4.冒険者
作者の短編「最後の思い出に、魅了魔法をかけました」がコミカライズされました!
詳しくは活動報告かページ下部をご覧ください。
その時私は無心で戦っていて、敵意のない何かの気配を感じていた。
目の前の敵を確実に仕留めてから振り返ろうとしていたのだけど――。
「……人ぉ?」
「冒険者じゃあ、ねぇなぁ……」
「綺麗な……女の人なんじゃないか?」
「ひらひら舞ってる。絵本に出て来そう」
「あれは」
「「「「……姫」」」」
人の、声。
人間が会話している!?
慌てて振り返ると、目を丸くするようにして、冒険者風のいで立ちの者たち四人がこちらを見つめていた。戸惑うような、怯えるような、警戒の視線が向けられている。
「こんな魔物いんの?」
「知らないですよ。聞いたこともない。シルバーは?」
「あるわけねぇよ……」
「魔物じゃなかったら?お姫様?」
「いや……ちょっと待って。聞いてみましょう」
やっと。
やっと、人に会えた。きっと、冒険者に会えたのだ。
今日も一日戦い続けていて、極限まで神経を張り詰めていた私は、とっさに敵を見る目で振り返ってしまった。一瞬で急所を探してしまう。人間だと認識して、私はだいぶおかしいと混乱する。
だけどこんな私でも、もっとおかしいと思う人が一人いた。
『敵わない人間がいる』
戦わなくても分かる――隙がなく強い力を全身に纏っている男の姿。きっと、とても強いんだろう。
でもとてつもない違和感。強すぎて人間じゃないみたいなのだ。
彼は、鋭い目つきをした、背の高い美貌の男性。銀色の髪に翡翠色の瞳。雄々しくも、優男のようにも見える。あれは誰?――人?
「えーと、お嬢さん?」
彼らのうちの一人、大きな弓を背負っている年配の男性が声を掛けて来た。茶色の髪の、平民のお父さんみたいな人。
「この国の言葉通じるかな?」
「隣国の言葉がいい?コンニチワ」
「〇✕〇✕〇✕?」(聞き取れない)
「反応ないな」
彼は戸惑うように私の全身を見つめていたから、慌てて自分を見下ろした。
ボロボロのドレス。魔物の返り血。恐ろしい恰好をしている。ブロンドの髪も汚れて酷い姿だ。
「ご、ごめんなさい。こんな姿で……」
慌ててクリーンの魔法を自分に掛けると、彼らから「おぉ?」と感嘆の声が上がる。血や汚れだけは綺麗になったのを確認して、私は彼らに礼を取る。
「アウレリアと申します。訳あって、一月ほど前に谷底に落ちてしまいました。一人で地上へ向かう道を探していました」
「……はぁ?」
「え?」
「一月も一人でいたの?」
「嘘だろ、無理だよ」
「訳あってって……どんな訳が?」
「何で生きてるの?」
「やっぱり姫なのか」
「……姫さんねぇ」
口々にいろんなことを言われている。
話しかけてくれた人と強そうな男の他には、私より歳若そうなよく似た少年少女がいる。兄妹なのかもしれない。
「私は姫ではありません。貴族の生まれですが、国外追放された身です。何も持たぬ私は隣国に出て平民として暮らしていく予定です」
決意表明の意味もあり、胸を張り言葉に出して言ってみた。
平民として暮らす覚悟!夢と希望!困難を打ち砕け!
彼らは絶句してしまった。
「……なぁ、人だよな?」
「何言ってんだかって感じだがなぁ……」
「ちょっと、二人とも。黙ってて」
少年と強そうな男が窘められている。仕方なく笑いかける。
「冒険者様方だとお見受けします。どうかここから脱出するまで同行させて頂けないでしょうか?出来る限りご迷惑をおかけしないように致します。私は身を守るための多少の魔法の心得があります。お手伝いもさせてください」
顔を見合わせ合った彼らは暫しの時間こそこそと話し合っていた。
連れて行ってもらうのも、簡単ではないんだわ。
今更だけど、出会う冒険者が善良であるとは限らないのだ。もしも私が戦うことも逃げることも出来ずに、あの時の悪漢のような人たちに出逢っていたら……。
思い出して、ぞっとする。
ぎゅっと体を抱きしめて、思っていたよりもあの時の恐怖を忘れていないことを自覚する。
そうしてその様子を見ていた年配の男性が、頷いて何かを言っていた。
少しして、一番強そうに思えた男性が私の元に歩いて来た。
目の前に立つと、背が高い。
この人は驚くほど見た目がいい。均整がとれた体躯なだけじゃなく、顔が綺麗過ぎるのだ。貴族にだってこんなにも作り物のように美しい目鼻立ちの人はいないかもしれない。けれど目つきの悪さだけが、困難な人生を想像させる。目立つ顔を隠しているんだろう、無造作に伸びた銀髪が少しだけ顔を隠す。
「姫さん」
「……えーと、姫ではありません」
「あんたは、とんでもなく胡散臭い存在なんだよ」
とんでもなく……胡散臭い?
「人柄じゃねぇよ。こんなところで生き残れる姫なんて……いないんだ。魔物だと認識されて殺されててもおかしくねぇ」
「いえ、姫では……」
姫ではないけれど……言っていることは分かる。我ながら、生き残れる適性があり過ぎたと思う。だけど。
「私はただ……使える魔法が多かったのでなんとか生きてこれただけなのです……」
「……」
ジロリ、と彼に睨まれる。
「それがおかしいんだ。冒険者なら、まだ分かる。だが綺麗な姫さん。あんただと、あり得ねぇんだよ」
「そ、そうですね……」
お茶会仲間の令嬢たちを思い浮かべてみたけれど、その中の誰一人でも、今生き残れているだろう人を想像することは出来なかった。確かに。
「私は、なんで生き残れたのでしょうか……?」
思わず聞いてしまうと、彼の後ろに立つ少年が噴き出して笑った。さっき話しかけてくれた弓を持った男性は困ったように見ている。少女はまっすぐに私を見ている。
はぁ、と息を吐いてから、目の前の男は、また鋭い目つきで睨んできた。
「知らねぇよ。歩きながら、話を聞くが。俺たちが一時的に保護はする。任務が終わり次第、町に送っていってやる」
「あ、ありがとうございます!!」
置いていかれるのかと思った。彼のパーティーメンバーたちも頷いている。連れて行ってもらえるらしい。良かった……口と目つきが相当悪いだけの良い人だったのだ!
「俺たちは、確かに冒険者パーティーだ。活動は『太陽を目指す者』としてしている。高ランクであるが故、冒険者ギルドからの調査依頼を受けて来た。俺の名は、シルバーだ」
シルバーと名乗る男の瞳は、警戒を解いていなかった。それでも彼は握手を求めて来たから、私も手を差し出した。
見目とは違う、ごつごつとした鍛えられている手が印象的だった。
「やわらけぇな。良く生き残れたもんだ……」
シルバーも私の手で何かを感じている。
これはきっと、冒険者たちとの初めての邂逅。
二人のこの手の違いは、私たちのこれまでの生まれや環境の違いだ。忘れないように気を付けよう。きっと考え方はそれ以上に違うのだろうから。
「宜しくおねがいします」
違う人生を歩んできた人たちに、手助けしてもらえること。それはきっととても稀有なことだ。
私は心から頭を下げた。




