表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
136/188

第百三十三話 終結

 ファルケは素手のまま距離を詰めてくる。弓は俺の背後にある。ならば。

 迫るファルケから視線を逸らさぬままに後退。落ちた弓を拾い上げようとし――

「うっ……」

 その重さに、愕然とした。持ち上げらないほどではないが、弓としては重すぎだ。

 見ると、弓だけではなく細い弦までが光沢を放っていた。そのすべてが鉄で出来た弓矢――これを、ファルケは片手で振るっていたというのか。

 無理だ。拾うのは止め、俺はそれを足で踏みつけたまま迫るファルケと対峙した。

 銀色の左腕が振るわれる。姿勢を低くし回避、反撃に剣を薙ぐ。

 背後に跳んで回避。着地した瞬間に地を蹴って瞬時に接近、再び左の拳を握り込んだ。

 弓を踏む足を軸に回転、受け流してファルケの背に。その間に魔力を剣。解放する。

「――『火炎斬り(ブレイジング・スラッシュ)』!」

 燃える刃。ファルケも即座に反応し、それを左腕で受け止めた。

「っ……!?」

 不可解な手応え。その動揺に付け込まれ、後ろ回転蹴りをまともに食らってしまう。

 吹き飛ばされ、その隙に弓を拾われた。

 受け身を取って即座に立ち上がる。剣を構えてファルケを注視しつつも、俺は今の感触のことを考えていた。

 俺は初めて見た時から、ファルケの左腕を腕鎧だと思っていた。弓の引き手をガードする装備――そう考えれば何もおかしくはないからだ。

 だが、今剣を受け止められて、その感触は鎧を纏った腕のものとは明らかに違っていた。

 どんな強靭な鎧とは言え、身にまとうという性質上中身は空洞だ。肉体が押し込められた鎧を叩く感触はよく知っている。

 だが、今感じたあの左腕――それは、まるで太い鉄棒を叩いたそれと酷似していた。

 中身まで、すべてが鉄で詰まったものを叩いた反動――だが、それではあの左腕は……。

「まさか……」

 振るうには重たすぎる弓。人外の腕力。人の身では出せない威力を放つ兵器を、自分はごく最近この目で見た。

 あの左腕も、そうなのだとすれば。


「お前……その腕、魔機マキナなのか……?」

「…………」

 ファルケが答えないことはわかっていた。だが、今までに知った事実がそれを正しいと主張している。

 魔機マキナの腕。本来の腕を失くした身体へ取り付けた、鉄の義手――それが、あの左腕の正体か。

「……っ」

 バランに対する怒りが湧き上がり、体内を立ち昇る。

 奴は事もあろうに、俺の親友の身体を改造したのだ。洗脳し、私兵に仕立て上げただけでなく……!

 ファルケがいつの間にか拾っていた矢を弓に番えた。

 記憶、精神、身体――マーティの身体に、バランがどれだけの手を加えたのか、もはやわからない。

 だが、彼女を救いたいと思う気持ちはさらに高まった。――必ず、絶対に。

「行くぞ……! マーティ……!」

 俺は剣に魔力を送る。――強く、限界まで。

 迷いがあった。彼女を傷つけたくないという躊躇があった。

 だが、今のマーティの体のことを思うと、一刻も速く解放させたいという気持ちが強まってくる。

 こちらの身体の限界も近い。足の傷が開きかけている。

 だから、これで決める。

 

 ファルケが矢を放つ。その螺旋の風纏う矢を紙一重で避け、俺は接近する。

 第二射。火炎の尾を引く矢は、一見見当違いの方向へと射られ、しかしそこに刺さる矢に反射して走る俺の背後から迫った。

 身をかがめ、体勢を低く。同時に地を蹴って低空を跳躍した。

 着地。懐へと潜り込む。柄を両手で握りしめる。大地を踏みしめ、腰溜めに剣を構えた。

 ファルケは即座に弓を振るう。しなる鉄の棒が俺の左肩にめり込んだ。肩に伝わる衝撃――骨が砕ける音が聞こえた気がした。

 だが、怒りに染まる俺にはもはや、その痛みさえも届かない。

 すべてを無視し、魔力を全開放する。

「全てを、切り裂け!――『真空伐砕刃タービュラント・シアー!』」

 剣閃。その剣筋はわずかにファルケには届かない。が――その一振りが生んだ真空波が尽くを飲み込む烈風となり、ファルケの身体に叩きつけられる。

 それはまさに鎌鼬の雨。触れるもの全てを斬り裂く風刃を受け止めて、ファルケが纏うすべてを散り散りに吹き飛ばした。

 纏う外套、その下に着る軽装の鎧を細切れにし――そして、その肌に無数の赤い一文字を刻み込む。

「……っ!」

 ファルケの瞳が驚愕に見開かれた。ようやく見せた人間らしい感情――だが、まだ終わらない。

 俺はすぐに剣を捨て、膝から崩折れるファルケの頭部を鷲掴みにした。

「ごめん、マーティ。……ちょっとだけ我慢してくれ」

 未だ得意ではないが――だからこそ、融通が効く。

 剣に頼らない魔術。微弱な魔力を使って、俺はファルケの頭部にわずかな雷撃を放った。

 ビクン、とファルケの身体が痙攣する。脳にダメージが行き、鼻血をつつと流しながら、傷だらけの身体が地面に倒れた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ