思わぬ協力者です
一発触発の雰囲気かと思いきや、先に緊張感を解いたのは乱入した男の方だった。
「あ〜あ。見たくもねぇツラがありやがる。チッ……気分が悪いぜ」
レリヤの顔を見てそう吐き捨てた男。
裸だった刀を鞘に収めて、彼はキリヤに目配せした。
「おい。ここにいても何も変わんねぇだろ。とっとと街へ降りろ」
キリヤも怪訝そうに眉を寄せるが、男に戦闘の意思がないことを確認したらしい。
そっと安堵の息を吐いて、リーシェの腕を引っ張ってその場から移動する。
だがレリヤはそれを許さなかった。
「待たんか!」
「てめぇが待てよ!」
リーシェの背後で刀の打ち合いが始まった。
走る少年に腕を引かれながら振り向いて戦いの様子を見る。
振られる刀が残像しか見えず、その体も1秒と同じ場所に居ない。そんな戦いが一瞬で繰り広げられていた。
見ただけで背筋に戦慄が走り、巻き起こる旋風が頬を切り裂きそうな鋭さを持っている気すらした。
戦いでの強さこそが全てとされる種族の中でも、屈指の戦闘狂同士の戦い。
まるで悪夢のような強さに、リーシェは不安に目をつぶってしまった。
どれだけ走ったのか。
やがてキリヤが息を潜めるように立ち止まった。
場所は入り組んだ路地裏のどこかだろう。
「リーシェ様。大丈夫ですか?どこかお怪我は?」
大丈夫だと首を振れば少年は安心したように笑う。
額の汗を拭いながら、先程の展開に今も肝を冷やしていた。
心の底から恐れている様子のキリヤに励ましの声をかける。
「さっき、レリヤという人と対等に刀を交えていましたよね。キリヤ様はとっても強いのですね」
「いや……あれは遊ばれていただけです。相手は本来の力の3割しか出していませんでした」
苦々しい顔で言われて真実に絶句する。
キリヤはダンジョンで大きな活躍をした人物だ。種族固有能力でモンスターを屠る背中はとても頼もしかった。
この少年がいなければ、ダンジョンから生還することは出来なかった。
そう思うほど彼は強かった。
そんな彼が全く力が及ばない相手がいることにゾッとした。
「先に言っておきます。僕はこの国ではただの下っ端程度の強さしかありません。僕より強い人はいくらでもいて、確実の僕の立場は『弱者』の位置にあります。だから、これから街に出ますができるだけ目立たないように行動してください」
少しでも目立ってしまえばそれだけで喧嘩を吹っかけられ、最悪命を落としてしまうとキリヤは言った。
正しく死と隣合わせの環境に顔が青ざめる。
しかし事前に教えて貰っていたおかげで、すぐに立ち直ることが出来た。
「そんな国、早く変えてしまわなければなりませんね」
強気に笑うと、唐突に荒々しく肩を叩かれた。
勢いよく振り向いた先にはさっきに男が気だるそうに立っていた。
三白眼に生気のない黒目。両の目元に刻まれた横一文字の3本の傷は、まるで猫のヒゲのようだった。
ツンツンと尖った淡い金糸の髪はさながら警戒心の強い猫のようだ。
さらになぜか頭の横に付けられた狐の面がとても愛らしかった。
「猫っぽい……!!」
「本音だだ漏れじゃねぇか」
強く思ったことが口に出てしまい、ありのまますぎる感想に男が静かに突っ込む。
「ゼキア。レリヤはどうしたんだ?」
「あんなアマの相手ずっとやってるわけねぇだろ。目に土ぶっかけて撒いてやったわ」
ヘッ、という風に男……ゼキアが鼻を鳴らす。やることがセコいと思ったリーシェだったが、今回は無事に口を噤んだ。
ところで。
「お2人は知り合いなのですか?」
やけに親しげな様子に問いかければ、キリヤが苦笑した。
「実はリーシェ様をお連れするまでの間、妹を任せていたのです。彼とは元々同い年の幼なじみの関係で、色々と用事を頼んでいたのです」
「その割にはゼキア様が乱入した際、随分苦々しげな様子でしたが」
「いえ。頼んだ用事が多すぎて怒ったのかと思いました」
照れた様に頬をかく少年。
その頭に刀が収められたままの重い鞘が打ち付けられた。
明らかに痛そうな音が響き、悲鳴を飲み込んだキリヤの代わりに鈴が儚く鳴る。
「人のこと戦闘狂呼ばわりしやがって」
「いやそれは事実でしょ……」
目元に涙を滲ませているキリヤはレアかもしれない。
「おら。イチカが待ってんだろ。変な輩が見つける前に帰んぞ」
登場早々リーシェを刺そうとした男の背中について行く展開に、今回に旅も波乱万丈になる予感がした。
「そういえばキリヤ様は何歳なんですか?」
ゼキアの年齢が外見からわからず、キリヤも見た目が少年っぽいので勝手に16歳くらいだろうと予想していた。
だが、ゼキアの外見年齢は19歳ほどに見えて、2人が同い年の幼なじみならどちらかの外見年齢が実年齢と違うことになる。
不思議に思ったリーシェに答えたのはゼキアの方だった。
「俺もコイツも18歳だ。キリヤの妹のイチカは今年で……あ〜、何歳だっけ?」
「10歳だろ。本当は覚えてるくせに」
「うるせ〜な。……俺らは親がいねぇ。イチカは生まれて直ぐに実の親に殺されそうになってたところを助けた。血は繋がってないのに家族なのかとか笑いやがったら殺すからな」
突然聞かされた身の上話に、国を変えなければと強く思うリーシェ。
8歳の頃からイチカを育ててきた2人の後ろ姿は、幼なじみというより兄弟のように見えた。
仲が良さそうにじゃれ合う様子を眺めながら、視界の端に移った死体をそっと意識から弾いた。





