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第百二十三話 次元の門へ

「にしても、ミル坊の奴遅くねえか?」

「……そうだな。許可を貰うのに戸惑っているのか?」

 時間にしてはもう三十分近くが経過していた。国王が多忙で会えないというのならもっと早く帰ってきているだろうから、会って話してはいるはずだ。

「まさか、交渉が難航しているのでしょうか」

 不安そうにサトリナが言う。

 確かに、俺たちが単なる旅人というのなら、ソルガリア王も次元の門の使用許可は出し渋るだろう。

 下手に許可を出して異次元で死なれでもしたら問題になる。

 が、ソルガリア王はミリアルドの存在も、今の状況もとっくにご存知のはずだ。

 だというのなら、特に迷うことなどないと思うのだが……。

 考えながらもさらに待ち、結局ミリアルドが戻ってきたのは十数分後のことだった。

「すいません、ずいぶんおまたせしてしまって」

「まったくだぜ。で、許可はもらえたのか?」

 辟易としたようにローガが言う。

「ええ。これでソルガリア大陸とセントジオ大陸の行き来は容易になりましたね」

 その手にはしっかりと、王家の紋章で封をされた書状が握られていた。

 以前にクリスにもらったセントジオ王家の許可証と合わせ、二大陸間の次元の門は自由に通り抜けが出来るようになったということだ。

「だが、どうしてこんなに時間がかかったんだ?」

 俺が聞くと、ミリアルドは王城へと何かを心配するような視線を向けた。

 城の中で何かあったのだろうか。


「実は、国王陛下がご病気らしいんです。そのせいで、ここまで遅くなってしまいました」

「病気?……平気なのか?」

 ソルガリア王は老いた王だ。下手な病気一つで、崩御もありえない話ではない。

 バランのせいで世界の混乱は続いている。ここでそんなことがあったら、その隙をバランに突かれる可能性もある。

「命に別状はないようです。ただ、直接お会いすることは出来ませんでしたが」

「じゃあ、その許可証は?」

「代わりの大臣の方からいただきました。まあ、ちょっと頑固な方で、説得に時間がかかってしまったんですが」

 だからこうまで遅くなったということだ。

 ミリアルドは少なくとも見た目はまだ子供。神官として活動していても、舐めてかかる人間は少なくないようだ。

 その大臣もそういう類の人間なのだろう。

「とにかくこれで、セントジオへ行けます。早速向かいましょう」

「ああ、わかった」

 許可証さえ貰えれば、王都ソルガリアに長居する必要はない。

 すぐに街を出て、イルガの背に乗って東の次元の門まで向かう。

 門の前にはセントジオ同様兵士が立っていたが、許可証を見せたらすぐに通してくれた。


「……中は同じ風景なんだよな、当たり前だが」

 異次元に移り、暗い遺跡のような壁面を見上げてローガが言う。

 ソルガリアから入ろうとセントジオから入ろうと、次元の門から辿り着く先は同じ場所だ。

 だからこそ簡易な移動手段として適切なのだが、殺風景というのはおおよそ同意できる。

「高速船を使ってもおよそ三日はかかる道のりを、ほんの数十分で渡れるというのですから、この異次元空間というのは驚きですわね……」

 歩きながら、驚き半分呆れ半分でサトリナは呟く。

 以前もここを通ってセントジオからグレンカムへと向かった。

 異次元、異空間で距離の概念がずれているのだということは知っているが、確かにこの空間の利便性は果てしない。

 俺たちのような少人数ならば、船どころか飛空艇よりも素早い移動が出来るだろう。

「欠点は守護者ガーディアンの存在ですね。あれももうそろそろ蘇生が始まる頃ではないでしょうか?」

 ミリアルドが言う。

 グレンカムに渡った時からそれなりの時間が経過している。完全に蘇るには少々早いが、それでも兆候は見えていることだろう。

「詳しくは知らんが……邪魔だと言うならその都度倒せばいいだけだろう?」

「お前は直に戦ったことないからな、あの苦労はわからんさ」

 イルガの言葉にローガが言い返す。守護者ガーディアンと戦ったのはイルガが合流する前のこと。あの時のことも話したことはない。

「ありゃあ強かったぞ? 俺ももうちょっとのところで死ぬところだった」

「高所から落下しただけでしょう?」

 自慢げに話し出すローガに、サトリナが容赦なくツッコむ。

 まったくそのとおりだから、俺も擁護のしようはない。

 そして、そんな二人をイルガは気だるげな目で見つめている。

 「……結局、守護者とやらが強いのかどうかわからんぞ」

 そんな話をしながら、俺たちは難なくセントジオへつながる門出口へと辿り着いた。


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