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第百十七話 進展

「……ただ、何と言いますか……」

 クリミアは微妙そうな顔で言葉を濁す。

「どうしたんですか?」

「その……セントジオガルズとドランガロは折り合いが悪くてですね。街を治める方は、度々陛下と衝突を起こしているんです」

「街一つの領主が、国王陛下と……?」

 その人にとっては自分の肉体たる街なのだろうが、さらにその上へ立つのがクリスだ。

 よくもまあ強気に出られるものだ。

 それとも、それぐらいの気概がなければ街を治めることなど出来ないのかもしれない。

「なので、かつての教団ならばともかく、今国王陛下と協力関係にあるミリアルド様に、ドランガロの領主が手を貸してくれるかどうか……」

 以前はティムレリア教団はあくまでも独立した組織。しかし、先の件でセントジオガルズ、及びにクリスと正式に関係を結んだ。

 そうなれば、折り合いの悪いというドランガロ領主は面白くはないだろう。

 変なところで前途多難ということだ。

「しかし、どうしてそのドランガロという街は、陛下と?」

「かつての統一戦争の際に、最後までセントジオと争っていたからだと聞いています」

「統一戦争って……70年近く前のことですか」

 今、この世界は、王都ソルガリア、セントジオガルズ、グレンカム、そしてリウガレット大陸にあるトラリウダムの四つの大国によって構成されている。

 しかし、世界が四分になったのは最近のことだ。それ以前は大小合わせ、数百の国々が乱立していたという。

 それを一つに治めようと起きたのが統一戦争――魔物登場以前に起きた、人間同士の醜い戦いの歴史だ。

 結果、何千何万――それ以上の犠牲が出た末に、この世は四つに分割されたということだ。

「前王と前領主の遺恨が、お互いの子の世代になっても残されているってことか……」

「そのようです」

 そうなると、また飛空艇の修理は難しい。

 工業が盛んなセントジオ、その中でもさらに著しい技術の協力を得られないとなると……事実上の不可能と言っても差し支えない。

 だが。

「それでも、ミリアルドは行くでしょうね」

「え?」

 呟くように言った俺に、クリミアは聞き返す。

「ミリアルドは……それしかないと決めたら本当に、そのことしかしない人間ですから。そうでもなければ、たった一人で魔王を倒しに行くなんて考えません」

 たった一人……魔王の最期の言葉を知る俺以外で唯一、魔王の復活を察知した人物だ。

 もし、あの時俺がミリアルドが出会わなかったら……彼は一人で飛空艇に乗り込み、魔王城に向かっていただろう。

 そして……同じようにバランに捕まって……。そう思えば俺は、彼の助けになっていたのだろうか。


「だからきっと、いくら難しいとわかっていてもミリアルドはドランガロに行くと思います。その領主がどれくらい頑固は知りませんが……交渉ぐらいはするでしょう」

「そうですか……。まあ、他に方法もありませんからね」

 思えば、数奇な運命だ。俺とミリアルド……経緯は違えど目的を同じくして集った。

 そしてそのまま旅をして、仲間を得て……。

 今、ここで……。

「クロームさんも、同行するんでしょう?」

「え?」

「いつもいっしょでしたもんね」

 さらりとクリミアは言い放つ。

 彼女は俺とミリアルドの確執を知らない。たぶん、見舞いにも来ないのは忙しいからとでも思っているのだろう。

 実際のところ……もしミリアルドがドランガロに行くと言ったら、俺はどうするべきなのだろうか。

 今までとは違って、今の彼には多くの部下がいる。俺が着いていかなくとも、多数の神聖騎士たちが彼を護ってくれるだろう。

 まだ傷も癒えてはいない。俺なんか、いなくたって……。

「……クロームさん? どうしました?」

「ああ、いや。……今回は私は――」

 着いていくことはないだろうと、そう告げようとしたその時。

 がたりと扉が開く音がした。


「おいクロ、起きてっか?」

 ノックもなく入ってきたのはローガだった。

「な……なんだ、突然」

「朗報だ。バランの潜伏先がわかったかもしれない」

「……! 本当か!?」

「ああ。その辺も含めて話があるってんで、これからミル坊たちもやってくる」

 何の手がかりもなかったバラン捜索が、こんな急に進展するとは思わなかった。

 しかし、どうやって……?

 考えてもわかるものではないか。ミリアルドが来るというのだから、それを待とう。



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