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㉚結末に向けて






私はイルガー先生と共に部屋を出ました。


私のお腹の中にアルベルト様との子がいることを先生から聞いて、もう今迄行っていた“仕事”をやめる事を決めたのです。


そもそもです。

今更ながらではありますが、私はなんて馬鹿だったのでしょうと、そう思いました。

爵位は低くとも貴族の娘として生まれ、そして教育も受けてきたはずなのに、上に立つ者としての考え方が出来ていなかったのです。

身分の差はあろうとも、私は私と、そしてアルベルト様との婚姻で出来た様々な関係を壊す事にならないように、確固たる意志を持って臨まなければいけませんでした。


まず公爵家から私達へと勤務先を変更してくれた使用人たち。

アルベルト様がいなかった間、私が目を掛けてそして守らなければならなかったのに、一部とはいえ仕事を奪い、そして雇用主以外の指示に従わせ、不安にさせてしまいました。

しかもその間のメンタルケア等も全くせずに放置状態。寧ろ私のことを気遣ってくれていました。

これでは雇用主として失格です。


そしてアルベルト様とアルベルト様との間に出来たお腹の子。

私はアルベルト様がいない間の主人として、皆を守らなければならなかったのにそれを放棄してしまいました。

くだらな……くはないと思いますが、それでもメイド達の仕事を取り上げる事ではなく、体力を付けたいのなら他にも方法はいくらでもありました。

お散歩の時間を増やす。乗馬をする。剣術を習う。

勿論、剣術でなくとも構いません。

体を動かすような事であればなんだっていい筈なのです。

それに自身の体調不良を放置し、危うく授かった大切な子の命まで危ぶまれるところでした。


もう私の体は私一人のものではない。

私はそんな簡単なことに気づき、そう意識付いたのです。


「本当に、本当に安心しました」

「ごめんね。今迄不安な思いをさせてしまって…」


イルガー先生と共にと言いましたが、部屋の前で待機していたシェフのレンズも一緒です。

レンズによるとお義母様は客室か、ミレーナ様が寝泊まりしている私の部屋にいるだろうとのことでした。

何故ミレーナ様が私の部屋にいるのかについては、お義母様から直接話を伺っていない為、どのような意図なのかはわかりません。

仕事をやめる事と共に、そこについても確認する予定です。


(でもきっといい理由ではないのでしょうね。

掃除を全て任せたというわりには、掃除しなくてもいい部屋として夫婦の寝室と私の部屋とアルベルト様の部屋があったのだから)


当時…といっても昨日までですが、私一人で行っていた為に対象外の部屋があることがありがたかったため、気にも留めていませんでした。


ぐっすりと眠ることが出来たからか、それとも部屋を出るまでにレンズが持ってきてくれた料理が力をくれたからか、それとも気持ちの変化があったことで体にも良い変化となったのか、私は自分でもびっくりなほどしっかりした足取りで歩けていました。

そしてエントランスホールにつくと、客室がある階ではなく、寝室がある階から使用人たちが見えたのです。

私に気付いた使用人たちは目を輝かせて階段を駆け下りました。

危ないとは思いましたが、それでもとても嬉しそうな表情をみたら止める気になりませんでした。


「奥様!もう歩いても大丈夫なんですか?無理してませんか?」

「奥様!もう安心して下さい!旦那様が帰ってきましたよ!」

「奥様!旦那様が今あの人達をとっちめてくれてますよ!」


今迄私に気遣い、接触を控えていた使用人たちがそれは嬉しそうに笑みを浮かべながら次々に言葉を掛けて来ます。


(私は本当に今迄馬鹿なことをしていたのね…)


守るべき人たちに、私は逆に守られていたのですから。

本当に不甲斐なさを感じましたが、私はぐっと噛みしめ、なんでもないことのように笑いました。


「ええ。もう大丈夫、無理もしていないわ。

それより今迄ごめんなさいね、今まで不安な気持ちにさせてしまっていたと気付いたの。

これからはもうしないわ。今すぐにでも正しい状況にするつもりよ」

「じゃあ奥様が私たちの仕事をすることはもうないってことですね!?」

「ええ、そうよ」

「じゃあじゃあ!これから奥様のお世話をしてもいいってことですね!?公爵夫人じゃなくて!」

「公爵夫人が連れてきたあの令嬢でもなくて!」

「ええ、お義母様には公爵家に帰ってもらうつもりだから、ミレーナ様も一緒に戻られると思うわ」


やったー!とはしゃぐメイド達に私はくすりと笑い、お義母様が今いる場所を他の使用人が教えてくれたため、私は私の寝室へと向かいました。


今迄の誤った状況がとても不安だったのか、ほぼ全てと言ってもいいくらい部屋の前には使用人たちが集まっていました。

いない者と言えばシェフ達くらいです。


私は何も言わずとも、私に気付いた使用人たちが道を開けてくれたお陰で部屋へとたどり着くことが出来ました。

そしてとんでもない言葉が聞こえてきたのです。


「……この子は、私の子、です…」


お義母様がミレーナ様の肩を抱き、消えてしまいそうな程に小さな声でそういっているところを聞いてしまったのです。




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