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㉜つづきのつづき



「な、何勝手に入って来てるのよ!?」


部屋へと足を踏み入れた私に一番最初に反応を示したのはミレーナ様でした。

先程の戸惑いが完全に消え失せていないのでしょう。

お義父様とアルベルト様がいらっしゃるにも関わらず、部屋の主である私に対して相反する言葉を放ちました。


「ミレーナ!!」


最初はミレーナ様のことをお義母様に紹介された時は、本当に他家の令嬢なのだと信じていました。

何故ならばお義母様とミレーナ様の容姿はあまり似ていないからです。

黒髪のお義母様に対し、ミレーナ様は綺麗な金髪で、目もどちらかといえばたれ目がち。

ですが、あくまでも想像ではありますが、アルベルト様が読み上げた青年の優しい言葉遣いからミレーナ様に似た男性が書いたのだろうと想像できたのです。


でも今目の前でたれ目がちな目を吊り上げさせて怒りをあらわにするミレーナ様を見ると、お義母様によく似ていました。

ああ、本当に親子なのだな、と私は思いました。

そして、私は最初から最後まで、騙されていたのだなと、そう感じたのです。


アルベルト様との婚約時代だって、お義母様はなにかと理由を付けて公爵家に足を踏み入れるのを止めに来ておりました。

ですが、私が騎士団へ直接行くことは考えていなかったのでしょう。

私とアルベルト様との交流は全くないと誤解もしていましたことを、おまけのように思い出した記憶から気付きます。


流石に状況を把握しているお義母様は、ミレーナ様の口を閉じさせようとミレーナ様に覆いかぶさります。

ミレーナ様は何故お義母様が自分を止めようとしているのかわかっていないようで、懸命に腕を突っぱねながらお義母様を離そうとしていました。


「…ミレーナ様。ここは私の部屋です。私が私の部屋に入る理由が必要ですか?」

「当然でしょ!?私が使ってるんだから、勝手に入っ…お母様!離れてよ!喋れないじゃない!」

「これ以上はダメなのがわからないの!?

…メアリー、ごめんなさいね。貴方の仕事のために部屋を別に用意したでしょ?

それで使っていなかったこの部屋を借りさせてもらったの、もしかして忘れちゃったの?」


ミレーナ様の口元を手で覆い、眉をぴくぴくと痙攣させながら私に必死に取り繕うお義母様の姿を見て、私は初めて名前を呼ばれたことに気付きました。

ですが、もう今更です。

今思えば私の前では決してお義母様は名前を呼ぼうとしていませんでした。

それは私を認めていなかったからだと、今では思います。


ですがそれはもういいのです。

ミレーナ様がお義母様の子で、且つお義父様との子ではない私生児であるのなら、私との関わりも今後なくなるのかもしれませんから。


そうでしょ?アルベルト様。


アルベルト様が何故あの手紙を読んだのか。

手紙の優しい言葉遣いからお義母様に愛を伝え、そして幸せを祈っている割には、どこか毒を含んだ言葉通り、純粋にお義母様の幸せを願う言葉ではなかったと私は思います。

そしてお義父様の前でその手紙を読み上げたアルベルト様の真意を、私は寸分の狂いなく読み取れたと自負します。


ならば私は、お義母様の言葉を、この場で伝えましょう。


「お義母様、私の部屋を借りた。と仰っていますが私はそのような話は一度も伺っていませんが」

「あら!おかしいわね!私間違いなく聞いたわよ!

だけどあなたも疲れていたのでしょう?空返事だった気がするわ」

「……そうですか。まぁ部屋の件は私の記憶もはっきりしない部分がありますのでこれ以上は伺いません。

ですが、ミレーナ様の件はどうでしょうか?

お義母様はこの家に初めて訪れた日、私に言ったはずです。ミレーナ様はアルベルト様のお兄様であるギルバーツ様の婚約者である。と。

ですがアルベルト様の先ほどの話を聞く限り、ミレーナ様の身分は平民か、父親の認知がない私生児…。

公爵家の跡取りであるギルバーツ様の妻として娶ることは考えにくいかと思いますが」

「…………何?」


私の言葉に反応したのはお義母様ではなく、お義父様でした。


「メアリーよ、今のは真か?」

「はい。私はお義母様よりそのように伺いましたため、丁重にもてなす為に世話役が必要と判断いたしました」

「な!ち、違うわ!私がそんなこというわけがないですわ…!」


オロオロと拒否するお義母様。

当たり前です。

再婚した女性側に子供がいたということが明らかになったこと自体はまだ話が丸く収まります。

父親をはっきりとさせその父親に引き取ってもらうか、またはデルオ家かお義母様を養子に迎え入れた家で引き取るかになるだけですから。

だけど、その子供がお義母様が嫁いだ家へと嫁入りするつもりであれば、最悪の場合“乗っ取り”を企んでいると考えられても仕方ありません。

子供を故意に隠し、「貴方はデルオ家に嫁ぐの」と言い聞かせていたということは、自分では掌握できなかった公爵家を次の世代で確実に手に入れてみせると、そんな思惑があったのではないかとお義母様だけでなく、お義母様の実家も疑われましょう。

勿論、公爵家ともなる高位貴族にそんなことが発覚した場合は例え王命であろうとも、婚姻を白紙に戻すことは可能となります。


きっとアルベルト様はお義母様とお義父様との再婚を見直すべきだと、そう考えているのだろうと私は直感したのです。




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