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第四十九話 魔動列車

 数時間の長い道のりで、座り疲れて尻が痛くなる頃、馬車はナクナルトにたどり着いた。

 ここまで連れてきてくれた御者に別れを告げつつ、俺たちは街の中に入った。

 ナクナルトはまさに都会と言った風で、石造りの舗装された地面や、白い街並みは美しい。

 だが、ふと顔を横に向けると、見慣れぬ鉄製の箱が、街の中央を駆け抜けていくのだ。


「あれが……?」

「はい。魔動列車です」

 ミリアルドに教えられ、俺は走っていった箱……列車を目で追った。

「ずいぶんデカいな……」

「何百人って人数を運ぶからな。……さ、駅場に行こうぜ」

 先行するローガに着いていく。

 進むに連れ、同じ道を行く人々も増えていく。この人たちが皆、あの列車に乗るのだろうか。

 たどり着いた建物……ローガは駅と言っていたか。そのの中、受付の人に目的地を告げて三人分の運賃を払う。

 ローガから渡された、真鍮に数字が掘られた乗車券を手に、さらに奥に行く。


「おお……」

 するとそこに、巨大な列車が横たわっていた。

 窓がついた鉄の箱が数台、芋虫のように連なっている。

 その一つ一つに入り口がついていて、そこから大勢の人間が箱の中へと進入している。

 ……本当に、乗るのか、あれに。


「えっと……133だから、二号車だな」 

 手にした券には134とある。ミリアルドのものは135。……恐らく、席の順だろう。

 勝手がわからなすぎるため、俺はただただローガのうしろを着いていった。

 ローガが乗り込んだ箱の中へ、俺も勇気を持って乗り込む。

 ……特に、どうということもない。まだ動いていないから、当たり前か。


「あそこだな」

 協会にあるような横に長い椅子が、向かい合うように設置されている。それが、箱の中に……計、六組。

 その後方辺りの右側の椅子に、三人で並んで座った。

「い、いつ動くんだ?」

 なんだか緊張する。こんな鉄の箱が、それも何百人も乗せた重量のものが、本当に動くのだろうか。

「あと十数分ぐらいでしょうかね」

「だな。……てか、始めてみたぜ。そんな風に狼狽えるお前」

「そ……そうか?」

 確かに、自分自身落ち着きが足りていない気がする。

 小さく深呼吸して、浮きかけた精神を保った。


「飛空艇に乗ったときはもっと落ち着いていたじゃないですか。どうしたんですか?」

「い、いや……。あの時は魔王撃退のことで頭がいっぱいだったからな。別の方に意識が向いていたというか」

 あの時と比べて、今は余裕がある。

 いろいろ考えてしまっているんだろう、たぶん。

 ああ、空を飛ぶのは有翼種族に乗ったときに経験済みだからかもしれない。

 結局、自分でもよくわからない……。

 そんな下らない話をしていると、がらんがらんと鐘が鳴り出した。 

 何だ、今度は。


「出発みたいですよ」

「そ、そうか」

 なんとなく姿勢を正す。

 外で乗客を誘導していた人が中に入り、開けられていた扉を閉める。

 向こうの箱の方へと歩いていってしまう。たぶん、係員が集まる場所でもあるのだろう。

 と、また鐘が鳴り出した。

 それが止むとほぼ同時、ぐんと体が椅子に押しつけられるような重さを感じた。


「おぉ……」

 窓の外の景色が流れ出す。

 発車したのだ。

 ぐんぐんと速度が増していき、景色が一気に線へと変わっていく。

 なんて速度だ。

 瞬く間に街を抜け、外の平野へと出る。

 立ち並ぶ山や森、林が一瞬で視界から過ぎ去ってしまう。本当に速い。

 

「三時間もあれば到着しますよ」

「……三時間? ラクロールまでそんな短い時間で……」

 俺が当初考えていた日数では馬を使っても一週間だ。それが半日もかからないとは……。

 人間の進化とは恐ろしいものだ。


「しかし、この魔動列車はどうやって動いてるんだ?」

「魔法石を使ってるんですよ。装飾品に加工出来ないような、純度の低いものを大量に燃料として使用しているんです」

 確かに、ナクナルトからラクロール辺りは魔法石の採掘できる鉱山が大量にある。

 だが当然、その優劣には差がある。さっき俺たちが手に入れた物は最上の最上。

 一方で、一応魔法石と呼べるという程度の、ほとんど路傍の石と変わらないようなものだって当然ある。

 機関室で動力に変えているのはそういったものだと言う。


「魔法石を燃やすと石は溶けますが、固まった魔素マナは残ります。それを専用の炉へ入れることで魔素を動力に変え、この列車は走るのです」

 ミリアルドは列車について丁寧に教えてくれる。

「飛空艇はミリアルドの神霊力を使ってたよな?」

「はい。でも原理は同じです。人の力を使うか、それを魔法石で補うかの違いでしかありませんから」

 魔力で動く機械……だから、魔機マキナ、か。

 勇者時代にはなかった技術が、世界にはここまで普及しているというのだ。

 時代は進歩するものだ。


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