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第百二十四話 頼れる仲間

「あ」

 ところで、俺はふと思い出す。

 もはや異次元を脱出する泉は目の前だ。

「しまった。毛皮のコート、預けたままだ」

 以前にセントジオ大陸に来た際に、巨大な熊の毛皮と共に交換したあのコート。ソルガリア大陸へ渡る船上で脱ぎ、そのままクリミアらに預けたままここまで来てしまった。

 ソルガリアは温かいから、すっかり記憶から抜け落ちてしまっていた。

「そう言えば……忘れてましたね」

「なんだよ、二人して。気が抜けてんな」

 ミリアルドも同じようだ。ローガの言葉が妙に辛辣に突き刺さる。l

「構わないのではなくって? 時間的に、今日はセントジオガルズで一泊でしょう? それまでの道中、我慢するだけですわ」

「簡単に言ってくれるなよ。寒空の飛行中で吹きさらしは結構キツイんだぞ」

 サトリナは雪国育ち。だから多少の寒さには慣れっこだからそういう発想が出るのだろう。

 だがこちらは滅多に雪の降らない地域の出身なのだ。寒風に当てられ続けては凍えてしまう。

 元次元に戻れば夕暮れだろう。

 さすがに真夜中を飛行する気もなかったため、確かにここからセントジオガルズまでの短い区間ではあるが……。寒いことに変わりはない。

「そうですね。とは言え、今から戻るわけにもいきませんし」

 ミリアルドもそうだ。子供は風の子とは言え限度がある。それに、風邪でも引かれては旅が続けられなくなる。


「セントジオガルズまでなのだろう? なら、飛行中に私が体温を上げよう。それなら耐えれるな?」

 口論を見かねたか、イルガが提案する。そんな芸当が可能なのか。

「いいんですか?」

「ああ。多少疲れるが、短時間なら問題ない」

 ティガ族は炎を操る。ということは、体内の熱を操ることも出来る、と。

 俺もまだ飛竜のすべてを知っているわけではない。伝説は伊達ではないということか。

「悪いな、イルガ。頼り切りで」

「構わんさ。……腹も減ってることだしな」

「ああ……いや、本当にありがとう」

 朝ティムレリア教団を出発してから王都ソルガリア、そして今ここに至るまでイルガはほとんどの時間を飛行していた。

 俺たちもだが、その間一切の食事を摂っていないため、イルガは尚の事体力を消耗しているはずだ。

 急ぎたい気持ちも強いに違いない。


「よし、じゃあすぐに行きましょう」

 ミリアルドが言い、俺たちはすぐさま異次元を脱出した。

 セントジオの国防軍の兵士たちへの挨拶もそこそこに、イルガに乗って急くようにセントジオガルズへと向かった。

 体温を上昇させるという飛竜の秘技も炸裂し、俺たちは温かな空気の中、移動することが出来た。……ただ、申し訳ないという思いで、心の中には冷たい風が吹き付けてがいたが。

 街へ辿り着くや否や王城へと直行。突然の帰還にクリスも驚いていたが、話は後だとすぐに食事の準備をしてもらった。

 以前泊めてもらったところと同じ部屋に入れてもらい、運ばれてきた料理を、主にイルガが平らげてゆく。

 便利とはいえ、さすがに彼女に頼りすぎているのもどうかと思うようになっていた。

 そして、量の割には短い食事を終えたあと、俺たちは明日に備えて話をする。


「すまなかったな、イルガ。無理をさせたみたいで」

「無理ではないさ。多少腹が減っただけだ」

「いや、それでもだ。おかげで一日でここまで来れた。明日以降は、馬車でも使ってドランガロへと向かって――」

 俺なりに気遣った発言のつもりだった。

 しかしイルガは、不服の思いを隠しもせずに俺を睨んでくる。

「急ぎたいと言ったのはお前だ。だから己れもそれに従い、もっとも早い手段でドランガロまで進んでいる。……余計な気など回すな。お前は、お前の友を助けることだけを考えろ」

「……イルガ……」

 ……そう、そうだ。

 俺はマーティを救うために、この道を歩んでいる。

 みんなはそれに協力してくれているんだ。イルガも当然そうだ。

 だから多少の無茶だってしてくれる。その気持ちを……俺は無碍にしようとしていた。

「……ごめん、イルガ。私が悪かった」

「わかればいい。……己れは疲れた。寝る」

 言って、イルガは一人寝室へと籠もる。その翼持つ背を見て、俺は決意を改めた。

 そもそもが、俺は魔王の討伐よりもマーティを救いたいとわがままを言っていた。

 今は、相反する二つ――飛空艇の修理とバランの手がかりとが重なったから、以前と同じようにみんなで旅ができているのだ。

 ならば――今、ここでマーティを救うまでは、そのわがままを通す。そのためならば、みんなに多少の迷惑をかけたって構わない。

 埋め合わせはあとで必ずする。だから、今だけは――。

 今だけは、頼ろう。今まで以上に。

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