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㊲最後はハッピーエンドで


「それよりもよかったのか?」

「なにがです?」

「君が一番の被害者だというのに、処罰に対し望みを言わなかったではないか。父上も君の意見を聞きたいと言っていたのに…」


そう言ったアルベルト様は明らかに不満げな表情を浮かべていました。


憧れの存在でただ遠くから眺めていたアルベルト様は常に厳しい表情を浮かべておりました。

そして婚約して、実際に接してみると笑顔を見せてくれて、私はよりアルベルト様に親しみも持ちました。

そして結婚した今では婚約時代よりも様々な表情をみせてくれるようになりました。


笑った顔、不安な顔に不満気な顔、記憶には残っていませんが泣き顔もみせてくれたみたいです。

アルベルト様を傷付けてしまったことは申し訳ない気持ちでいっぱいですが、泣き顔はもう一度見てみたいと思ってしまいますね。


(もしかして私、結構性格が悪いのかしら?)


お義母様……いえ、もうクリスティーヌ様と言ったほうがいいですね。

クリスティーヌ様にミレーナ、そしてベルッサに対して処罰の要望を伝えなかったのは、私が良い人だからではありません。

ただ、私にも原因があったからです。

視野を広く、私欲に溺れず、そして人を雇うという自覚をもっとしっかりと持っていたのなら、私は例えお義母様の言葉であろうとも拒否することもできました。

ですがしなかった。出来なかった。

これは私の不徳の致すところでありました。

それを自身にも刻み込むために、私はなんの要求もしなかっただけです。


(だから私はいい人じゃない。寧ろ三人の結末になんの感情も抱かないところを考えたら、自分でも性格が悪いと思えるわ)


だって、私にも原因があるのですから。

でも結婚式が簡素だったことも、婚約時代一般的な時間をとれなかったことの理由も、クリスティーヌ様が原因だと知った今では性格が悪くても構わないとも思います。


それにミレーナは今まで育ててきた母親から離れる結果となり、ベルッサは誤解が解け釈放されたとはいえ今後の就職が難しく、そしてクリスティーヌ様は修道院に入れられました。

それも厳しい戒律で知られる修道院に。


彼女たちの最大の過ちは貴族社会に踏み入り、そして野望を抱いてしまったことでしょう。

大人しく身の丈にあった場所にいれば、こんな結末を迎えることはなかった筈で、そして幸せに過ごすことが出来たと、私は思うのです。


ですのでこれ以上の要求等、私にはなにも思いつきません。


「あ」

「どうした?」


妊娠が発覚して五ヶ月が経った今、私のお腹は子どもの成長が感じられるくらい大きくなりました。

一時期私欲から無理をしたこともあり心配していましたが、すくすくと成長していることがわかり、なによりも嬉しく感じます。


勿論今はもうメイドの仕事はしておりませんよ?


「今蹴ったわ」

「本当か?」


アルベルト様が私のお腹に耳を当てました。

そして「本当だ」と笑みを浮かべます。

私は嬉しそうなアルベルト様をみて、自然と口端が上がりました。




いつか見た夢。



『振り向いてごらん。あなたは一人じゃない』



あの時夢の中の女性は教えてくれました。

私は一人ではないこと。

アルベルト様がいて、私のことを思ってくれる使用人たちが沢山いて、心配してくれる友達もいて。

アルベルト様から繋がった私の新しい家族もいて、騎士団の方たちもいて。

そして、私とアルベルト様の子どももここにいる。



「アルベルト様、私…」

「その呼び方ではないだろう?」


むすっとした表情で不満気にするアルベルト様に私はくすりと笑いました。


「アル」

「なんだ?」

「私友達を招きたいわ。やっと"片付いた"から、ちゃんと教えたいの」

「勿論だ。俺は君を縛り付けたくはないんだから」


私はアルベルト様……アルにキスを贈りました。

不意打ちだったためかキョトンとするアルに私はまた、クスクスと笑います。


「アル、私結構体力がついたと思うの。それに避けたほうがいいといわれる時期も過ぎたわ」

「……え?」


真っ赤に顔を染めるアルに、私は私で羞恥心を抱きながらもにこりと笑います。




友達にメイドの仕事をしていたと伝えたらきっと否定的な言葉を言われるかもしれないけれど、今となってはいい経験だと思っているの。

望んでいた体力だってついたと思うし。





忙しい私の旦那様。

貴方が私の好きになったアルベルト様である限り、私との時間が取れない日はまたやってくるでしょう。

私は妻としてちゃんと理解があるつもりです。


でも……、そうじゃないときはちゃんと私に構ってください、ね?




だってこれからは邪魔がはいらないでしょうから。






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