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第百六話 魔伏の剣

「はあっ!」

 逆袈裟に振り上げた剣を、リハルトは黒白の剣で受け止める。

 女の腕では押し切ることは出来ない。

 即座に離れ、魔力を注ぎ込んだ。

「『電光石火ライトニング・ソニック』!」

 雷撃の斬光を放つ。

 だが、リハルトはその唇を歪ませていた。

「無駄だっ!」

 飛翔する雷光を、リハルトは一刀で斬り伏せる。

 シュバルツヴァイスの魔力を斬る力……どうやらご存知だったようだ。

「魔伏の剣……さすがの威力とでも言っておこうか」

 あの剣は、トラグニス先生の父親が国王から賜ったものと聞いている。

 教団は王都ソルガリアと深い繋がりがある。

 知っていてもおかしくはない、か。


「ならば!」

 地を蹴り、リハルトへ接近。剣に魔力を注ぎ込んでおく。

 だが、発動はまだだ。隙を伺い、一撃を叩き込む。

「ふっ」

 頭部目掛けての突き。最小限の動きで避けられる。

 反撃の横斬り。剣を縦に防ぎ、押し返す。

 さらに上段、受け止められるが一度剣を引き、もう一度上段。

 リハルトは再度防御の構え。――ここだ!

 注ぎ、溜め込んだ魔力をここで爆発させる。

 剣に炎が燃えた。

「猛ろ! 『紅蓮斬りバーニング・ディバイド』!」

 いくら防ごうと、火炎がその身を焦がす。

 シュバルツヴァイスは魔術を斬るが、この剣に直接纏わった魔術をすべて消し去るほどの力はない!

「舐めるなよ……っ!」

 だが、リハルトも一筋縄で行く相手ではなかった。

 俺の魔剣術を受け止めた剣を、刃に沿うように滑らせる。

 その動きで、剣に纏わった炎のほとんどは切り払われてしまった。


「ぐっ……」

「どうしたぁ!」

 衝撃に動きが止まる。

 それをリハルトは見逃さず、即座に攻撃を繰り出してきた。

「ちぃっ」

 間一髪回避。流れた髪の毛の先端をかすっていく。

 危なかった、もう数瞬遅れていれば、傷をつけられていた。

「魔剣術、などとほざいたか、お前の剣技は」

「……それがどうした」

 距離を取り、様子を伺う。

 遠距離技は通用しない。

 だが、接近して技を叩き込もうにも、リハルトの剣の腕相手では、下手に使っても防がれるだけだろう。

 魔力の温存など考えている余裕はないが、無駄打ちするぐらいなら使わないほうがいい。

「そんな半端な剣に頼る限り、俺には勝てんぞ」

「……なに?」

 勝利のための思考を巡らす俺に、リハルトは煽るように言い放つ。

「魔剣術……確か、かの勇者クロードが用いていた剣術だったな。15年前の魔王討伐以降、少ないながら、魔剣術の使い手は増えたと聞く」

 魔剣術は本来は俺のオリジナルだった。

 だが、使用すること自体は然程難しいものではなく、俺が各地で隠す気もなく使いまくっていたおかげで、今では剣と魔術の両方を使えるものがそれぞれ独自の魔剣術を生み出してもいるようだ。

 その中で俺は、トラグニス先生という唯一の勇者直伝の使い手と巡り会い、再びこの腕に魔剣術を取り戻したということだ。


「だが、俺に言わせれば魔剣術など、剣にも魔にも振り切らない、中途半端な剣術だ」

「二つの力を併せた剣術が、中途半端だと?」

「俺は魔術など使わない。ただこの剣の腕のみで騎士団長の座に上り詰めた。魔剣術を使う輩とも数度戦ったこともあるが、負けたことは一度たりとてない」

 リハルトの剣の腕は相当だ。

 神聖騎士団の部隊長の名は伊達ではない。近・遠距離の魔剣術に対応できるシュバルツヴァイスの存在が、それに拍車をかけているだろう。

 純粋な剣術のみの実力ならば確かに、俺に勝てる見込みはない。

 だが、だからこその魔剣術だ。

 決して中途半端などではない。魔力を用い、工夫と知略で力の差を覆す。

 それが魔剣術の真髄なのだ。

 しかし……それが通用しない今……勝利は絶望的とも言える。

「剣が通じぬなら魔、魔が通じぬならば剣などと、聞こえはいいがようは、己の鍛えた腕を信用できない愚か者の技だ」

 リハルトは嘲笑を浮かべ、剣先を俺に突きつけた。

 挑発のつもりだろう。

 奴が言っていることに筋が通っていないわけではない。

 だがそもそも、魔剣術は対人用の術ではない。

 剣技が効きづらい・全く効かない魔物との対峙を想定しているのだ。

 人間相手……しかも、殺さぬように手加減するにはまったく向かない術だ。


「無駄口を叩くのは時間稼ぎのつもりか? バランはよほど焦っているようだな」

「死ねば話もできないだろう? 今のうちに、“貴様は愚か”だと伝えたくてな」

「……そいつはどうも、ありがたいことで」

 向いてないとは言え、諦めるわけにはいかない。

 まだ魔剣術すべてが通じないとわかったわけではない。

 ……方法は二つだ。

 一つは、今俺が放つことの出来る最大の魔剣術を使うこと。

 上級魔術を用いた魔剣術は、手加減しなければ人一人など容易に吹き飛ばす事ができる。

 いくら魔伏せのシュバルツヴァイスと言えど、斬られた余波のみでも充分致命傷になるだろう。

 もう一つは……あのシュバルツヴァイスを、破壊することだ。

 リハルトの腕自体もそうだが、もっとも厄介なのはあの剣の方だ。

 剣を折り、破壊してしまえばもはや魔術を無効化は出来ない。

 だが……あの剣は、先生から貰った大事な剣。

 ここで失いたくはない。

 しかし、出来ることならばリハルトの命を奪うようなこともしたくない。

 どうする……?

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