㉙公爵夫人について
■(視点変更→公爵夫人)
天は私の味方だと、私は本気で思っていた。
私は平民の両親のもとに生まれた。
だけど身分は関係ないと思えるほど、裕福で幸せな暮らしをおくれていたのだ。
何故なら私の髪は黒いから。
髪が黒いことで周りは褒め称える。
この世界では髪の色が濃い人は敬われるからだ。
しかも私のような真っ黒な髪は特に。
遥か遠い昔、世界には魔法を使う魔法使いがいたとされていることは平民でも知っていることだ。
現代では魔法は都市伝説のようにいわれているが、実際に存在していたことは、昔から伝えられている歴史からも事実だとわかっている。
でも、だからこそ敬われているのだ。
この世界では魔法使いが発見した沢山の物が、今の生活の土台になっているから。
食材にしろ、薬にしろ、そして生活用品における物質や素材。
魔法使いがいたからこそ、発掘でき、利用方法が開発出来たのだ。
だから魔法が失われた今でも、魔法使いの祖先との繋がりが目に見えてわかる、濃い髪の色を人々は敬っている。
私は両親に愛されて育った。
可愛いと、生まれてくれてありがとうと、何度も何度も感謝された。
だから口にしたことがない願い事は、口にする前に与えられた。
そして欲しいと思ったものは、両親じゃなくても叶えられた。
与えられた可愛い洋服を着る私。
美しいアクセサリーを身に着ける私。
宝石のように美しいスイーツを口いっぱいに含む私を羨む同性の眼差し、そして熱い視線を向ける男性の眼差しを独占した。
私の願いは何でも叶う。
世界は私のためにあるのだ。
そう思うくらいなにもかもが順調だった。
でもそれは成人を迎える年齢で終わりを迎えた。
「どうして私があんな男と結婚しなくちゃいけないのよ!」
暮らしている町の町長の息子との縁談話が舞い込んだのだ。
鼻が潰れ、体つきも筋肉というより肉の塊、見た目の良いところなんてなにもないのにプライドだけは高い、誰がみても最低な男。
そんな男との結婚なんて、死んでも嫌だった。
私は泣いて嫌がった。
母も父も嫌がる私を叱った。
「今まで貴方の希望をなんでも叶えてあげたでしょう!?」
そういって両親は私を叱った。
でも思い出してみてほしい。
私は何も欲しいとはいってない。
あなた達が勝手に私に買い与えただけ。
だから言ってやった。
私の希望!?私がいつ願ったというの!?
実際に口にしたわけでもない私の願いを勝手に叶えたのはアナタたち!
そしてこの町の人達よ!!
でもその理屈は通じなかった。
親不孝者と罵られ、私は初めて頬を打たれた。
だからわからなかった。
理不尽に思った。
どうして私がこんな目にあわなくてはならないの!
私は家を出た。
そして“友人”の元に助けを求めた私を、友人はなにも言わずに受け入れてくれた。
心優しい友人。
お金をあまり持っていない事については残念だけど、それ以外は完璧な私の友人。
友人の元で一晩過ごし、精神が安定した私は次の日には家へと戻った。
家に近づくたびに、また結婚を言われたらどうしようと思ったが
友人の慰めで私は嫌な想像を打ち消して家へと向かったのだ。
そして思った。
(やっぱり天は私の味方なのよ!!)
家に向かう帰路で、私は目の前に飛び込んできた光景を見てそう思った。
豪華な馬車にひかれた両親の姿。
血だらけで、誰が見てももう息はないなと思えたし、例えあったとしても助からないだろうと思えるような状態だった。
そりゃあ最初は困惑した。
どうして両親が。と。
だけどすぐに考えが変わった。
馬車から出てきた金持ちそうな貴族は私を見て、引き取りたいと申し出たのだ。
ああ、やっぱり私は特別なんだ。
死んだ両親は特別な私を蔑ろにしようとしたから、その報いを受けたんだ。
私はそう思った。
そして私は両親を殺した貴族たちの養子として迎え入れられ、様々な教育を受け、デルオ公爵の後妻として嫁いだのだ。
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