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第百一話 ソルガリア大陸へ

そして、翌日。

 一日経つと、船内の空気はガラリと変わった。

 作戦決行当日なのだ。

 その緊張感は、計り知れない。

 俺たちは船室に集まって、この作戦の概要を改めて振り返ることにした。


「あと数時間で目的地点だ。そこに着いたら私たちは、イルガに乗ってソルガリア大陸へ先行する」

 イルガが頷いてくれる。

 この作戦にはイルガの存在が必要不可欠だ。

「ソルガリアに入ったらそのままティムレリア教団の本部まで直行だ」

「行ってどうする? 本部に突っ込んでいいのか?」

 手っとり早いのはそうだが……残念だが、それでは不必要な犠牲が多すぎる。

 今日はティムレリア教の集会日だという。

 バラン他幹部のありがたいお話を聞くために、入信者たちが多数集まっているらしい。

「私たちは本部の近くで降りる。そしたらイルガは、飛竜の姿のまま周囲を適当に飛び回ってくれ」

 ティガ族の飛竜の存在を知っている人間はさほど多くはない。

 巨大なドラゴンが上空を飛び回っていれば、魔物が現れたと勘違いして人々は逃げ出すだろう。

「その混乱に乗じて俺たちは教団に侵入する。人払いも出来るし、一石二鳥だ」

「ただ、それではイルガさんが攻撃を受けるのでは?」

 サトリナは心配そうに言う。

 俺もそれは懸念していた。教団の神聖騎士たちはイルガを撃ち落とそうと躍起になるだろう。

「己れなら多少は平気だ。適度に逃げ回ったら離れて人の姿に戻り、合流しよう」

「すまない、イルガ。頼むよ」

 ここは、ティガ族の体力に期待するしかない。

 

「侵入したら次はどうするんだ?」

「講堂を目指すのがいいと思います。幹部の講話はそこで行われますから」

 ローガの問いにミリアルドが答える。

 講話にはバランも参加する。当然、偽のミリアルドも一緒のはずだ。

「人々が集まっていては、一暴れとは行きませんわね」

「そうですね。でも、考え方を変えれば、多くの人の前でバランの悪行を暴けるチャンスでもあります」

 神獣鏡で偽物の正体を集まった入信者たちに見せつけられる、ということだ。

 そうすれば必然、バランは追いつめられるだろう。

 民衆を一気に味方に付けることが出来る。

「無理はしないようにしよう。無関係な人たちを傷つけたくはない」

 いくらバランを失脚させるためとはいえ、余計な被害を出しては意味がない。

 清く正しく……というと変だが、ミリアルドのこれからの活動に支障をきたすような真似はしない方がいい。


「あとは、月岩塩とかいうヤツも探した方がいいんだよな?」

「いえ、それは後回しでもいいと思います。いくらなんでも、本部に隠しているとは思えませんしね」

 ローガの問いにミリアルドが答える。

 例の手紙の話だ。

 確かに放っておけない事件だが、それはバランを捕らえた後で尋問でもすればいいだろう。

 一度侵入してしまえば、騎士たちが追いかけてくるはずだ。

 下手に横道に反れて、そこが行き止まりだったりしたら一巻の終わりだ。

「灯台下暗しとも言う。怪しい場所があったら、記憶しておいた方がいいな」

「ああ、そうしよう」

 イルガの意見ももっともだ。

 確認するのは後だとしても、臭いそうな場所は覚えておいて損はないだろう。


「……作戦はそんなところか」

「ですね。……到着までもう少しです。みなさん、よろしくお願いします」

 船は変わらぬ速度で海上を進む。

 もうほんのわずかな時間で、作戦は開始される。

 緊張のせいか、心臓の鼓動を強く感じる。

 ……もう少し、あと少しだ。

 絶対に成功させて見せると意気込んで、俺は時が経つのを待った。


 そして、その時はやってきた。


「大陸が見えましたね」

 甲板から覗いてソルガリア大陸の岸が見えだした。

 もはや目と鼻の先だ。

「船を止めますね」

 クリミアが指示を出すと、船の帆が畳まれ速度が収まっていく。

 完全に止まったところで、イルガが船の先端まで移動した。

「行くぞ」

「ああ、頼む」

 頷いて返すと、イルガも頷き返し、そのまま海へと飛び込むように跳んだ。――次の瞬間、大量の水しぶきを上げて、飛竜が姿を現した。

「うひゃあ、やっぱすげえな、これ」

「ええ。……少々、乗るのが怖くなりますわ」

 見るのは二度目のローガとサトリナがそう口にする。

 確かにある種の恐ろしさはあるが、怖くなどはない。

 俺たちの、頼れる仲間の力だ。

「ミリアルド様、こちらを」

 ゲザーさんが、丸い包みをミリアルドへと手渡す。

 偽物の正体を暴く神獣鏡だ。

「ありがとうございます」

 それを背負い、包みの余りを胸で縛り付ける。

 これが、俺たちの切り札だ。

「結局、使い方はわかったのか?」

 ローガの問いに、ゲザーさんはうむと一つうなずく。

「古文書には、神の力を流し込めば鏡は輝き出す、と」

 神の力……神霊力のことだろう。

 となれば、ミリアルドの十八番。お誂え向きだ。


「さあみんな、背に乗るんだ」

 俺が先導してイルガの背に乗り移っていく。

 鱗の一つに手をかけるようにして、体を固定する。

 全員が乗ったところで、イルガは翼を羽ばたかせて飛翔した。

「では、クリミアさん、また後で!」

「はい! 作戦の成功を祈っています!」

 クリミアさんが敬礼して返してくれるのを見送って、イルガは空を駆けだした。

 空気を裂いて飛竜が疾走はしる。

 船の速度も相当だったが、イルガの方が数段速い。

 思っていたよりも多少早く、教団へ到着しそうだ。

「すげえ……! ほ、本当に空飛んでるんだな、今!?」

「はしゃがないでくれます? うるさいですわ!」

「だ、だってよ……!」

「確かに、この感覚は不思議ですけど……」

 俺とミリアルドは飛空艇で一度飛んだことがあるが、ローガとサトリナはこれも初めての体験だ。

 騒ぎたくなる気持ちもわからないでもない。

「飛空艇と違って、生の空気は迫力が違いますね!」

 隣で掴まるミリアルドも、ある種いつも通りに興奮しているようだ。

「振り落とされるなよ?」

「はい、気をつけます」

 例え落ちても下は海。ひどい有様にはならないが、それでも注意するに越したことはない。

 余計な手間をかける時ではないのだ。


「そろそろ陸に上がるぞ」

「ああ、頼む」

 海を越え、俺たちはついにソルガリア大陸の陸上へ入った。

 真下にはキング・トリニスタン号が入港する予定の港がある。

 一瞬でそれを通過して、俺たちはその鼻先、ティムレリア教団本部を視界に捉えた。

「この辺りでいい。降ろしてくれ」

 指示すると、イルガは減速して着地してくれる。

 全員が背から飛び降りると、イルガは再び浮上した。

「さっき話したとおりに頼むよ」

「ああ」

 一言交わし、イルガは教団へ向かって翔ける。

「私たちもすぐ向かうぞ」

 それを追うように、俺たちも走り出した。


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