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第十九話 駆け引き

 翌朝。

 結局あのまま、俺たちは一つのベッドで寝てしまった。

 抱きついたままのマーティをいつも通り叩き起こし、朝食の場へと向かう。


「飛行艇、乗せてくれるかなぁ。……ふぁう」

 目をこすり、あくびを噛み殺しながらマーティが言う。

 そう、昨日は守るだのなんだので盛り上がってしまったが、そもそも乗せてくれると決まったわけじゃない。ミリアルドの方は許してくれそうだが……。

「あの赤髪の神聖騎士が厄介だ。堅物そうだからな」

「だねえ」

 とにかく、交渉してみるしかない。

 これは願ってもないチャンスだ。最終目標に一気に近付くことができる。

 

「あ、おはようございます。クロームさん、マティルノさん」

 昨日も夕食を摂った中部屋へ入ると、ミリアルドや神聖騎士たちが勢揃いしていた。

「おはようございます、ミリアルド様」

 そんな中、唯一元気よく挨拶をしてくれたミリアルドにのみ、俺も挨拶を返す。

 要は、騎士たちは俺たちをそう快くは思っていないのだろう。

 当然か。

 

「昨晩はよく眠れましたか?」

「はい、おかげさまで。疲れもしっかりとれました!」

 マーティが答える。

 ……まあ、マーティは人を抱きまくら代わりに熟睡していたからな。

 抱きつかれた側の俺はたまったものじゃなかったが。

 

「揃いましたし、朝ごはんをいただきましょうか」

 部屋の脇に待機していた教団員に伝えると、朝食を持ってきてくれる。

 パンとベーコンに炒り卵。家で食べていたものと似たようなものだ。

 だが、味は……。

 母さんの方が、美味しかったな。

 とは言えマズいわけではない。問題なく食べ進めた。

 

「それで、ミリアルド様。一つご相談があるのですが」

「はい、なんでしょう」

 なんでもどうぞ、とミリアルドはにっこりと微笑む。

「昨日の、魔王の撃滅の件なのですが」

 だがその言葉に、脇に座るリハルトの目が光った。

 まだ文句は言ってこなかったが……すでに、剣は構えられているようだ。

 臆さず突っ込んだ。


「私たちにも、お手伝いさせていただけないでしょうか」

「――断る」

 言い終わるかどうか、というところでリハルトが言った。やはり切り込んできたか。

「あなたには言っていません。私はミリアルド様に聞いているんです。……どうでしょう、ぜひ戦力の一端にでもお加えいただけませんか?」

「そうですね。確かに相手は魔王。どんな不測の事態が起こるかわかりません。一緒に来てくださるというのなら、ぜひ」

「ミリアルド様!」

 当人は快く許してくれたというのに、お付の舅騎士が小うるさい。


「よろしいのですか! このような我らと何の関わりもない人間を連れていくなど!」

 怒気荒く、リハルトは告げる。

 やめろ、唾が飛ぶ。

「それは違います」

 一方でミリアルドは至極冷静に、リハルトを諭す。


「彼女らはこの世界、この大地に住む民衆。教団とは関わりがないかもしれませんが、魔王が復活し、魔物が溢れれば真っ先に被害に合う方々です。となれば、魔王退治に同行したいと言うのなら、我らに拒否する権利はありません」

「危険が伴います!」

「それなら大丈夫でしょう。彼女らはどうも、腕の立つ方々のようですから」

 目の前で剣技を見せたわけでもないのに、ミリアルドはそう言う。

 昨日も俺たちのことを早々に危険人物ではないと断定した。リハルトとの会話を聞いていたのだとしても、あそこまで早くなど有り得ない。

 何かを察知する神通力か――。やはり、この若さで神官位というのは伊達ではないようだ。

 

「しかし……!」

 魔王城への同行がそこまで嫌なのか、リハルトはさらに反論しようとする。

 だがその時、部屋のドアがノックされ、外から教団員が一人入ってきた。

 リハルトの脇に近付き、何事かを耳打ちする。

 すると、その顔色が変わった。

「……わかった。礼を言う」

「何かあったのですか?」

 リハルトはひどく苦々しい顔で俺たちを見渡し、そしてミリアルドの方を向いて報告する。

 

「教団の別団体がやってきたようです」

「……そうですか。それは、少々マズいですね」

「別団体……? そうか、お忍びだって……」

 ミリアルドたちがここにいることがバレれば問題になるということだ。

 だが……これはチャンスかもしれない。

 

「リハルトさん」

「……なんだ」

「私たちを連れて行ってください。さもなければ……あなたたちがここにいたということを、告げ口します」

 これは駆け引きだ。やってることは汚いが、魔王を滅ぼし、世界を救うためには仕方がない。

「そうですかー。それは、困りましたねー。そんなことをされてしまったら、僕たちの計画に支障が出てしまいますー」

 わざとらしく、困ったように額に手を当て、思いっ切り棒読みでミリアルドが言う。ちらりと、瞳だけの視線が俺の方を向いた。

 どうやら俺たちの味方をしてくれるようだ。

 リハルトは苛立ちと諦めの入った皺を眉間に刻み、大きくため息をついた。

 

「わかりました……! お前たち、急いで支度をしろ!」

 ようやく折れてくれたようだ。

 感謝の念を込めて、昨夜見た神聖騎士の敬礼を真似た。

「了解です、神聖騎士サマ」


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