妹さんは一体どこへ?
隠れるようにひっそりと路地裏に建つ平屋が、キリヤとゼキアの家だった。
ここに2人の妹のイチカがいるという話らしいが、そんな気配はしない程静かだった。
「キリヤ」
「うん。様子がおかしい」
一気に険しくなった2人の表情。
いつもなら足音を聞きつければ元気に駆け寄ってくるそうだが……。
「何か、あったのでしょうか?」
脳裏に浮かんだ最悪の結末から目を背けるように、リーシェは言った。
顔を青ざめさせながらキリヤが平屋の扉を開け放つ。
立て付けの悪い扉が派手な音を立てるが、イチカが出てくることは無い。
少年の背中が大きく震え、見たこともないほど焦った様子で屋内に消えていった。
ゼキアと一緒にリーシェも家の中へ入る。
中を見てリーシェは息を飲んだ。
倒れた椅子。ひっくり返ったコップ。割れたお皿。
明らかに異常な光景だった。
誰かが押し入って荒らしたような様子に、ゼキアが冷静に呟く。
「連れ去られて殺されたか。生かされて人質になっているか」
「そんな冷静に……!」
「ここではよくある話だ。腹いせに子供を殺したり、金欲しさに女子供を連れ去ったりな」
淡々と言っているが、その拳が強く握られていることに気づく。
彼も酷く焦っているのだ。表情が抜け落ちているのは、感情を押し殺しているせいだろう。
家をくまなく探し終えたキリヤはゼキアとは対称的に、額に玉のような汗を浮かべている。
「イチカが……!イチカがいないんだ!!」
「ああ」
「もう殺されているかもしれない!僕が、イチカを1人にしなければ……」
後悔に潰されそうになっているキリヤの肩にゼキアが拳を置いた。
「俺にも責任あんだろうが。1人で抱えんな」
「だけど……!」
「それに、連れてった奴に心当たりがある」
予想外の言葉にリーシェもキリヤも俯かせていた顔を上げる。
「最近、中央の奴らが一斉にクビにされたらしい」
ゼキアの言う「中央」とは、国の政治を執り行う場所のことだ。
そこで働いている者たちが腐っているせいで、国で負の連鎖が循環している。
リーシェはその者たちを説得するために、南の大陸へ来た。
そこにいたもの達が最近、一斉にクビにされたそうだ。
クビにされた人数は5人。全員がこの下町に降ろされたらしい。
その腹いせに身寄りがいる子供を捕まえて人質にし、金を奪う行為を繰り返しているらしい。
「雑な行動のせいで、奴らのアジトはわかってる。イチカがいるとしたらそこだ」
「行こう!イチカが待ってるんだ!」
「てめえはどうすんだ?」
ゼキアがこれに関しては部外者であるリーシェを見る。
リーシェは彼らの妹を見たことがない。
2人のことが大好きで、言いつけをしっかり守る賢い子、という認識だ。
どんな髪色なのか。どんな声なのか。どんな顔で、どんな性格なのか。
リーシェには分からない。
だけど……。
「キリヤ様の大切な人は私の大切な人です。微力ですがお手伝いします」
理不尽に命が奪われるのを黙って見ている訳には行かない。
リーシェの覚悟にキリヤが頭を下げた。
「ありがとうございます!本当に……ありがとうございます!」
「フン。もし戦いになってもフォローしねぇからな」
鼻を鳴らしたゼキアは全速力で家を出ていく。その背中を追い、イチカの無事をひたすら願った。
次回、戦います





