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第百三話 相見える

「……何を言うかと思えば、こんな時まで格好つけるのですね、あなたは」

 悩む俺の背後から、サトリナが言いつつ歩み出る。

「カッコつけてなんか……いや、今回はあるけどよ」

「あなたが一人で残ったって、囲まれて叩かれて、さっさとお縄になるのがオチですわよ」

 いつものように高飛車に、ローガを責め立てる。

 だが、その表情はなぜだか、笑っていた。

「じゃあどうしろってんだ。誰かが抑えないと危険なんだぞ」

 ローガも普段のような喧嘩腰だ。

 それにサトリナも乗ってしまうのが通常だったが……今回ばかりは、違った。

 サトリナは気高く、しかし優しげな微笑みを口元に浮かべ、俺の方を振り向いてこう言った。

「私も残ります」

「な……!」

 衝撃だった。

 ローガのことを責めるとばかり思っていたが……。


「余計なことすんな、お前も行け」

「お断りしますわ。あなた一人でここを抑えられるとは思えませんもの」

「んだとぉ……? うぉっ」

 睨みかかるローガの顔面に手をかざす。

 淡い緑の輝き。……治癒術の波動だ。

「私なら多少のケガは治せます。長く食い止めるには継戦能力は必要でしょう?」

「ぐ……」

 ローガを黙らせ、サトリナは再び振り向く。

「そういうわけですから。そちらはお任せしますわ」

 確かにサトリナの言い分はもっともだ。

 戦力を増やせば負ける確率も下がる。

 一人で抑えるよりは、二人で戦う方がいいだろう。

 傷を治癒させられるなら尚更だ。

 ……ここは、任せるべきか。

「……わかりました。行きましょう、クロームさん」

「ミリアルド……」

 俺が決意する前に、ミリアルドが言う。

 見上げるその表情は、二人への信頼の現れか、一切の苦悩はない。

 そうだ、俺も……二人を信じるべきだ。


「わかった。……頼む、ローガ、サトリナ」

「ああ。お前は、バランとかいう奴をぶっとばしてこい!」

「ここは守り抜いて見せます。……ご武運を」

 きっと大丈夫だ。

 二人とも強い。

 いくら数があろうと、有象無象に負けることなどない。

「行こう、ミリアルド」

「はい!」

 この場を任せ、俺たちは先へと進んだ。

 騎士たちは先にも数人が待ち受けていた。

 しかし、それでも背後から襲われることはないという安心感がある。

 仕事を果たそうとしている騎士たちに、心の中で謝りながら殴り倒す。

 さらにミリアルドの案内で本部内を駆けた。 


「講堂はこの先です!」

 更なる上階へ伸びる、長い階段を見上げる。

 ようやくたどり着いた。 

 この先に……あのバランがいる……!

「行くぞ!」

「はい!」

 階段を駆け上る。

 扉の前には護衛だろう、二人の騎士が立っている。

 俺たちに気付いて武器を構える。

 即座にこちらも剣を抜き、それぞれ一撃で気絶させた。

 この扉の向こうだ。

 意を決し、俺は扉を開け放ち、進入した。

 途端、数百の瞳が一斉に俺たちを射貫いた。


「……誰も、避難していないのか……?」

 教団の幹部が講話をするというだけあって、この堂はかなりの広さがあった。

 一人一人に椅子が用意され、それでいて収容人数はざっと見ても三百を越えている。

 しかし、そこにぎっしりと集まった人々は皆、この騒ぎの中で誰一人として席を立っていないのだ。

 まるで、今までは何もなかったかのように……喧噪はこの時より始まる。

「誰だ、あれ……」「せっかくのお話なのに……」「あれ、指名手配の……!」「うしろにいるの、ミリアルド様だぞ!?」「ミリアルド様が……二人……!?」

 ざわざわと、人々に恐怖と焦りが伝播していく。

 まさか……この騒ぎを、聴衆に知らせていないのか……?

 

「よく来たな、狼藉者どもよ」

 まさに今、壇上に立っているのが醜く肥太った神官、バラン・シュナイゼルだった。

 その横にはもう一人の――偽のミリアルドもいる。

 言い口からすると、侵入者がいたことをすでに知っていたようだ。

 だが、うしろで控えている他の幹部たちは、俺たちに驚愕の目線を送っている。

 知っていて、バランは聴衆にも他の幹部にも、俺たちのことを報告しなかったのだ。

 ……なぜだ……?

 訝しむ俺のことなど気にも留めず、バランは話を続ける。

「せっかく刑を逃れたのだ、どこぞへと身を隠していればいいものを……」

「愚かにも、また僕の偽物を連れてきましたか。どういうつもりかは知りませんが、無駄なことを」

 偽のミリアルドも発言する。

 同じ顔、同じ声だというのにこうまで口振りが違うか。

「お前らをいつまでも調子に乗らせておくわけにはいかないんでな」

 言うと、バランは薄汚い高笑いをした。

 見目も声も、すべてが俺の神経を逆なでする男だ……!


「みなさま、どうか落ち着きください。こやつらは先刻より我らが教団に入り込んだドブネズミ。しかしご安心を、正義なき者どもには、女神の天罰が下されます」

 騒ぐ聴衆へと声を張り、伝える。

 驚くことに、その言葉で聴衆のおののきは収まりつつあった。

 全員、このバランをそれほどまでに信用しているのだ。

 バランがこう言ったのだから、自分たちは安心だ、と。

 ……そして実際、バランはその自信があるのだろう。

 だから聴衆を避難させなかった。

 自分の権威と力を見せつけるために。

 だが……その慢心が隙になる。

「リハルト」

「はい」

 バランの指示に、背に控えていた赤髪の騎士が立ち上がった。

 白い鎧に赤いマントを翻す、ともすれば正義の味方に見える様相。

 リハルト・レキシオン。

 俺たちを陥れたバランの腹心だ。


「久しぶりだな、リハルト」

「…………」

 俺が喋りかけても、何の返事もしてはくれない。

 興味などないと言うことか。

 だが、それはこちらも似たようなものだ。

 奴と打ち合う必要はない。

「――ミリアルド!」

「はい!」

 今俺たちが成さなければならないのは、調子づいたバランを失墜させることだ。

 そしてその方法はすでに手中にある。

 ミリアルドは背負っていた神獣鏡を取り出し、鏡面をもう一人のミリアルドへと向けた。

「神獣鏡よ! その神通力を以て、我らに真実の姿を見せ給え!」

 詠唱に応じ、鏡が輝き出す。

 その光を見、何かを感じ取ったかリハルトが動き出した。

 だが、思うようにはさせんよ!

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