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第百五話 開幕

「っ……」

 が、その瞬間、爆弾の周囲に光の膜が張られた。

 膜の中で爆風が燃え上がり、火炎の球を作り出す。

「僕が、抑えます……っ!」

「ミリアルド!」

 ミリアルドが神霊術で爆風を抑え込んでくれている。

 これならば、被害が出ることはない。  

「ぐ……!」 

 だが、ミリアルドの表情は苦しそうだ。

 首に巻き付く封印の輪が発動しているのだ。

 長くは保たない。

 それまでに、この爆発が収まるのか……!

「ぐぅあっ……」

 膜に亀裂が入る。

 漏れ出した火炎が多量の熱波を発し、講堂内が灼熱と化す。

 あの一つにどれだけの威力を秘めているのか……!

「うう……っ!」

 さらに力が込められる。

 亀裂が塞がり、火炎が鎮んでいく。

 だが爆風自体は未だ燃え上がっている。

「ぅう……!」

 ミリアルドが膝を着く。

 顔中が汗にまみれ、歯を食いしばって耐えている。

 何もできない今この瞬間がもどかしい。

 俺には、ミリアルドを支えることもできないのか……!

「ミリアルド様!」「ミリアルド様、がんばってください!」「私たちをお助けください!」

 信者たちの声が聞こえる。

 みんな、ミリアルドに願いを送っているのだ。

 バランに騙されていた人々の、純粋で真摯な願いだ。


「ぐぅ……おおおっ!」

 その声に、ミリアルドは立ち上がる。

 かつてはその座を奪われ、偽物に支配されたミリアルドが、今度は真の神官として、願いを叶えようとしているのだ。

 そうだ……がんばれ、ミリアルド。

「ミリアルド……っ!」

 ミリアルドが死力を尽くし、人々を救おうとしている。

 俺にできるのは……応援だけだ。

「がんばれ、ミリアルド!」

「だああああああ!」

 絶叫。自身の持つ力すべてを用い、爆風を抑えるべくミリアルドは叫ぶ。

 そして――ついに、爆裂が収縮していく。

 燃え上がる火炎が鎮火していく。

 光の膜の中に何もなくなって……そして、膜は、光の粒子となって消え去った。


「……終わった、のか」

 バランが作り出した爆風はすべて消え去った。

 守りきったのだ、ミリアルドは。

 この講堂にいる人々、すべてを。

「よかっ……た……」

「ミリアルド!?」

 どさりと、倒れる音がする。

 吹き出た汗のせいか、体中がびっしょりと濡れている。

 限界以上の力を使いきり、顔も青ざめていた。

 だが……その表情は、成し遂げた達成間で満ち満ちていた。

「本当によくやったよ、君は……」

 信者たちも安堵の涙を流し、生還を喜び合っている。

 ミリアルドを讃える声も聞こえてくる。

 これでバランの異常性はますます民衆に伝わった。

 例え今逃げ延びても、もはや奴の安寧の地はこの世界にないだろう。

 俺たちの……勝ちだ。 


「耐え切ったか」

 背後からの声。

 民衆のどよめきが大きくなる。

 振り向くと、そこには講堂を去ったはずのリハルトがいた。

 純白の鎧も、肩から延びる赤いマントも、今のリハルトには似合わない。

「ミリアルドはしばらくは動けないだろう。……ならば、お前を殺せば、あとはそれで終わりだ」

「……お前……!」

 リハルトは、バラン・シュナイゼルのさらなる保険ということか。

「リハルト・レキシオン……お前たちの好きにはさせない!」

 ミリアルドを講堂の隅へと待避させ、俺はリハルトと向き合って剣を抜いた。

 ミリアルドは人々を……そして、この俺を守ってくれた。

 ならば、今度は俺の番だ。

 リハルトを倒し、バランを追いつめる!


「貴様に俺が倒せるかな……?」

 言い、リハルトは腰の剣を抜く。

 それを見て、俺は目を見開いた。

 リハルトが手にする剣……両刃の剣身が、それぞれ白と黒に分かれた特徴的なそれは、紛れもなく。

「貴様……! よくも、先生から貰ったシュバルツヴァイスを!」

 以前、俺が拘束された時に奪われて以来、手放したままだった剣。

 旅に出る際、トラグニス先生が俺に手向けとして送ってくれたものだ。

 それが今、リハルトの手の中にある。

「かつては自分のものだった剣で殺されるというのも、一興だろう?」

「それは貴様のような奴が持っていい剣ではない! 返して貰うぞ、リハルト・レキシオンッ!」

 先ほど俺と斬り結んだ剣は、通常のものだった。

 こうして俺と戦うとわかって、敢えて持ち出してきたのだ。

 だとすれば、その目論見は成功だ。

 ……自覚できるほど、俺は今……頭に血が上っているからな!

「行くぞぉぉぉッ!」

 死闘の予感が、俺の脳内を走った。


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