第百七十八話 二人の連携
「まずは僕が強力な神霊術を撃って、一時的に闇の守りを剥がします。その間に、みんなで強力な一撃を叩き込むんです」
「なるほど、単純だ」
「でも……そういうのが一番、難しいんだよね……」
イルガとマーティがそれぞれ言う。
強力な一撃と言うのならば簡単だが、魔剣術を使える俺や高威力の炎を扱えるイルガは、ただ全力の技を放てばいい。
しかし、ローガやサトリナやマーティは、そういった術を持っていないのだ。
「そうか? 難しいことなんかありゃしないだろ」
だが、ローガはあっけからんとそう答えた。
「確かに魔術とか魔剣術とかみたいに、ドーンと行くようなもんは持ってねえけどさ」
大剣を構え、獲物を探る野獣の目で睨む魔神機を睨み返す。
「そんならそれで、渾身の一撃ってもんをぶち込むだけだ」
「ええ、その通りですわ。一発でダメなら十発。それでもダメなら百、千。足りない分は数で補います」
サトリナも同調し、勇ましい笑みを浮かべた。
……そうだ。俺は何を考えていたんだ。
方法とか、手段とか、そんなのは二の次三の次。
今俺たちが持たなければならないのは、奴に勝つという想いと、それを実行する勇気だけでいい。
どうせ策とも言えない策なんだ。出来ることをただ、やるだけでいい。
「マーティ。そういうことだ。……残る矢を全部、突き刺してやればいい」
「……ま、それしかないか。うん、わかったよ!」
開き直って、マーティはにししと笑った。
そう、それでいい。
覚悟が決まって、俺たちはミリアルドの方を見た。
ミリアルドも無言で頷いて、魔神機へと覚悟の眼差しを向ける。
何か感じ取ったのだろう、魔神機が大口を開けて高らかに咆哮した。
「行きます!」
「ああ、頼む!」
もはや後には引けない。決まれば勝ち、でなければ負けて死ぬ。
ここが、全力の出し時だ。
強靱な二脚で地を蹴って、魔神機が突進してきた。速い。
全員が散り散りに回避する。
しかし僥倖、自然とみんなで囲む形になった。
「来たれ、創世の嵐!」
ミリアルドが前方に開いた掌を突き出す。そこを中心に、金色の魔方陣が顕れる。
「輝く女神の名の下に!」
魔方陣に光の粒子――大気に存在する多量の神霊が吸収され、巨大な光の球が魔方陣の前面に形成されていく。
「遍く物を、眩く滅せよ!――『ビッグバン・ストーム』!」
球体から夥しいほどの光の嵐が迸る。まるで星の輝きのような光流が、魔神機目掛けて突き進む。
「みなさん! 頼みます!」
魔神機と衝突する。途端、光は瞬く間に霧散した。
すさまじい威力に見えたが、ダメージはない。――いや。
ミリアルドの言葉を信じるならば、これで奴の闇の守りが剥がれたのだ。
ならば、奴にダメージを与えるのは――俺たちだ。
剣を正面に構え、魔力を注ぐ。必要なのは、奴を一撃で粉砕する究極の一撃だ。
生半可な術ではふさわしくない。
ただ純粋に強力な――最強無敵の魔剣術を。
「行くぜぇぇぇぇぇッ!」
俺の脇をすり抜け、ローガが駆け出した。
「わたくしも!」
サトリナが追う。二人は並んで、魔神機へと飛びかかった。
「ちょいさぁッ!」
大剣を振るう。魔神機がそれを防ごうと腕を掲げた。
刃が腕へとめり込んだ。――効いているのだ。
「脇の下が甘いですわね!」
掲げた腕の下をくぐり、サトリナが飛びかかる。
火炎を纏った槍を振るい、狙うは地に立つ二本脚。
「やあああああッ!」
十字に払い、大きく横へ薙ぐ。その軌道の通りの傷が刻まれる。
魔神機が脚を持ち上げて、サトリナを踏み潰さんとする。
攻撃を中断、サトリナは迫る足から逃れるように後方へ跳んだ。
「ローガさん!」
「わーってらあ!」
その隙に、背後へ回っていたローガが大剣を逆の足へと叩きつけた。
斧で木を切るように、何度も、何度も。
数発。大剣の刃が半ばほどまで食い込んだ。
片足を上げ、バランスを欠いていた魔神機が体勢を崩し、膝を着く。
それが巨体であればあるほど、脚の重要性は高くなる。支えを失えば、己の重量に押し潰されるだけだ。
「へっ、どうだ!」
「みなさん、次の一手ですわ!」
二人が言う。
俺はまだ動けない。次は――誰だ。




