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第百六十一話 勇気ある人々

「クロ!」

 と、雨音の中から声がした。

 振り向くとマーティが走ってきていた。

「マーティちゃん?」

「あ、おじさんおばさん、お久しぶりです」

 こんな時だと言うのに呑気に挨拶をして、マーティはぺこりと頭を下げる。

「って、それよりクロ! テンペストの位置がわかったよ!」

「本当か?」

 この嵐を起こしている魔物、テンペスト。奴を倒さないといずれロシュアは雨に沈んでしまうだろう。

 おびただしい数の魔物も、この雨が原因だとミリアルドが言っていた。

 この雨を止めない限り、危険が過ぎ去ることはないということだ。

「どこだ?」

「あそこ!」

 言って、マーティは北東の空を指さした。

 テンペストは嵐を起こすと、その暗雲の中から抜け出すことはない。

 この暗雲の中にいることは確かだが、それでもよくぞ見つけたものだ。

「さっき矢撃ったら。雲の切れ間に一瞬だけ尻尾が見えてね。そこから耳を澄ましてみたら、ほんのちょっとだけ鳴き声みたいのが聞こえるんだ。今もずっと捉えられてる!」

 この大雨の中で小さな鳴き声を聞き分けたようだ。もちろん俺には出来ない。

 さすがリウ族の超聴覚、さすがマーティと言ったところだろう。


「どうやって倒そうか?」

「難しいな……」

 見つけたまではいいが、奴を落とすのは至難の業だ。

 前に倒したときはミリアルドが持っていた神聖樹の枝を打ち込んだが、今はそんなもの持っていない。

 接近さえ出来れば――とまで考えて、簡単なことに気がついた。

 場所さえ把握できたのならば、“直接”叩けばいいだけのことだ。

「マーティ、イルガがどこにいるかわかるか?」

「イルガちゃん? 待って。……あっち!」

 マーティの聴力でイルガの位置を掴む。どうやらイルガは町の南奥の方で戦っているようだ。

 そう、実に簡単なことだ。こっちの戦力も以前とは違う。

 向こうが空に浮いているというのなら、こちらも空で戦えばいい。

「イルガの力を借りよう。背に乗って、テンペストを正面から叩く!」

「それはいいけど、ロシュアの守りは? あたしとクロとイルガちゃんと、三人もいなくなっちゃうよ」

「それは……」

 イルガ一人だけで片付けられるのならそれが一番だが、テンペストは堅い甲殻に身を包んでいるため、いくら飛竜の姿でも、文字通り歯が立たない。

 だが、魔術による攻撃なら別だ。イルガの炎でもいいが、この雨風では効力は半減だ。だから俺の魔剣術を叩き込む。

 しかし、マーティの言うとおり、そのためにロシュアを守る戦力が三人もいなくなるのは痛すぎる。

 イルガの協力は必須。マーティがいなければ雲の中のテンペストの位置を掴めない。そして俺自身――どうするべきか。


「俺がやる!」

 セロンが言った。手に握る剣を俺たちに見せつけるように突き出した。

「この魔物と雨、姉ちゃんたちがどうにかできるんだろ? だったらその間、俺が町を守るよ!」

「セロン……」

 その申し出はありがたかった。俺たちに協力したいというセロンの気持ちは痛いほどに伝わってくる。

 しかし……。

「駄目だ、危険すぎる。セロンは父さんや母さんたちと一緒に、家の中に――」

 張り切るセロンをたしなめようと、口を開いたその時――

「安心してください、クロームさん」

 背後から、声が聞こえた。

「せ、先生……!」

 振り向くと、トラグニス先生が立っていた。その手には抜き身の剣を持っている。

 ……いや、それだけではない。雨のせいで見えなかったが、まだ誰かがいる。

 あれは――


「ザンダナさん? それに、みんな……」

 森の管理者である狩人のザンダナさん。それに、小さな頃に狩りを教えてくれた村のみんなだ。

 みんなそれぞれに武器を持ち、掲げてみせた。

「私たちでロシュアを守ります。だからクロームさん、あなたは安心してこの雨の原因を討ってきてください」

「しかし、お言葉ですが先生、みんなの力じゃ……」

「わかってますよ。でも、時間稼ぎぐらいは出来ます。だから一刻も早く、原因の魔物の方をお願いします」

 魔剣術を使えるトラグニス先生はまだともかく、森で狩りをする程度の腕しかない町の人たちでは、魔物を倒すどころか傷つけることすら難しい。

 だが、それをわかって先生たちは囮役を引き受けると言ってくれているのだ。

「みんな、あなたの力になりたいんですよ。セロンだって、いつかこんな日が来るかもと言って、毎日必死に努力していたんです」

 ……そう、だったのか。

 町のみんなも、セロンも、先生も……みんな、俺のために尽くそうとしてくれている。

 ならば、甘えよう。

 みんなの勇気を、俺は受け止める。


「……わかりました。魔物を倒すまでの間、お願いします」

「はい。ではみなさん、力を合わせてロシュアを守りましょう!」

 先生の号令に、みんながおうと声を張り上げる。この雨足の中でも、その勢いの良さはよくわかった。

「あたしたちも行こう、クロ!」

「ああ。急ごう」

 みんなの危険を出来るだけ減らすには、すぐにでもテンペストを撃破するしかない。

 イルガが戦っているという場所へ、急いで移動した。

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