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第百十話 激闘の後に

 極光が収まっていく。

 魔力の奔流をその身に受け、リハルトはいくら魔術防御を備えていようと無関係なほどのダメージを浴びたはずだ。

 だが……それでも尚、光の柱の中でリハルトは、膝を着いてはいなかった。

「……ふ、ふふふ……」

「化け物か……お前は……!」

 よろよろと、触れれば崩れてしまいそうに儚く、しかし確かにリハルトは立っている。

「命を賭した一撃か……こいつは効いた……」

 俺の方ももはや正真正銘の限界だ。こっちだって、誰かに指で押されるだけで倒れてしまうだろう。

 さらにもう一撃は不可能だ。

 ゆらりと、リハルトは身体を揺らす。

 くつくつと笑い、剣を手から離すことはなく。

 ――しかし。

「認めてやる。……俺の、負けだ」

 言い、リハルトはようやく――背中から地面に倒れた。

 その姿を見て俺も……尻もちを付くように座り込んだ。

 息をする度心臓が痛い。体中が気だるく、全身の筋肉が悲鳴をあげているようだ。

 

「ク……クロームさん……」

 背中からか細い声が聞こえる。振り向こうとして、でも体が動かなかった。

「ミリアルド……身体は、平気か……?」

 せめてと声をかけると、背中にぴたりと何かがくっつけられた。

「今……治しますね……」

 温かな波動が流れ込んでくる。

 全身の痛みが引いて、呼吸が楽になる。

 ミリアルドが治癒術を使ってくれている。

「ミリアルド、お前……」

「このぐらいなら平気で……ごほっ」

 言葉とは裏腹に、ミリアルドは辛そうに咳き込んだ。

 まださっきのダメージが残っているのだ。

「無理するな、ミリアルド」

「無理は……あなたの方です。命の力を使うなんて……」

 癒やしの力で身体が楽になって、俺は振り向く。

 その蒼海の瞳から、涙が溢れていた。


「ミリアルド……」

「あの力を多用すれば、あなたの命はすぐに尽きてしまいます。……いくら世界が平和になったって……その世界にあなたがいなければ……意味がありません」

「……ごめん、ミリアルド」

 癒やしの波動とともに、彼の悲しみまでもが伝わってくる。

 俺は……勝つことに執着しすぎたのだろうか。

 確かに命の力を使ったのは、非常に危険な、自殺行為とも言えるだろう。

 俺がかつて勇者だったころでもそんなことはしなかった。

 ……そうでもしなければ、あの時の力には及ばないほど、今の俺は弱いのだ。

 弱いから、仲間を悲しませる。

 ……強く、なりたい。もっと、もっと……誰も悲しませない強さが、欲しい。


「……もう充分だ、ありがとうミリアルド」

 まだ目的が達成できたわけではない。

 ようやくリハルトを倒し、逃げたバランを追わなければならない。

 立ち、身体を動かすのにとりあえず不満足はないことを確認する。

「もうバランはもう脱出を出たと思うか?」

「この先はバルコニーになっています。逃げ道はないのですが……」

 正確にはわからないが、ここに来るまでずいぶんと階段を登ってきた。

 まさか飛び降りるなんてことはしないとは思うが……。

 とにかく、行ってみるしかないか。

「ミリアルド、君はこの人たちを外へ。バランは、私が追う」

「はい。……追い詰められた人間が何をするかわかりません。どうか、お気をつけて」

「ああ」

 安心させるように、俺はミリアルドの頭を撫でて、奥の扉をくぐった。

「――ッ……」

 その惨状に、俺は思わず息を呑んだ。

 扉の先は一本の階段。だがそこに、大量の死体が転がっていた。

 服装から、教団の幹部だとわかる。バランと共に逃げたと思ったが……殺されている。

「あくまでも目撃者は消す、ということか……」

 この先に、果たしてバランはいるのか。

 体力こそミリアルドに回復してもらったが、魔力までは回復してはいない。

 魔剣術は使えない……バランが何か、戦う術を持ち出してきたら……その時は、俺に勝ち目はないだろう。

 リハルトに言われた、中途半端という言葉が頭の中で反芻される。

 魔剣術自体を自己否定しているわけでは決してない。

 だが、こういった状況において無力になるのは、俺自身の致命的な問題だ。

 それでもやるしかない。

 例えあるのがこの剣一本でも、負けるわけにはいかない。


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