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第百七十三話 女神の息吹

 表情を引き締めバランを睨むその横顔に俺は――心が震えた。

「僕はもっとあなたといっしょにいたい。隣にいてほしい。話がしたい。だから――こんなところで、やられるわけにはいかないんです!」

 ああ、そうか。

 俺も――私も、同じだったんだ。

 いっしょに旅をして、いっしょに過ごして、いっしょに戦って――その間に私は、ミリアルドのことを大事に思うようになっていた。

 初めは弟みたいなものだと思っていた。だが、年齢以上に頼れることがわかると、対等な一人の仲間として扱うようになった。

 そしてその気持ちはどんどんと強くなり、ミリアルドはかけがえのない人間へと変化した。

 だからこそ、以前ちょっとしたすれ違いが起きた時にあんなに悲しい気分になったのだ。

 離れたくないから。別れたくないから。

 それを、教わった。今、ここで。 


「ミリアルド」

 俺はかつてないほどのすがすがしい気持ちで、ミリアルドの丸い頭に手を置いた。

 細く、柔らかい髪の毛が指に絡む。

「ありがとう」

 言うと、照れくさそうに視線を逸らしてみせる。ところどころで見せる年相応の反応が、なんと愛らしい。

「おかげで元気が出た。……あいつを倒したら、もっと詳しく聞かせてくれ」

「……はい!」

 バランは俺たちを見下ろしたまま動かない。

 今の間、攻撃しようと思えば出来たはずだ。

 にやついた笑顔を貼り付けて……余裕の現れだとでも言うのか。

 それとも――

「バラン。……あなたの考えはわかっています」

 ミリアルドが言い出す。

「ほう?」

「時間稼ぎをしているのでしょう?」

 ぴくり、とバランの身体が動いた。……図星と言うことか。

 先ほどから感じていた違和感――バランが必要以上の動きをしないということだ。

 俺たちの攻撃を防ぎ、払い除けてみせた。それだけでもバランの実力が予想できた。

 圧倒的な力を持っている。俺たち六人が力を合わせて勝てるかどうかだった。

 だが、そこまでだ。

 バランは自ら攻撃しては来なかった。悪夢を見せる波動こそ放たれたが、あれでは俺たちを殺すことは出来ない。

 それこそ、さきほどの悪夢のような凶悪な力と魔力で俺たちを薙ぎ払えばいいというのに。

 だとすれば、そうできない理由があるのだ。

 そしてミリアルドは、もうそれに気付いている。


「魔王の力を制御しきれないのでしょう。その魔機マキナで力を受け止めることは出来たようですが、まだ自由に操るほどまでには馴染んでいない」

「そういうことか……」

 ミリアルドの言葉を聞いて、バランはくくくと笑い声を漏らした。

「そう、その通りよ。だが、それももう少しで終わる。あと数分もあれば、魔王の力を我が輩は完全に御することができる……!」

 俺たちの会話を黙って聞いていたのも――いや、恐らくあの悪夢を見せたことも、時間稼ぎの一環なのだろう。

 俺たちを苦しめて、攻撃されないようにしたのだ。

 しかし、裏を返せば、今ならば俺たちにも勝機があると言うことだ。でなければ時間を稼ぐ必要などない。

 奴は――俺たちを恐れている。

「無駄だ無駄だ! 攻撃は出来ずとも防御能力は健在! どんな名剣も刃が通らねばなまくら同然よ!」

 そう――それが問題だ。

 奴はすでに、俺が放つことのできる最大の攻撃を防いでみせた。

 今が最大のチャンスだというのに、それを活かす術がない。

 それに、俺とミリアルド以外のみんなは未だ悪夢に苦しんでいる。

 歯痒い気分だった。もう少しで、勝利に手が届くというのに……!

 しかし。


「それはどうでしょう?」

 ミリアルドは、自信を多分に含んだ笑みを口元に浮かべていた。

 勝利を確信しているかのようだ。

「時間稼ぎをしていたのは……あなただけではありませんよ、バラン」

「何……?」

 ミリアルドは、その首にかけられていた金の首輪に触れた。

 すると、ミリアルドの神霊力を押さえ込んでいた封輪が――光と消えた。

「馬鹿な……!」

 バランが初めて狼狽した。

 長らくミリアルドの力を封じ込めていたそれから解放されて、ミリアルドは重い荷物を降ろしたかのように、大きく息を吐いた。

「これで……僕も全力が出せます」

「その封輪に施した封印を解いただと……!? ありえん……!」

 圧倒的な力と畏怖を放っていたその巨体が、その憔悴ぶりのせいで幾分小さく見えた。

 全力のミリアルドは、そこまで驚異だということか。

「毎日こつこつと解除してきましたから」

 なんてことないように言い、ミリアルドは右手を天に掲げた。

 すると、その足下に光の紋が浮かび上がった。立ち上る光の粒子。ミリアルドの服や髪を、それが持ち上げる。

「神の子と呼ばれた僕の神霊術ならば――今のあなたにも、通用するはずです!」

「ぐ……!」

 ミリアルドの身体がにわかに発光し始めた。

 感じる。何か、大きな神霊術を使おうというのだ。

「天にまします我らが女神よ! 優しき貴女の息吹を恵み給え!――『ゴッドブレス』!」

 先ほどバランが放ったものと似た波動が、ミリアルドを中心に広がっていく。

 優しい風のような感覚。それに、身体の奥底から活力が湧いてくるようだ。

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