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第十四話 異種族の言語

「久々のノーテリアなのに、一時間ぐらいしかいなかったね」

「旅行に来てるんじゃないんだ、別にいいだろう」

 まあ、がっくりと肩を落とすマーティの気持ちもわからないでもない。

 ロシュアに比べれば、この街には様々な娯楽がある。

 それをほとんど楽しまずに出発なのは、勿体無いというものだろう。

 残念だが、そこは我慢してもらう他ないだろう。

 

「……ん?」

 街の出口に差し掛かったところ、そこで右往左往している女の子を見つけた。しかも、ただの女の子ではない。

 通り掛かる人に話しかけては拒否られている。ただ話しかけるだけではあそこまで嫌がられはしないだろう。

 一体なんだ?


「あの子……リウ族だ」

「ああ、そうみたいだな」

 細い身体に、先端が髪と同色に染まる尖った耳。リウ族の特徴だ。

「それに……珍しいね、リウ語で喋ってる」

「リウ語だと?」

 ここからでは俺には聞こえないが、同じリウ族で耳の良いマーティには聞こえているようだ。

 

 リウ語はその名前の通り、リウ族が使う言葉だ。昔、リウ族のほとんどが森の奥深くで暮らしている時に使用されていたもので、世界中に住居を広げた今は、リウ族の中だけでもほとんど使われていない。

 街の人たちが逃げていたのもそういうことだろう。

 

「助けてあげよっか」

「そうだな。困ってるみたいだしな」

 俺は話すことは出来ないが、聞き取ることはなんとか出来る。

 それにマーティはリウ族の里出身なだけあって、若いリウ族にしては珍しく、話すことも出来る。

 あの女の子の助けになれるだろう。

 

ふぉんうでぇじょふぁどうしたの?」

 マーティが女の子に歩み寄って声をかけた。

 気づいた女の子は、リウ語が聞こえてきたことに安心したのか、嬉しそうに顔を輝かせた。

おふぉじょろあなたはこじょでぇふぁわたしのしゃじゃぐろんしょんことばがこしょぶりょふぁわかるのふぇんでゅしょですか?」

 きれいな声だ。発声もいいから、聞き取りやすい。

うむうんらぼりゃほらこじょでぇみゃわたしもリウふぁんしょぼりゃだから

 自身の耳を指で触れ、マーティは言う。

がしょじゅじょよかったしゃじゃぐろんしょんことばがじゅうでぇんつうじふぉしゅじなくてしゃみゅじょじこまってえじょむふぇんでゅいたんです

 ……長文になるとなかなか辛いものがある。だが、大丈夫だ。まだ聞き取れる。


こじょでぇろわたしはネクロアじゃええみゅでょといいます。ロシュアふぇえしぇじょえふぁいきたいのふぇんでゅしょんですがめじぇしょんみちがこしょぼりゃわからふぉしゅじなくて

 少女の名前はネクロア。ロシュアへ行きたいのだそうだ。

「ロシュア? だびりぇふぉぼりゃそれならしゃしゃしょぼりゃここからめふぉめふぁらうふぇみなみのほうにえしゅじゃええがいくといいよ

めふぉめみなみふぇんでゅしょですかおべりゃしょんじゃうありがとうしゃんでゅおんえございみょでゅます!」

 マーティへの礼を言い、ネクロアは立ち去ろうとする。


「待った!」

 しかし、俺はふと思い立って彼女を引き止めた。

 言葉は通じないとは思うが、急に声が聞こえたからか、振り向いて立ち止まってくれた。

「クロ、どうしたの?」

「このままロシュアに行っても、また言葉が通じなくて苦労するだけだ。だから……」

 荷物の中から紙とペンを取り出して、トラグニス先生宛に手紙を書いた。

 簡易な町の地図も添える。

 

「これをトラグニス先生に渡すように伝えてくれ」

「うん。えっと……ロシュアふぇじゅえじょぼりゃついたらしゃふぁじしょんめかこのてがみを、トラグニスじゅじれじゃふぇってひとにこじょでぇじわたして

 トラグニス先生もリウ語を話すことが出来る。きっと彼女の力になってくれるだろう。


だふぁれじゃみゃそのひともしゃじゃぐろんしょんことばがじゅうでぇんぶりょつうじるしょぼりゃからおじゃろあとはだふぁれじゃふぇそのひとにじふぁんでゅしゅいてだすけでぇじしてみゃぼりゃじゅじふぃもらってね

ろえはいあるじょべりゃおふたりじゃみゃともふぉんうみゃどうもおべりゃしゃんじゃうありがとうしゃんでゅおんえございみょでぇしょました

 ぺこりと頭を下げて、ネクロアは街の出口へと向かっていった。


「しかし、珍しい娘だったな」

「だね。里から来たのかな」

「かもな。……しかし、ロシュアに何の用だ?」

 西のリウガレット大陸に、リウ族の里は存在する。古来からリウ族はそこに住み、外界との接触を絶って生活していた。

 と、言うのが昔の話。族長の方針が変わったらしく、今では里から出るリウ族は珍しくない。

 

「ロシュアの染め物を買いに来たんじゃない? 女の子ならあのキレイな服は一度は着てみたくなるし」

「女の子一人でか? それに、ソルガリア経由でリウガレットにも輸出されてるはずだぞ」

「……そっか。じゃあわかんないや」

「適当だな……」

 せっかく話をしたのだから聞けばよかった、と今更後悔する。

 なにせ生まれ故郷のことだ、気にならない訳がない。

 ……だが、もはや考えていても仕方あるまい。ネクロアの無事を祈っておくに留めた。


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