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第九十九話 平和な世界を目指すために

 翌日、朝。

 俺たちの決戦への旅出を祝ってくれるかのように、快晴の青空が広がっていた。

 出航は昼だが、このセントジオガルズから港までは少々距離があるため、俺たちは早々に準備をして、城を出ることにした。

 の、だが。

 ここでまた問題になるのが、サトリナだ。

 本人は今まで同様、当然のように着いてくる気満々だったのだが、そううまくは行かないだろう。

 何せ今回の目的はティムレリア教団への侵入。

 うまくバランの悪行を暴くことさえ出来れば俺たちの正義は証明されるが……失敗すれば、俺とミリアルドだけでなく他のみんなもめでたく犯罪者だ。

 他はともかくサトリナがそうなってしまえば、このセントジオ王家の名前に泥を塗ることになってしまう。

 今回ばかりはサトリナも、そう簡単には……

 と、思っていたんだ。

 つい今までは。

 

「さあ、行きますわよみなさん!」

 実際城を出てみたところ、俺たちの目の前で意気揚々と声を張り上げるサトリナがいたのだから驚きだ。

「抜け出してきた……んじゃ、ないよな」

 もしそうならこんな城の正門真ん前に堂々といないはずだ。

 つまり……許しが出たと?

 そんなバカな。

「此度の作戦は、ソルガリアのみではなくこのセントジオガルズ、ひいては世界全体の平和に関わる事態。お兄さまは私に、セントジオを代表する使者の任を授けてくださいました」

「平和の使者ということですね」

 ミリアルドが喜びを表情に表しながら言う。

 それはまた……クリスも思い切ったことをした。

「ようやくお兄さまも、私の実力を認めてくださったということですわ」

 今まで、抜け出すことでしか城や国の外に出ることの出来なかったサトリナだ。

 正式な任務を与えられたのが誇らしく、喜ばしいのだろう。

 ……しかし。

「……王様もついにあのお転婆の制御を諦めたな」

 詳しく話を聞いたわけではないが、サトリナが事ある度に城、及びセントジオガルズを抜け出していることは知っている。

 それこそローガは、ラクロールで初めてサトリナと出会ったのだ。

 それもきっと抜け出して、黙って闘技大会に出場しようとしたのだろう。

 またいつ勝手に抜け出され、得も言われぬ不安に駆られるよりは、何かしらの役職を与えて行動してもらったほうがいっそ楽なのだと気付いたのだろう。

 クリスがそう思い、決めたのならば……。

「……もはや何も言うまい」

 耳元で囁かれるローガの言葉を否定はせず、とにかく戦力が削られることのないことを素直に喜ぶことにして、港へと向かった。


「いよいよだ、みんな」

 馬車に揺られ、港へ向かいながら仲間四人へと話をする。

 他にソルガリアへ渡る人たちも、先に後にと港へと向かう。

 この馬車は俺たちのためだけに用意されたものだ。

「ソルガリアへ行けばもう退くことは出来ない。バランをとっちめるか、捕まるかだ」

 ここで終わらせる。

 不本意な逃走劇も、魔王の復活への序曲も。

 バランを倒し、魔王城へ向かう。

 世界に平和を取り戻す。

 その第一歩を、ようやく踏み出せる。

「みんな……よろしく頼む」

 俺の言葉に、ミリアルドも、ローガも、サトリナも、イルガも、静かにひとつ頷いてくれる。

「ええ。魔王を滅ぼし、この世に平和を取り戻す、そのために……クロームさん、頑張りましょう!」

 ミリアルドとの出会いが、俺の運命を変えた。

 親友を失ったり、不当な罪を被ったりもした。

 だが……決して、悪いばかりの運命ではなかった。


「俺としちゃ乗りかかった船だ。ここまで来たら行くとこまで行くさ」

 ローガとは文字通り船で出会った。ミリアルドを除くこの面子では一番長い付き合いだ。

 その力や嗅覚には何度も助けられた。

 そして、きっとこれからも。

「平和の使者として、バラン・シュナイゼルという男を許すことは出来ません。セントジオの誇りにかけて、打ち倒してみせますわ」

 初めこそ、半ば興味本位で同行しだしたサトリナだが、今となっては彼女も、この世を憂う優しき人間の一人だ。

 その槍技で、きっと世界を覆う暗雲を切り開いてくれるだろう。

「今ある平和は、父が勇者と協力して手に入れたものだ。父の想いを受け継ぐ者として……己れは、お前のために戦おう」

 かつての仲間、バラグノ。

 その娘となるイルガは、俺の正体を知る数少ない存在だ。

 だが、だからこそ彼女は、俺と心を通じて戦ってくれる。

 みんな、俺に協力してくれる大事な仲間だ。

 同行の理由こそそれぞれだが、目的はひとつ。

 世界平和だ。

 想いを一つに重ねれば、それは決して折れることのない、不屈の矢になる。

 この矢を、バランに届かせる。

 世界に魔物を蔓延らせんとする、バランの謀略を許すわけには行かない。

「待っていろ……!」

 そう、安寧の世の中は、もはや目の前だ。

 誰も苦しむことのない世界を。

 魔物が人を襲わない世の中を。

 目の前にいながら救うことの出来なかった友への、手向けとするために。

 俺は……成し遂げてみせる!


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