第三十六話 船上の夜
そして、夜。
当然だが、夜には眠る。
しかしそこで、一つ問題が発生していた。
この部屋にはベッドが二つしかないのだ。
俺とミリアルドとローガ、三人が揃っているのにも関わらず、だ。
「お前ら、船賃いくらだった?」
「1500だ」
ローガの質問に答えると、なるほどね、と一人頷いた。
「船賃なんだけどな。一人当たり、食事代が500、ベッド代が500って内訳なんだ」
「……計算が合わないな」
俺とミリアルド二人分なら、2000になるはずだ。
ということは、つまり。
「たぶん船員は、お前とミリアルドがはじめから一個のベッドで寝るもんだと思ってたんだな」
やはりそういうことか。
……恐らく、あの船乗りの前でミリアルドのことを女の子だと誤魔化したのもその原因の一つだろう。
妹分といっしょに一つのベッドで、なんて珍しくもない。
「どうしましょう……」
困った顔をするミリアルド。……というか、今の今まで気付かなかったのだろうか。
となれば、案外ミリアルドも抜けているところがあるみたいだ。
俺は気付いていたが、正直、特に問題はないと思っていたから敢えて口にはしなかった。
「簡単だ。いっしょに寝ればいい」
至極単純な話だ。ベッドが一つしかないなら、一つのベッドで二人で眠ればいい。
「えっ」
しかしミリアルドは、俺の発言に目を見開いた。
「いやあの……その、迷惑じゃありませんか?」
「仕方ないし、別に構わないさ。昔は、今の君ぐらいの年の弟とよく寝ていた」
「それはご家族の話でしょう? 僕は他人ですし、その……」
まあ、ミリアルドの気持ちもわからないでもない。
子どもとはいえミリアルドも男だ。女性と同禽するのは恥ずかしいのだろう。
「ならローガと寝るか?」
「おう、俺は別に構わねえぜ。寝相の良さは保証しねえけど」
「う……」
ミリアルドは目を伏せ、うーんと悩んでしまう。
そしてしばらくしてから、俺の方へとぺこりと頭を下げた。
「……ご迷惑をおかけします」
選ばれたのは俺だと言うことだ。
まあ、俺がミリアルドの立場でも、ローガを選んだろう。
「へへ、教団の神官って言っても、やっぱ年頃の男なんだな」
「え……?」
ローガの発言にミリアルドが目を丸くした。
表情だけの、どういうことかという問いに、ローガはなぜだか得意げに言う。
「年上のお姉さんって憧れだよな、ってことさ」
「な……!」
ミリアルドの顔が真っ赤に染まる。
……図星ということだろうか。
「ち、違いますよ!」
「照れんな照れんな。いやあ、俺もガキの頃はさ、隣に住んでた姉ちゃんが気になってた頃があって――」
「ですから、僕は――」
夜更けだと言うのにあーだこーだと言い合う二人は、まるで仲のよい兄弟にも見えた。
まだ出会って半日ほどのはずなのに、こうまで距離を縮められたのはローガの快活な性格のおかげだろう。
そして、俺も。
「二人とも、いい加減にしろ。隣の部屋に迷惑だぞ」
「あ……。は、はい、ごめんなさい」
素直に謝るミリアルドと、その横で未だにうんうん頷くローガ。
……俺も、新たな出会いを楽しんでいた。
かつての、仲間たちとの旅を思い起こすような……そんな、出会いを。




