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婚約破棄された令嬢は、断罪の谷から這い上がる  作者: 水流花


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3.転換期

 毎日いろいろなことを試しながら歩いて。

 ある日、転機が訪れる。


「自分の体で倒す方が楽じゃない……?」


 実際やってる人がいるのかどうかも知らないけれど、強化魔法も魔法付与も行えるから、この肉体に魔法を乗せて、殴ったらどうなるかしら?


 思いついたらやってみたくなった。






「いぇいっ……やあっ!」


 身体には肉体強化。付与魔法で触れたら雷魔法が発動するようにする。万が一に備えて治癒も発動、でもいらないかも。

 犬のような大きさの魔物を蹴り飛ばす。そうして雷属性を持ったまま、狙って飛んで行った先の蝙蝠型の魔物に衝突、二匹とも音を立てて落ちてくる。

 あっさり、倒せた。


「…………」


 一瞬呆然としてから、次に高揚感に包まれる。

 凄い……、凄いじゃないの、楽だわ。

 私……身体能力高いのかしら……?それとも魔法の合わせ技のせい?

 今までで一番倒しやすくて、な、なにこれ?楽しいじゃないの……っ?


 なんだか急にわくわくしてきて、数十匹繰り返すと全ての魔物が撲滅された。


「ふふふふふっ!」


 子供の頃に遊びを思い付いた時のことを思い出す。それ以来の楽しさに思えた。誉められて嬉しいとかそう言うのとは違って、純粋に楽しんでいたころの。


「面白いわよね……?」


 まさかの。肉弾戦に適性があるだなんて。夢にも思わなかった。

 それにたぶん、閉鎖空間に一人きりで過ごし過ぎて、少しおかしくなっているのかも。







 気分が高揚していて、不思議なくらい、戦闘の感覚が研ぎ澄まされていくのを感じる。

 蝙蝠型や犬型、その辺の敵なら、もう感覚で急所が分かる。

 まるでどんどんと、自分が兵士になっていくような感覚。


 ……私、向いているんだわ。

 戦うこと、魔物を……殺すこと、生き残ること、魔法を使いこなすこと。


 そんな自分を全然知らなかった。


「ふふ……」


 なんてことはない、向いていない世界にずっと生きて来たから、あんなにも劣っていたのかもしれない。無理にまわりに合わせてみせようとしてみても、馴染めなくて、ちぐはぐな存在だったのかも。


 これまでのところ、敵なんていない!

 無双状態っ!!

 戦えば戦うほどバタバタと敵が倒れていく。


 謎の万能感に包まれていた。こんなの初めてで。笑っちゃほど楽しくて。心が躍る。

 なんていうか体が喜んでるのだ。生きてるって心から感じられるみたいに。生き残るために戦ってるはずなのに……王城にいるよりずうっと楽しいなんて。


 ああ、でもやっぱり、私は少しおかしくなってるのかも。

 戦うのが楽しいなんて絶対おかしいもの。






 とはいえ。


「お腹空いたわね。食事食事ー!」


 すっかり慣れた手つきで肉を火魔法で焼いていく。途中で見つけた塩のような結晶で味付けも忘れない。


「おいし~わ!」


 自分でも思う。この場所に馴染み過ぎていると。

 だけど……味付けも出来るようになったら、魔物の肉は屋敷のシェフの作ってくれる料理より美味しく感じるのよ。知らなかったわ。どれだけよ。

 がつがつと食べながら思ってしまう。


「……私才能あるわよね?」


 こう、生き残るための力というか。生命力と言うか。こんなところでも野生の獣みたいに生きられる力というか。

 そんな貴族令嬢、居ないと思う。


 もしかしたら本当にそこそこの冒険者になれるのではないかしら?

 そんなことを思い付いてからは、もうずっと冒険者になった後の暮らしのことを妄想してしまった。

 こんな毎日を過ごして、報酬を貰って生きていけるんでしょう?夢のようだわ。


「夢……」


 そんな言葉を呟いて。かつての自分の夢を思い出す。王子妃に、なりたかった。

 あれは夢だったはずなのに。


「もうちっとも、望まないわ……」


 息苦しいだけの世界で義務を課されるだけ、私の心はそれではもう満たされない。

 思えばずっと、心の底から楽しいなんて思ったことなかったのだもの。


 王子の婚約者として立たねばいけない姿があって、そのために学んで……全てはやらなくてはいけないことでしかなくて。少しだけ楽しい、嬉しい、そう思うこともあったけど、今ほどの……生きてる喜びを全身で感じられるようなものじゃなかった。


「王子妃に……なりたかった」


 それは本当にそうだけど。

 その立場にふさわしい姿を皆に望まれたから、私もそうなりたいと……ただ期待に応えたいと……そう思い込んでいただけの気がする。


 家の役に立てと言われた挙句、愛情のあったわけではない婚約者にぽいと捨てられて、冤罪付き。

 ……そんなことになるのを望んだことなんてないわ。


 フロイド様に愛されたいと……そう感じてはいたけれど……。

 一人きりでも心が満たされることを知ってしまった今、あの時の気持ちも疑問だ。


 私はとても寂しくて。幸せになれる未来への選択肢が少なすぎて。ただフロイド様に期待したのかもしれない。


 だって、今は、いらないわよフロイド様。

 私を捨て駒にしたなら、もはや敵。急所を探すわ。愛されたこともないし、きっと……愛したこともなかったんだ。


「愛か……そうよね、そんなもの知らないわよね」


 心がずっとからっぽで、愛されたかったけど、愛も知らない。


「私が欲しかったのは……愛し愛される人。それだけだったんだわ……」


 それはきっと、政略結婚に望んでいいものではなかったのかもしれないけれど。

 そんなものを望んでいたから、余計に悲しかったし、恐ろしかったし、悔しかったし、許せなかった。


 私はどんどん、自分の心に気付いていく。一人で考える時間しかなくて。私は私の心に向き合い続ける。


 私の欲しいものは、きっと簡単には手に入らないもの。

 こんな若さで、良く知りもしない人から得られるものなんかじゃなかったのだ。


 家族からも得られなかった。

 家族も私を見捨てたなら……考えれば考えるほど、敵なんじゃないかしら。

 それなら、それなら私は。


「今度は、私から捨ててもいいんじゃないかしら?」


 まさかそんな風に思う日が来るとは思わなかった。

 すくりと立ち上がり、祈りのポーズを取ると、決意するように私は言った。

 

「私にも足りないものがきっと沢山あったのでしょう。自分でも少しは分かっています。けれどそれでも、私は私を大事にすることのない人たちに囲まれて生きてきたのです」


 嘲り笑い、家族の輪に入れない人たちも、不貞があることが前提の婚約者も。もういらない。


「私は、女神様より授かったこの肉体を、この心を、自分で守ります。自分で幸せにします。だからどうか。女神様。私を見守っていてください」


 ここには教会はないけれど。

 祈るように私は言った。


 絶体絶命の谷底で、一人きり、誰も助けてくれる人はいない。

 きっとそれは生きるということに似ている。結局は一人なのだ。私は覚悟が足りていなかった。 


「これからのこと、少し真面目に、考えてみようかしら……」


 全てのしがらみから解放されて。一人きりで生き残るしかないこの暗闇の世界の中で、生まれてはじめてちゃんと自分に向き合った。


 心が喜ぶものは、思ってもいない方向にあるということも知った。心の中に沈んでいた、表に出せなかった怒りや悲しみにも少しだけ気付けた。そうして……感じている。私の中に未だ残る柔らかな心の部分は、ここを出た後の未来を楽しみにしているのだって。これからは、楽しく生きていきたいって。


「ええ、諦めないわ」







 それからの日々は、ずっと、自分のことと、未来のことを考えながら過ごした。


 自分の周りの小さな世界で、こうであるべき理想の自分の中から、喜びを見出そうとしていたかつての私。あんなふうに心まで囚われる必要は、もしかしたらなかったのかもしれない。


 まるで籠の中の鳥のよう。

 与えられた餌と、飼い主の施しの中から喜びを見出すのだ。

 だけどそれを心から選んでいたのも私自身で、手放したいとも思わなかった。


 思えば、こうして自分に向き合うことすら許されない気がしていたんだなって思う。おこがましいことなんだって。そんなわけないのに。


 自分自身を知らないと生き残れないこの場所で。

 私は初めて、自分の中にある『わたし』に気付いていく。

 ずっと、苦しんで泣いて叫んでいた、子供の頃からの寂しくて、人を求めていた私。

 本当は体を動かすことが楽しくて、心の通え合える人と共にいたいけど、私の尊厳を踏みにじる人などいらないと感じている、今の私。


 全部、私。

 きっとまだまだ、私の中には知らない私が隠れている。


「自由に生きたいわ」


 自由の定義は難しいけれど。女一人で、誰にも守られずに一人の民として生きて行くことは、いつだって危険と隣り合わせなんだろう。

 それでも本当に心から、もう戻りたくなくなってしまった。そうして、きっともうその義理も義務もないのだ。


「罪状もあることだし……このまま隣国に行こうかしら?」


 国外の友人に少し手を借りれば身元を保証してもらえるかもしれない。

 そうしたら……本当に出来たらなんだけど……冒険者ギルドに登録したい。


 あ、だめだ、口元がによによしてしまった。

 楽しそうで、嬉しくて、そう出来たらどんなにいいか。


 冒険者って少しずつランクを上げていくのよね?下積みから初めて……どんな依頼があるのかしら?

 そうしてきっといつか……冒険者だとパーティーを組んだりもするのよね?どんな人たちなんだろう。話を聞いてみたいわ。どうやって生きて来たどんな人たちで、どんなことを考えていて、どうやって戦っているのか。


「……楽しそうだわ」


 未来がとても輝いて思えた。

 考えなくちゃいけない問題を山積みにして、少々思考停止している気がしないでもなかったけれど、それでもこの考え方は、私をどこまでも前向きにする。


「そのためには、上を目指しましょうか!もしくは見つけましょう、冒険者さんを!」


 ふふふ。本物の冒険者さん。お会いしてみたいわ。どんな方たちなのかしら。

 こんな谷底でおかしいのだけど、気持ちは思ったよりも軽やかで、そのためにもこの地の底から這いあがりたいと思うのだ。






「……人がいるように見えないか?」


 そうして遠くから声が聞こえてきた。

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作者の短編「最後の思い出に、魅了魔法をかけました」をコミックスピラ様より杏乃先生の手で素敵な漫画にして頂けました。
表紙
コミックシーモアで2025/11/20先行単話配信され、12/18からkindle他各電子書籍サイトから配信予定です。

➡️シーモア「最後の思い出に、魅了魔法をかけました」
詳しくは自サイトのお知らせをご覧ください


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