これにて一件落着です!
8月25日に新しく付け足した部分になります
灰となって消えたスティがいた場所をしばらく見つめてから、リーシェは後方を振り向いた。
スティが語った伝説の内容の理解より先に、リーシェの援護に回ってくれたアズリカとキリヤ。
そして衝撃を受けつつもすぐに強化を施してくれたラピス。
3人とも、どこか清々しい顔をしていたがその格好は見るからにボロボロだった。
当然だろう。
1階層から4階層まで休むことなく戦い続け、5階層では湖の中に突き落とされた。
6階層から10階層までの道のりの記憶はリーシェだけ朧気だが、3人とも戦い通しだったのだ。
リーシェもだが彼らも満身創痍の姿にこれ以上の進行は無理だろうと算段をつけた。
神を殺すと言ってみせたリーシェだが、神の存在がずっと深いところにある。
消耗が激しい状態でこれ以上進むのは危険だ。
労いの意味を込めて笑いかけてから、リーシェは言った。
「それでは帰りましょう。怪我をしたルブリスさんのことも心配ですし」
「ああ。あいつには二度とあんなことをするなと説教をしなければならないからな」
ルブリスによって、天井の崩落から守られたラピスが唇を唇を尖らせて言った。そうしているとだいぶ年相応のように見える。
「俺もそろそろ非常食だけの食事は飽きたな。家に帰ってリーシェの手料理が食べたい」
腰ポケットに入っているビーフジャーキーを布の上から撫でたアズリカは、穏やかな表情でそう言った。帰ったら彼の好きなカレーを作ってあげよう。
「僕もさすがに疲れました。よろしければ、リーシェ様の手料理をご一緒に頂いてもよろしいですか?」
目をキラキラとさせてキリヤが笑う。多分、帰って1日ほど休んだらお疲れ様会を兼ねたカレーパーティー的なことをすることになるだろう。
物置の野菜はどれくらい備蓄してあったか思い出しながら、リーシェは来た道をゆっくりと歩いていった。
☆*☆*☆*
魔境谷から梟に乗りセルタに帰ると、アンたちが笑顔で手を振って出迎えてくれた。
ボロボロのリーシェたちを見て、彼女たちは直ぐに献身的な治療をし温かい料理を振る舞ってくれた。
4日と13時間。
リーシェがダンジョンに潜っていた時間だ。思ったよりも長い間戦っていたらしい。
兵士たちが5階層で脱落してからはろくに眠れてもいなかった。
優しい味付けの料理をお腹いっぱい食べて眠り、次に目覚めた時は帰還日から翌日の夕方だった。
体の倦怠感もすっかり消えて、約束通りカレーを作る。
ちょうど出来上がったところで、ビーグリッドまで行っていたらしいラピスが帰ってきた。
大怪我をしたルブリスとその他騎士を拾いに行ったようだ。
幸い、ルブリスを治療するために離れた騎士たちや途中離脱した騎士たちに怪我人はいなかった。
唯一体を包帯でぐるぐる巻にされミイラのようになったルブリスは、カレーの匂いを嗅ぐなりどこからか皿とスプーンを持ち出した。
ルブリスとキリヤ以外の騎士はラピスが報告のために王都へ帰らせたので、リーシェの家では5人でカレーパーティーが始まった。
みんな美味しいと言って夢中になって食べてくれて、リーシェの頬も緩まる。
食後ゆっくりとした時間で、ルブリスとラピスは客間へ消えた。お説教タイムが始まるのだろう。
台所でアズリカが後片付けをしてくれて、リビングにはリーシェとキリヤが残された。
「リーシェ様」
緊張した面持ちで黄金髪の少年が名前を呼ぶ。
改まった様子にリーシェも気を引き締めて視線で続きを促した。
「ダンジョンで僕があなたに言ったことを覚えていますか?」
「はい。戦人族の住まう南の大陸へ一緒に行って欲しいのですよね?」
しっかりと覚えていた内容に相槌を打つ。
「その理由の詳細をまだお話していませんでした」
一呼吸置いて彼は話し出す。
「南の大陸は、大陸自体が1つの国になっています。人間の住む大陸のようにいくつも街や村がある訳ではなく、たった1つの国があります。その国の名は『シルビア』。毎日のように人が死ぬ、全ての戦人族の生まれ故郷です」
戦人族は強さが絶対の正義だと信じられているところだとキリヤは言った。
強者の言うことは正しくて、弱者は淘汰されて当然。故に、幼少の時から戦い続け、その種族の血に刻まれた固有能力を競っているのだと言う。
「強さこそが絶対の我が国では、強さの象徴……すなわち『技の力』の持ち主は神だとされてきました。今回は2つに分かれてしまいましたが、伝説の存在は戦人族にとって神そのものなのです」
つまり『技の力』を保有しているリーシェは神も同然で、シルビアに行けば少なからず影響が出る。
この部分はダンジョンでも聞いていたので落ち着いて続きを聞いた。
「シルビアでは毎日人が死んでいますが、それは戦いだけが原因ではありません。大元は殺し合いが原因です。その殺し合いによって、身寄りのない子供やお年寄りが餓死したり、病気になっても治療を受けられず亡くなっている場合が多いです」
話しているうちにキリヤの拳が握りしめられていく。
リーシェの想像を絶する惨憺たる有り様がその脳裏によみがえっているのだろう。
もしかしたら彼は、誰か大切な人を喪っているのかもしれない。
いよいよ核心に触れつつある話題を聞き流すまいと、リーシェは少年の顔を見つめた。
「これらの不幸の元凶は、国を統治する上層部が腐っていることです。私利私欲に圧政を強いて状況を悪化させ、気に入らないことがあれば権力をかざして不当に人を殺す。そんなことが連日当たり前のように行われ、処刑場は常に死体で溢れています。だから、あなたに国を変えて欲しいのです」
話を聞いているうちに予想していた結論にリーシェは迷うことなく頷く。
もしもリーシェがかの国にとって何の発言力も無い者だったら、胸を痛めるだけの留まっただろう。
だが、『技の力』の持ち主である少女は神にも等しい影響力を持っている。
ならばやることは決まっていた。
「分かりました。きっと簡単なことではありませんが、状況が良い方向に向かうように尽力しましょう」
「ありがとうございます!本当にありがとうございます!」
机に額を押し付ける勢いでキリヤが頭を下げる。
握り込んだ少年の手のひらに血が滲んでいるのを見て、リーシェは痛々しい気持ちになった。





