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婚約破棄された令嬢は、断罪の谷から這い上がる  作者: 水流花


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6.パーティー戦・上

「僕らはね、冒険者ギルドからの依頼で、谷底の小部屋を探しているんです」


 夕食の用意を終えた後、トマスさんが言った。


「小部屋ですか?」

「実際部屋なのか分からないんですが、壁に封印の魔方陣があったらしく、財宝でも隠されているんじゃないかとお金持ちの方が思ったそうでして」


 なんともまぁ。こんなところに魔方陣が。


「夢のあるお話ですけど、こんなところに財宝なんて……あるんでしょうか」


 持ってくるのも大変だし、そんなに持って来られないし、持っても帰れないし。現実的とは思えない。


「どうせないだろうなー」

「魔方陣気になる」

「どうですかね、高貴なお方らしく、断れなかったんですよね」


 辺りを見回って来たシルバーも戻って来て私たちの横に座った。


「シルバーは、財宝あると思う?」


 リークが聞くと、シルバーは考えるようにしてから言う。


「知らねぇよ。見つかったらいいがな」

「そうだよなぁ」

「僕らが依頼されたのは、場所の特定だけですね。封印の解除など出来ませんし」

「封印……」


 財宝があるとは限らない。

 その小部屋になにか悪いものがある可能性だってあるんだろう。


「魔物を封印とか……そういう可能性ありますよね?」

「話には聞きますが、それを出来る冒険者はあまりいないかもしれません」

「私出来ない」

「姫さんなら出来るのか?」


 シルバーに問われ考える。


「強い魔物は出来ないです。倒した方が早いですし、ごっそり魔力を持っていかれるのにわざわざ封印する理由もないですし」

「……そうか」


 もしもそんなことをするとしたら、出来るのは王国の魔法使いたちになると思うけど、こんなところに封印する理由もないだろうし。


「…………おい、あんた、これなんだよ!」


 私の焼いた肉に齧り付いたリークが叫んだ。


「え?」

「うめぇよ!!」


 リークの言葉にそれぞれが手に持っている肉を見て食べだした。


「……本当だ」

「美味しい」

「……」


 私は首を傾げる。

 そう言えば魔物肉の調理を始めたときに皆が無言で見守っていたけれど、もしかして。


「魔物の肉ってみなさん食べてないんでしょうか……?」


 毎日食べていたので当たり前に作ってしまった。


「ちゃんと調理しないとまずくて食べられないんだ。だから冒険者たちが旅の間に食べることは少ないかな。他に食べるものもないときとかね」

「……?浄化したせいでしょうか?」

「毒素とかだけじゃなくて、臭みがなくなってる?浄化だけなのかな?」


 アンリが首を傾げている。


「この最高級のお肉みたいなのは一体……」

「…………うめぇな」

「美味しい」


 浄化?それとも謎の谷底の塩?


「毎日この……素晴らしいのを食べてたの?」

「はい」

「そりゃ……元気でいられるよね」


 なんだか不思議な納得のされ方をしてしまった。


「食わせてくれる?毎日?」

「ええ、良かったらもちろん……」


 あれ?ずっと不機嫌そうに対応されていたリークが瞳を輝かせて私を見つめている。


「もっとうまい肉あった?」

「そうですね、やはり、見た目がもう美味しそうな肥えた獣型のあれとか」

「それも食わせろ!」


 これはもしや。餌付け。


「これただの浄化じゃないよ。アウレリアの魔法、たぶんちょっと特殊なのかも」


 アンリが言う。


「そうかしら?」

「最初からこの味だった?」

「そういえば、最初は変な味がした気もしたけど……」

「たぶん、まずく感じるものも排除してる?そういう魔法ある?」

「そんな魔法知らないないですけど……」

「私も初めて見る」


 じっと手を見る。

 それってこの魔法だけ……?今日まで、一人でも何の問題も感じなかった。自分の生きることへの順応力が高すぎて怖かったけど、無意識に何かの魔法を混ぜてしまってたのかしら?


「変なやつだなぁ」


 リークに言われて、私もそうよねぇ、と同意してしまう。


「自分でもおかしいと思うのですけど……」


 この心境を言葉に出来るかしら。


「ここに落ちて、自分の使える魔法を全て使い戦って……それが、思っていた以上に自分に向いていると思ってしまったんです」

「はぁ?」


 リークが呆れ声を出す。


「正直に言うと……楽しかったのです」

「……楽しい?」

「はい。今までの人生は『しなくてはならない』ことの連続のようでした。ここに来て初めて、自分の為に全力を出し切ることを知って、生きる喜びを感じられたのです」

「生きる喜び」

「魔物とはいえ生き物の命を奪って……食べて……そうして私は生きている、そんな実感を得られたのは初めてでした」

「普通は食べねぇんだよ……」


 ちなみに最初のツッコミはトマスさん、次はアンリ、最後はシルバー。


「私、という肉体を、有効に使っている感覚は心を満たしました。本当にもうものすごく楽しかったので、私は隣国に渡り冒険者になることを決めました」

「急展開……」


 アンリが言った。

 全員が、笑い話なのか本気なのか判断が付かないという表情をしている。もちろん本気なのだけど。


「ふふふ。信じられませんよね。けれど本心なのです。宜しければ冒険者の皆様に、色々とご教授頂けましたら幸いです。宜しくお願いいたします」


 頭を下げると、あ、うん、とか、おおう、とか、うん……とかの、戸惑う返事が聞こえた。

 きっとおかしなことを言う、元貴族の令嬢だと思っているんだ。それでも全員、親切にしてくれている。きっとこの人たちは、とても良いパーティーなんだろうって思う。







「嬢ちゃん、攻撃を」

「はい!」

「よし、下がって。あとはシルバーに任せる」


 彼らは本当はいつもなら雑魚相手にいちいち指示は出さないそうなのだけど、慣れない私を少しずつ戦闘に参加させる為にトマスさんが的確に教えてくれた。

 パーティーでの戦闘を繰り返していく。

 それは想像以上に面白かった。


 特異な分野はそれぞれに任せて、自分の役割を確実にこなす。

 何も戦闘じゃなくたって、生徒会だって、グループワークだってそうだったけど、ミスが命取りになる冒険者同士で背中を預けることは、真剣さが違う。パーティーでのそんな戦い方は初めてで、とても楽しかった。


「倒せました。お疲れ様です。アウレリアさん」

「こちらこそです。お疲れ様です!」

「筋が良いというか……物覚えがいいし、なにより楽しそうですね?」

「分かりますか?戦うのに向いていると思うんですよね。楽しいですよ!」

「はぁ……」


 呆れられるのも日常的になってきた。


「あんた意外とやるよなぁ」


 すっかり懐いてくれだしたリークも誉めてくれる。


「アウレリアの魔法、変わってて勉強になる」

「変わってるのかしら……?」


 自分では良く分からないのだけど。

 

「足手纏いにならなくて良かったです」

「いや、普通に戦力だから」

「素直に動いてくれるのも、とてもやり易いんですよね」

「アウレリアいると楽に戦えるよ」

「私冒険者になれますかね……?」


 ぽつりとそう零すと、珍しくシルバーが言う。


「初心者の動きじゃねぇなぁ。これなら中級としてやっていけそうだ。まぁ、まだまだ、甘いところは多いが」

「はい……」


 戦い方も、冒険者の仕事も、まだ知らない平民の暮らしも、私には分からないことの方が多いくらいなんだろう。


「え?じゃあもっと参加させてもいいの?」

「ああ、姫さんならいけそうだ」


 トマスさんの問いにシルバーが答えた。


「冒険者……見込みはあるんじゃねぇか」


 その言葉に驚いてシルバーを見上げたけれど、彼はもう背を向けて歩き出していた。

 やっぱり彼は、口がかなり悪いだけの、良い人なんだろうな。





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作者の短編「最後の思い出に、魅了魔法をかけました」をコミックスピラ様より杏乃先生の手で素敵な漫画にして頂けました。
表紙
コミックシーモアで2025/11/20先行単話配信され、12/18からkindle他各電子書籍サイトから配信予定です。

➡️シーモア「最後の思い出に、魅了魔法をかけました」
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