第四十六話 魔法石
空が赤く焼ける頃、馬車が迎えにやってきた。
クリミアも着いてきていて、町へ戻る道中で洞窟での戦いを報告した。
「……そうですか。仇を果たしてくれたんですね」
「はい。まあ、ちょっと大変でしたけど」
まだまだ体力は回復し切らない。今日一日眠らないとダメだろうな、これは。
「ありがとうございます。……きっと、仲間たちも報われます」
嬉しいのか、それとも悔しいのか。
クリミアの目には涙が溜まっていた。
例え魔物を倒したところで、死んだ人たちが帰ってくるわけではない。
悲しいが……それが、自然の摂理だ。
「ああそうだ。クリミアちゃん、洞窟の中で変なものを見つけてさ」
ローガが言う。それに併せて、俺は抱えていた魔法石をクリミアに見せた。
「こいつです。これのせいであの魔物が現れたんだと考えてるんですが……誰の盗難物か、わかりますか?」
これだけの大きさの、しかもこんな純度の高い魔法石となると、その価値は非常に高くなる。
盗まれた人間は気が気でなかっただろう。傷一つついていないのは奇跡的だ。
「これは……いいえ、魔法石の盗難被害は、出ていなかったはずです」
「え?……それじゃあ……」
「あの洞窟に元々あったもの、ということですね」
ミリアルドが言う。盗難物ではなかったようだ。
それがわかるとローガは、ほほうと何かを考えついたような顔になった。
「それなら、俺たちが貰っていいんじゃねえか?」
「はあ?」
俺が手にしていた魔法石をひょいと取り上げ、窓から差し込む夕日に透かしてローガは言う。
「こいつは、あの魔物を倒して手に入れた戦利品ってわけだ。だったら、倒した俺たちが貰ったって文句はねえだろ?」
「そうですね。構わないと思います」
「そうなんですか?」
クリミアの言葉に聞き返すと、はいと頷いてさらに続けた。
「国に黙って大がかりな採掘をしたというのなら話は別ですが、それに関してはあくまでも拾っただけですからね。何かの罪にはならないと思います」
……まあ、恐らくは盗賊が無断で掘り当てたものだろうから、確かに俺たちが何かをしたわけではない。
法の穴をついているようでやや良心が咎めるが、国防軍が言うのだから問題ないのだろう、きっと。
だが、それはそれとして、だ。
「そんな大きなものを持って旅をしようってのか?」
「え?」
「軽くはない代物だ。荷物がかさばるぞ」
かなりの価値があるから手にしておきたいという気持ちは分かるが、だからと言って考えなしに持ち運べるようなものじゃない。
価値が下がらないよう傷つかないように運ぶのも一苦労だ。
「……それは、そうだけどよ……」
やはりというか、特に考えなしだったようだ。
はあと一つため息をつき、俺はクリミアに頼み事をする。
「すいませんが、これは国に回収してもらえませんか? 下手に流通させると、悪い人間に悪用される恐れもありますし」
誰かに売り払ったとして、それが巡り巡って再びどこかの賊の手に渡らないとも限らない。
そうなってしまうぐらいなら、ここで手放し、代わりに国が管理する方がいいだろう。
「それもよろしいですが……。一つ、提案があります」
しかしクリミアは、予想外にそんな事を言い出した。
「実は、町に私の祖父が住んでるんです。石細工の職人なんですが……魔法石の加工も得意なんですよ」
「魔法石工……ということですか?」
魔法石は普通の岩石とは性質が大幅に異なる。単なる石細工とは勝手が大幅に違うのだ。
だから魔法石を加工することができる人間は限られているのだが……。
「はい。なので、その魔法石を加工して、あなたたちの装備に変えてしまいませんか?」
「私たちの装備……」
前に、魔法石付きの杖を持った男と会ったことを思い出す。
魔法石があれば、魔術を使う時にその力を増幅できる。 すなわち、俺の魔剣術をまた強化することができると言うことだ。
「どうでしょうか?」
「いいんですか? これだけの魔法石、かなり貴重だと思いますが」
「あなたがたは町を救ってくれた英雄です。そのぐらいのこと、なんてことありませんよ」
クリミアは笑顔でそう言ってくれる。
英雄を気取るつもりはないが……厚意からの言葉であることは確かだろう。
それに、今後も魔物と戦い続けることを考えると……戦力の強化は果たしておきたい。
ならば。
「わかりました。では、お願いします」
「はい。町に着いたらご案内しますね」
馬車はまっすぐ町へと向かう。
俺たちが救った町へ。
宝剣ジオフェンサー、そして魔法石。この二つの装備があれば、俺の魔剣術はさらに高まっていく。
かつての勇者の実力にはまだまだ遠く及ばないが、それを補ってくれるものがあれば、それに追いつくことも夢じゃない。
魔王の復活を阻止し、この世界に平和を取り戻すためにも……。
俺はもっともっと、強くなりたい。




