表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/188

第二十一話 迫り来る暗雲

「これが……飛空艇……!」

 一目見た印象は、横から見た魚、だろうか。

 薄く、平べったい青い身体に、白い長い尾が取り付けられている。背びれが天に伸び、腹びれは恐らく折りたたまれているのだろう、腹部に沿うように在った。

 身体の横に取り付けられた羽も同じようで、あれが広がれば見目の印象は魚から鳥に変わるはずだ。

 

「さあ、乗りましょう。これを使えば、数時間で魔王城までたどり着けます」

 かつての旅では二年以上の時間がかかった魔王城へ、たったそれだけで……。ロシュアを出発した日から考えても、二週間と経っていない。

 妙な無常感に襲われた。

 だが、逆に言えばそれだけで世界は平和になる時代だということだ。

 もはや魔王の栄華は有り得ない。この大地は人間のものだ。

 

 リハルト、ミリアルドに続いて飛空艇に乗り込む。

 外見は薄く見えたが、近付くとそれなりの大きさがあった。空を飛ぶなどと言うのだから当然か。

 中から外を見通せる大きな硝子張りが真正面。その前には、今の俺にはまったく理解出来ない大きな物体が置かれている。

 そしてそのうしろには、椅子が複数整列して置いてあった。

 あくまでも予想だが、あの大きな何かでこの飛空艇を操舵するのではないだろうか。剣の柄のような二本の棒が、そこから飛び出ている。

 そして椅子は、俺たちのような飛空艇に乗る人間が座るためのものだ。

 

「みなさんは座っていて大丈夫ですよ。この飛空艇は、私が操縦します」

 ミリアルドが大きなそれの前に立ち、二本の棒を握る。

 向かって右の椅子にリハルトと護衛の神聖騎士たちが座ったため、俺たちは逆の椅子に座った。

「飛空艇って、こんな感じになってるんだねえ……」

 存在は知っていたが、中には入ったことのないマーティも興味津々のようだ。

 中に入ってまた気を落としやしないかとも思ったが、杞憂なようでよかった。

 

「起動します」

 ミリアルドが言うと、操縦部から飛空艇全体に光の線が走った。途端、先のエレベーターのように、身体が浮き上がったような感覚があった。

 飛空艇が……浮いているのだろうか。

 ミリアルドが手元で何かを操作すると、正面向こうの闇が二つに割れた。

 光がどんどんと広がって、向こうに青空が見えた。

 本当に、空に行こうというのか。

 

「では……発進します!」

 身体が椅子に、ぐっと押し付けられるような感覚。

 重い……というほどではないが、重さを感じる。だが、すぐに慣れてしまった。

 かつて、有翼種族にまたがって飛行したことはあったが、こんな感覚を味わったことはない。

 これが飛空艇か。


「……よし。速度が安定したので、もう立ち上がっても大丈夫ですよ」

「……そ、そうか」

 身体が押し付けられる感覚はもはやない。言われた通り、立ち上がっても何も感じなかった。

 気になって、正面の硝子張りから外を覗いてみた。すると、ものすごい速度で景色が流れていくのが見えた。

「うひゃあ……」

 いつの間にか隣にいたマーティもおかしな声をあげている。いや、俺もそんな声を出したいような気分だ。

 どんな速馬に乗って駆けたってこんな速さが出ることはない。

 これなら、本当に数時間で魔王城へ辿り着くだろう。

 

「お父さんとお母さんは、こんなものを作ろうとしてたんだね……」

「ああ。……本当にすごいな、これは」

 これが、人間が作り出した叡智か。

 今はこの飛空艇や、先程のエレベーターぐらいだろうが、魔機がもっと普及すればいろんな技術が進歩するだろう。

 人間の進化は止まらない。魔術が授けられた時以上に、人間の文化は発展するだろう。

 

「魔王城到着まで休憩です。みなさんそれまで、どうかごゆっくり――」

 そう、ミリアルドが言うか言わざるかと言ったところで突如、どこからか、耳をつんざくようなとんでもない音が鳴り出した。

「な、なんだ!?」

「警報……! まさか!」

 ミリアルドが操縦部へと戻り、何かを操作する。

 すると、後部に小さく窓が開いた。そこから覗くと、飛空艇の背後から何かが接近しているのが見えた。

 あれは……雲?――まさか!

 この飛空艇に差し迫る速度で、黒い雲が空を翔ける。

 もちろんただの雲ではない。俺はあの雲の正体を知っている。

 

「雷雲?……あれって、ノーテリアから見えてた雲?」

 マーティが言った。

 そうか、季節外れに現れた嵐の正体は、コイツだったのか……!

「あれは、ただの雲ではありません!」

 ミリアルドが言う。ミリアルドも知っていたのか。

「あれは、嵐を身に纏う魔物――!」

「空を暗雲にて覆う、天空の支配者!」

 俺の言葉に、ミリアルドが続く。

 奴の名は――

「――テンペスト!」

 

 暗雲を振り払い、その正体を表す。

 風に削られた岩山のような、荒れた皮膚。全身から突き立った角には雷鳴が走る。

 暴、と嵐風のような鳴き声を放つ口腔には、剣山のような牙が生え並ぶ。

 眼孔はあれど瞳はない。しかし、その視界は俺たちを視認する。

 それが、天空の支配者、テンペストだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ