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第百九話 六天極光

「どうした? マントの対魔防御も剥がれ落ちた。あと一撃、今のような魔剣術を放てばお前の勝ちだぞ? さすがの俺もこれ以上の対策はないからなぁ……!」

 やってみろ、と。

 出来ないことがわかって、リハルトは嗤う。

 完全に勝ち誇り、敗者を見下し、嘲笑う。

 悔しい。

 かつて、これほどまでの悔しさを感じたことはない。

 世界を平和にするという志を半ばにして、ここで俺は斃れるのだ。

 不甲斐ない……!

「何も出来ないのならば……神子共々死ね、小童!」

 神子――ミリアルド。

 リハルトが剣を振り上げる。

 その向こうで――小さな手のひらが、俺に手を伸ばしていた。


「――ッ……!」

 頭で考えるより先に体が動く。

 リハルトの剣が俺の肩を裂いていく。

「ぅぐ……」

 避けた。

 確かに俺の命を奪わんとした刃から、俺は――半ば無意識に、逃げていた。

「往生際の悪い……!」

 まったくだ。

 俺は……諦めたはずだ。

 もはや出来ることはないと。もう一度魔剣術を放つことなど出来やしないと……生を捨てたはずだ。

 だというのに体が勝手に動いてしまった。

 俺を見守る……彼の姿が、目に入ってしまったから。


「そう、だよな……」

「何?」

「ああ、そうだ。その通りだよ、ミリアルド……」

 俺は何をバカなことを。

 ミリアルドは諦めなかった。

 己の身体を顧みず、首輪が自身を傷付けることを厭わずに術を使い続け、ミリアルドはこの講堂にいる人々を救った。

 そしてその生命は、俺に託された。

 ここで俺が諦めたらリハルトは……バランは、ミリアルドが救った人々を殺しにかかるだろう。

 そんなことも忘れて、俺はどうして諦めようとした。

 ミリアルドの努力を、彼の誠意を捨てようとしたのだ。

 愚かなことだ。

 今俺が背負っている命の数を考えろ。

 一つではない、二つ、三つ――十や二十じゃ済まないんだぞ。

 それを……ちょっと動けないぐらいで、なんだと言うんだ。


「リハルト……」

「貴様……まだ動けるというのか……!」

 足腰に力を入れる。

 立てる。立ってみせる。

 ふらついてもいい。どれだけ荷物が重くても、この二本の足でしっかりと地面を踏みしめろ。

「お望み通り……もう一撃、魔剣術を放ってやるよ……!」

「馬鹿な! あれだけの技を放てば、もはや貴様に魔力は残っていないはずだ!」

 その通りだ。

 俺にはもはや毛ほどの魔力もありはしない。

 だが……魔術は魔力がなくても使えるのだ。

 体内の魔素マナが尽きても……たった一つ、魔術を使う方法がある。

「私の……命の力を使ってやる……!」

 人間が数多持つ生きるための力。

 肉体を、魂を育てる生命の源。

 それを消費すれば……魔力の代わりにすることが出来る。

 酷く非効率で、危険な使い方だ。

 当然寿命は減るし、もしも避けられれば完全に命の無駄遣いだ。

 だが……さっきはミリアルドが命を賭けた。

 ならば今度は俺の番だ。


「安心しろ、リハルト。こいつにさっきほどの威力はない……」

 剣に命の力を注いでいく。

 全身から力が抜けていくような感覚。

 だが……何故だろうか。充実感のようなものが、内側から満たされていく気がする。

「させるか!」

 リハルトが飛びかかる。

 それに、俺は敢えてこちらから迫った。

「っ!」

 接近のタイミングがずれ、敢え無く剣は空を斬る。

 リハルトの背後に回った俺は、命の力が溜まった剣を、地面に突き刺した。

「開け、魔六門!」

 その剣を中心に、俺の周囲に輝く魔陣が広がっていく。

 火炎の赤、水涼の青、疾風の緑、土塊の黄、氷雪の白、雷電の紫――この世の万物を司る六大属性の魔紋が花開く。

「灼光の業火、清浄の碧水、風雅の疾風、地母の土壌、極北の氷華、紫電の雷光――今一つとなりて、無辺の極光を生み出さん!」

 六つの花弁はそれぞれに輝き、六色の魔光を生み出す。そしてそれらが、魔陣を広げる宝剣へと集っていく。

 まさに、天空から降り注ぐ極光のような煌きが、剣を彩り、輝き出す。

 これこそが――俺の最大奥義。

六天極光牙オーロラ・アトリビュートッ!」

 剣を引き抜く。両手で柄を握りしめ、立ちはだかるリハルトへ向けて――遠く、薙ぎ払う。

 炎・水・風・土・氷・雷の六属性が集まった極光の斬撃波が、大気を切り裂いて飛翔する。

「所詮は魔術だろうが!」

 反撃にリハルトがシュバルツヴァイスを振るう。

 そう――リハルトはそうせざるを得ない。

 シュバルツヴァイスで魔術を斬り裂くのが、今のリハルトの戦法。

 だが。

「――なっ」

 斬り裂いたはずの極光が、六色それぞれへと分離、拡散する。

 否――正確には、斬り裂かれる前に自ずと魔力が分散しているのだ。

 そして六つの斬撃は再び、リハルトを中心に元の一つへと収束し――

「――光、あれかし」

 極光の柱が――天を貫いた。


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