う魔術は多くの人々が使うことができます。当然、その中には悪人もいます」

「魔術を使う賊なんか珍しくもないからな」

 俺も昔から何度も襲われている。すべて撃退してきたがな。

「それに、魔術を使う魔物もいます。なので、魔術というものそれ自体を、恐ろしい術方として嫌悪する人々が少なからず存在したのです」

「なんとなくわかるな。使えない身からすると、魔術がまったく怖くないわけじゃないからな」

 当たればケガをするし、下手をすれば死ぬ。

 それに恐怖を感じるのは至極当然だ。


「なので、教団としては人々から恐怖を取り除く、新しい形の魔術を求めたのです」

「それが……神霊術?」

「はい。はじめは魔術をそう呼称することで……言い方は悪いですが、人々を騙し、安心させていました。しかし、やはり本質から変えないと真の安息はないとして、神霊術は編み出されました」

「……で、結局二つの違いはなんなんだよ」

 長話に飽きたか、ローガが単刀直入を求めた。

 俺は興味があるのだが、聞いた本人がそう言うのなら仕方がない。

 俺は後で改めて聞くことにしよう。


「はっきり言ってしまうと、体内の魔素マナを使うのが魔術、大気中の魔素マナを使うのが神霊術です。二つの主な違いはその程度、ということですね」

魔素マナ?……神霊はどこに行ったんだよ」

「大気中の魔素マナを言い換えていると思ってくれて構いませんよ。ほとんど同じものです」

 ……そういうことだったのか。

 俺も神霊術にはさほど詳しくはない。だから神霊というものが本当に存在するのだと思っていたのだが……。

「へえ……」

 せっかく教えた割に、ローガはわかっているのかわかっていないのか、微妙な返事をする。

 まあ、暇つぶしにはなったか……。


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