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第百二話 突入

 本部のごく近くまで接近したところで、俺たちは近くの茂みに身を隠す。

 計画通り、イルガは本部の周囲を旋回し、時折咆哮して威嚇している。

 周囲に集まっていた人々が巨大な竜に恐怖し、蜘蛛の子のように散り散りに逃げ出し始める。

 神聖騎士たちが続々と出撃し出したが、民衆の混乱に手間取ってうまく展開できずにいた。

「よし、今のうちだ」

 逃げる人たちの間をくぐるように、俺たちは本部へと走り寄っていく。

 騎士たちもそんな状況では俺とミリアルドの存在を把握できず、ほとんど素通りに近い状態で入り口までやってくることが出来た。

 入信者を迎え入れるために大扉は開け放たれている。

 侵入は容易だ。

 だが、問題はここからだ。


「騎士たちが巡回していますね……」

 壁に隠れ、道の先を覗きながらミリアルドが言う。

 外の見張りをしていた騎士たちをかいくぐることは出来たが、当然本部の中にも神聖騎士は配置されている。

 少なくない数の騎士が、周囲を警戒して歩き回っていた。

「どうする?」

「見つからないように行くのは……現実的じゃないな」

 一本の通路に置かれている騎士は二人。

 人っ子一人、ネズミ一匹逃すことのないよう、通路の両側をそれぞれ往復している。

 死角はないようだ。

「なら、彼らには悪いが……少しの間眠ってもらう」

 となれば、実力行使しかあるまい。

 タイミングを見計らい、騎士が俺たちの目の前を通り過ぎる瞬間に、鞘に納めたままの剣で殴りつけた。


「ぅぐっ」

 衝撃に昏倒し、騎士が倒れる。

 しかし当然、その異常事態にもう一人の騎士が気付いて振り向いた。

「キサ――」

「そぅらっ!」

「ぐはっ」

 キサマら、とでも言おうとしたのだろうが、大声を出される前に、ローガの剛力の蹴りが脇腹に沈んでいた。

 イグラ族の脚力から放たれる蹴りは、鎧越しでなければ背骨が折れていただろう。

「よし、先に進もう」

 その後も、同じように騎士たちを殴り倒しながら奥へと進んだ。

 バランとは違い、純粋に正義のための仕事をしている騎士たちを攻撃するのは胸が痛むが、こうする他ない。

 あとで謝って回ろうと決め、今は心を鬼にして道を進んだ。

 だが、それだけでバランの下にまでたどり着けると言うほど、ティムレリア教団内部は甘くはなかった。

 講堂があるという上階に続く階段がある部屋へと、俺たちはたどり着く。

 しかしそこで突然、耳をつんざくような強烈な音が響きわたり始めたのだ。

 鐘を高速に打ち鳴らすようなそれは、発信源がどこにあるのか掴めない。 


「くそ、なんだ!」

「警鐘を鳴らす術です! 感づかれたみたいです!」

 ミリアルドも焦り気味だ。

 気絶させてきた騎士の内の誰かが意識を取り戻し、通達したのだろうか。

 何にせよこの音を止める術はない。

「こうなれば、強行突破しかないな……!」

 みんなに伝え、俺たちは上階への階段を一目散に駆けた。

 無駄に広く、大きく作られているこの本部施設では、まだ道半分ほどしかたどり着いていないというのに。

「いたぞ!」

 階上にたどり着いて早々、前方から騎士が三人、武器を持って現れる。

「捕まるわけには!」

 こんなところでもたついている訳には行かない。

 もうバランの喉元に手が届こうというのだ。

「うしろを警戒してくれ!」

 三人にそう伝えると、俺は鞘ごと抜いた剣を構え、騎士に向かって突進した。

「その顔、手配書の女か!」

 騎士も右手に剣を、左手に盾を構えて対応する。

 踏み込みからの斬撃。それを俺は地面を蹴って右ステッップで避け、頭部に打撃を与える。

 残る二人の騎士が左右から同時に槍を突き出してくる。

 跳躍。身軽に避け、着地と同時に一方の騎士に足払い。

 倒れたところを踏みつけると同時、もう一人を睨みつけた。

「ぬん!」

 槍の叩きつけ。倒れる騎士を足場にもう一度ジャンプ。

 避けつつ飛びかかり、頭部に膝蹴りを叩き込んだ。


「よし……! 行くぞ!」

「ええ!」

「急ぎましょう!」

 とりあえずの窮地を凌ぎ、三人を呼ぶ。

 だが、ローガだけはそこを動こうとしなかった。

 階段の下を見つめ、深刻そうな表情でじっと固まっている。

「どうした?」

「……クロ。俺よ、昔から一度言ってみたかった台詞があってさ」

「は?」

 不敵な笑みを俺へと向け、ローガは大剣を背から引き抜く。

「"ここは、俺に任せて先に行け"……ってな」

「な……」

 こんな時に何を、と思った瞬間、その可能性に思いついた。

 ローガは……イグラ族は並外れた嗅覚を持つ。

 もしや……。

「何人、迫ってきてる?」

「……人と鉄の数が多すぎて正確にはわからんけどよ。……ま、三十は降らねえんじゃねえか?」

 三十人以上の騎士たち。

 例えバランの元へとたどり着くことが出来たとして、背後からそれだけの人数の騎士がやってくれば、ひとたまりもない。

 だが、かといってここで応戦したとして、四体三十を勝ち抜ける保証はない。

 一網打尽にされる恐れは、充分にある。

 と、なれば。

「もうすぐそこまで来てんだ、考えてる暇はねーぞ」

「くっ……」

「心配すんなって。ちゃっちゃと追いついてやっから」

 ローガは強い。

 だが、数が数だ。

 最悪、殺されてしまうのではと考えずにはいられない。

 どうする……?


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