7.パーティー戦・下
ほんの数日。されど数日。
ここから出るまでの間同行させてもらうだけだから、私はお客様で、警戒されたり同情されたり親切にされたりしている。
戦い方について教えてもらえることもその一環であったのだけど、とにかく嬉しくて、どんどん戦闘に参加させてもらった。
「いっけぇーーーーーっ!」
「もうほんと楽しそうだよなぁ、あんた……」
リークは今ではもうすっかり私に呆れている。顔が引きつっているから分かる。冒険者なら戦闘に慣れているはずなのになぜそんなに引くのだ。
「いゃあ!!とお!!やぁっ!」
一々大声を上げて肉弾で魔物を倒して行く私を彼らは見守ってくれている。
「なんで満面の笑みなんだよ」
「戦闘狂?」
「本当に今まで戦ったこともなかったんでしょうかねぇ」
「あいつがやべぇんだろ……」
だってだって。本当に楽しいの。私の魔法で、こんなにも戦闘で活躍できるなんて!しかも、戦えば戦うほど強くなっていくのよ。やりがいしかないじゃない。
そしてこの、確かな手ごたえ!
生きてる!!(私が)死んでる!!(魔物が)命の連鎖!!(ってなんだっけ?)
「そおおおっ……おお、れ!!!」
最後に回し蹴りでネズミ型のモンスターを蹴散らして終わらせた。
「ふぅ……」
いい汗かいた、そんな気持ちで振り向くと、何とも言えない表情の彼らが見ていた。
「……生き残れる訳だぁな」
シルバーが横を向きながら言った。ちょっと笑っている気がする。
「楽しい?戦うの?」
アンリが駆けて来る。
「えぇ、とっても!!天職を見つけた気持ちになりました。どうして女子には戦闘訓練をしないのでしょうね?私には向いてるような気がするのですが……」
「あんたは向いてるよ……」
「そうだと嬉しいです!」
「新人の訓練をすることもあるけれど、こんなに急激に上手くなる人にはお会いしたことはないですよ」
「まぁ俺も……ねぇな」
本当に見込みがあるなら励みになる。この身一つで生きて行くのなら、この先誰にも頼れないのだから。
「あの宜しければ……普通の冒険者の後輩が入ってきたように教えて頂けないでしょうか?」
「え?」
彼らはとても優しくて、さらに私の生まれの身分のこともあるので、ちょっと過剰に気を遣って誉めてくれている気がするのだ。
「私が冒険者の中でやっていけるのか、本当の意味で知っていきたくて。皆さんが冒険者になられた頃はどんな感じだったのでしょうか?」
実力だけの世界なのだから、想像よりずっと厳しいんだろう。
「ああ、なるほど……」
「あー?」
「うーん?」
みんなの反応が鈍い。はてな?と思っているとシルバーが言った。
「冒険者は……そもそも教えねぇだろ」
「……え?」
「見て覚えてくんだよ。使えねぇやつは仲間にしねぇからな」
リークが頷く。
「俺らはまだガキだったし、大人は優しくなかったなぁ。厳しかったし、殴られたりしながら、必死に覚えたよなぁ」
「そうだね。リークがいつも助けてくれた」
「そんなんお互い様だろ」
「ここに入れて貰えてからは教わった」
「その前はないよなぁ」
アンリとリークが言う。
「それは……失礼しました」
納得する。単純に感謝していたけど、まだまだ考え方が甘かった。この人たちは、自分たちは教わったこともなかったのに、親切にも教えてくれていたのだ。
「だが俺は、トマスに教わったがな」
「あぁ、そうですね」
トマスさんがシルバーに笑いかけると彼は気まずそうに顔を逸らした。
「僕はギルドからの依頼で、時々指導の依頼を受けるんです。シルバーもそう。だから教えるのに慣れてるんですけど、普通はあまり教えないかもしれないですね」
「分かりました。沢山教えて下さって、私は大変助かりました。皆さん本当にありがとうございます。とても感謝しています」
頭を下げると、気にしないで、と声を掛けられる。
「何でも聞いてください。一つずつ覚えてみてください。経験と知識が全部役に立ちますよ」
「はい。ありがとうございます!」
「アウレリア、お互いにしよう?」
「うん?」
「教わりたいし、教えたい」
「うん!!」
彼らは言葉通りに、分からないことを聞けば、細かい道具から危険の見分け方まで詳しい戦い方を教えてくれるようになった。
夜になるとアンリと隣り合わせで眠った。
「魔法教えて……」
「うん」
アンリはとても可愛い。
本来は妹がいたら、こんな風に可愛いものなのかもしれない、そんな風に思ってしまったら、少し落ち込んだ。
妹のことを思い出したのだ。
仲が悪く、お互いに愛情を感じられるような仲じゃなかったから。
アンリは少し言葉足らずだけど、素直な性格をしていて、とても賢い。どんなこともすぐに覚えて自分のものにしてしまう。
アンリは独学で魔法を学んだ魔法使いなのだそうだ。教会と、町の本の蔵書から学んだそうなのだけど、学園で学んだ私は彼女より知識は多かった。一日の戦闘が終わって寝るまでの間は、毎日彼女と話した。人見知りの彼女が、少しずつ心の内を聞かせてくれるようになっていくのを感じる。
「魔法もっと学びたいの」
アンリは言う。彼女ならどこまでも学んでいけそうに思える。
「そうですね。学校とかですか?」
「うん、本だけでもいいけど、読めるところに入れないから」
私は少し考える。
「この国では難しいですけど……魔法国家フーリエの学園の話を聞いたことがあります。魔法の才だけで学園を受験出来て、成績によっては学費が免除されることもあるそうです」
「へぇぇ、いいなぁ。フーリエ行ったことないよ」
「一緒にフーリエを目指しますか?」
「え?」
「ちょうど他国で冒険者になろうと思っていたので、どうせならそちらに向かってもいいと思います」
「……私でも入れる?」
「平民にも、全ての民に開かれている学園だそうです。フーリエは実力主義の国だと聞きます。行ってみなければ私も良く分かりませんが」
「え……行きたいな……いけるのかな……リークにも聞いてみないとだけど」
頬を上気させて笑顔を浮かべるアンリがとても可愛い。
「アウレリア、教えてくれてありがとう。考えてみるね」
「うん」
「でもフーリエ……いつか行ってみたい」
「行けるといいですね」
なんだか初めての、何でも話せる女の子のお友達が出来たような気がしていた。だから助けになれることがあるなら、手を貸したいと思えるのだ。
「もうすぐ、パーティー解散するの」
「え?」
解散?
「えっとね、私たち隣の国の、山の中に捨てられてたの。リークと二人、凄く小さなとき。あんまり覚えてない。それで孤児院で育てられた。12歳のときに独り立ちするまで」
驚いて、私は顔に出ていたんだろう。アンリが慌てて言った。
「あ、珍しいことじゃないよ。戦争があったから。貧しくて、子供を育てられなかったり、逃げる途中にはぐれたり、親が亡くなったり、そんな子たちが当たり前に溢れてた」
12歳。私はそのころ、安全な屋敷の中で暮らしていた。まだ、子供の歳だ。
厳しく育てられてはいた。
『どうしてこんな当たり前のことも出来ないんだ』『お姉さまは恥ずかしいです』
兄と妹にそんなことを言われる度に、私は消えてしまいたいと思っていた。
だけどこの双子たちは、その歳でもう一人立ちしていたのだ。
――『お前はこの家に相応しくない』
そんな言葉で彼らが私を貶めるのも、私がただ落ち込むのも、今思えば守られて育つ不自由のない子供でいられたからだ。
「孤児院を出てからは、リークと冒険者になったけど、二年経った頃依頼先で死にかけた。そうしたらシルバーたちが現れて、助けてくれた。助けられなかったら死んでたと思う。それからこの二年、パーティー組んでたんだ。魔法使いが必要だって。私たちトマスとシルバーのおかげで、凄く強くなれた。でも、シルバーがそろそろ抜ける話をしてたから、きっとこれを最後に解散すると思う。そうなったら私たちも他国にも行くかもしれない」
「……そうなのね」
兄妹で身を寄せ合って、生きる糧を稼いでいく。それだけでも凄いことだ。
きっと何度も死ぬような目にあって、そうしてこんなに強くなってる。
独学で学んだ魔法はかなり高度なものだ。私が使えない魔法も使いこなしている。
一人前の冒険者として、戦い方も熟知してるとても立派な女の子だ。
「トマスもシルバーも、リークも、皆助けてくれた。でも、私は、もっと強くなりたい。頼られるくらいに強く。アウレリアみたいな知識を学べるなら、学校に行きたい」
「……」
凄いな、と思う。
私はこの年になってから初めて自分に向き合ったのに、この子は私より若いのに、ずっと深く考えて、自分の足で立って生きている。
……尊敬するな。
「えぇ……もし受験を考えるなら、私もお手伝いしますよ。基礎学力も見られるのでしょうし」
「いいの!?」
「もちろんです!こんなことでは恩は返しきれません」
眠りに落ちる前に、少しだけ未来を思い描く。
アンリとリークと一緒に魔法都市に行って、アンリに勉強を教えながら冒険者活動をする未来。考えるだけで楽しそうで、なんだか笑ってしまう。そうしてその晩、幸福な夢を見た。
フーリエで冒険者活動をしている私の側に、トマスさんもシルバーもいるのだ。私は一人で活動してるんだけど、でも、時々出会って、皆で笑ってる。
目を覚ましたとき、夢だったことに少しがっかりしたくらい、その夢は私の心を満たしてくれた。
そうして少しだけ未来への希望を持った。
――そうしてこの後すぐに、私たちは目的地にたどり着く。




