おまけ
(おまけ)
「本っ当に心配したんだから!」
開口一番でそう言われた私は苦笑するしかありませんでした。
◇
私、メアリー・デルオはとある事件(?)で一か月の間、音信不通になっておりました。
たった一か月間。
通常これくらいの期間で大騒ぎする必要もないとは思いますが、この一か月間は新婚生活ホヤホヤ状態だったのにも関わらず、夫アルベルト様がお仕事の関係上ホヤホヤ状態を過ごせませんでした。
その為私のお友達であるエリーナ、マリア、そしてナナリーの三人はお手紙をくれたそうです。
最初は軽い口調で『騎士団長って大変ね!きっと愚痴もあると思うから今度お茶しましょう!』という感じでお手紙を送ったようでした。
ですが、元お義母様の策略…?といっていいのかわかりませんが、全ての手紙が処分されてしまったのです。
当然友人の手紙は私の目に入ることもなく、そしてお返事を出せるわけもなく、返事を貰えなかった友人たちは慌てました。
『な、なに!?返事もかけないくらい落ち込んでいるの!?』と。
そして、なら正式なパーティーへの紹介状を送ればきっとくるでしょうと、招待状を送っても来るのは私ではなく元お義母様と元お義母様の娘ミレーナのお二人。
しかもお二人から私の様子を聞いても『寝込んでいる』『見舞いにも対応出来ない』としか答えなかったそうで、それを聞いた友人たちは慌てふためきました。
さすがに元お義母様達の仕業だとは考えなくもなかったようですが、それでも原因は新婚ホヤホヤにも関わらず、私を放って仕事に、しかも長期で家を空けるアルベルト様が原因だと考えたようです。
そしてアルベルト様の友人であり、同じ騎士で、且つアルベルト様と共に遠征に出掛けていたジャニエル様に連絡を取り、アルベルト様に批判のメッセージを送ったそうです。
アルベルト様のお仕事の邪魔をしてしまったようで心苦しくはありましたが、そのお陰で事件は解決したようなもの。
すぐに元お義母様とミレーナ、そしてメイドのベルッサを屋敷から追い出すことには成功しましたが、報復がないよう最後まで対処すること、そして私が妊娠初期の症状があったことから友人たちと会うことは控えていました。
ですが、手紙だけは送っていました。
簡単に経緯を記し、もう心配いらない事を手紙に記して。
そうして私からの手紙を貰った友人たちは安堵し、落ち着いたら絶対に顔を見せる事と約束して、今日に至りました。
そして私の顔を見て、友人たちから出た言葉が冒頭の言葉です。
涙もろいエリーナは涙を流し、マリアとナナリーは目を潤ませながらも笑みを浮かべていました。
「………ちょっと待って」
私は友人たちを屋敷の中に招き入れる為に振り返ったその時、今まで涙を流していたエリーナが気付いたようにいいました。
「どうしたの?」
「いや、どうしたのじゃなくて、メアリー貴方妊娠したの?」
「うん」
あっさりと肯定した私に三人が驚きます。
「言ってよ!!!本当に!」
「そうよ!妊娠したって事知らなかったから手土産もワインなんか選んじゃったじゃない!」
「私も結婚式出れなかったから、メアリーとデルオ様の名前を入れたワインを持ってきちゃったわ!
こんなおめでたがあるなら妊婦にも優しい紅茶を選べばよかった!」
「私もどうしてお酒が入っている焼き菓子にしてしまったのか!!」
三人の愕然としている様子を見て、私は(なんだか学生に戻ったみたい)と懐かしくなりました。
「奥様…」と心配の眼差しを三人に向けるメイドのサーシャに「いつもこんな感じよ」と言っておきます。
大事なことですからね。
「ありがとう、ワインは飲めるようになったら遠慮なく飲むわね。
それに名前も入れてくれてありがとう。寝室にでも飾ろうかしら。
焼き菓子も私は食べられないけど、今日皆で食べて、感想を教えてちょうだい。
包装を見る限り、朝から並んでもすぐになくなって滅多に買えないっていう今話題のお店のお菓子でしょう?味が気になっていたの」
そう告げると落ち込んでいた友人たちは少しだけ表情が明るくなります。
でもエリーナだけが、納得いっていないような表情を浮かべていました。
「エリーナ?」
「…もう!産んだら一番に教えてね!絶対リベンジするから!」
「うん、楽しみにしているわ」
そして立ち上がった三人を屋敷の中に招き、私は今日の為に準備した客室へと案内しました。




