本当の意味を
「何、これ……」
15階層に到着した瞬間、前方の壁に描かれた壁画に絶句する。
落ちる太陽を見上げる人々。
砕ける月に潰される人々。
凄惨な光景を抽象的に描いた絵が、見上げるほど大きく壁に刻まれていた。
どう見ても世界が壊滅状態にあることを示唆した壁に、否応にも伝説の節を思い出す。
『太陽が夜空に輝き、月が青空を照らすとき、神の申し子が世界のどこかに降り立つだろう』
聞いた話だが、リーシェたちが生まれた時この現象は確かに起きたという。
空が反転しあらゆる事象が真逆になったと、アンたちは言っていた。
もしかしたら、この伝説の文はただの比喩表現に過ぎないのではないだろうか。
そう思い至ると、突如として壁の中から巨大な鎌がヌッと出てきた。
血に濡れていない銀色の刃は鈍く光りながらどんどん壁から出てくる。ついに鎌を握る手も現れ初めて、数秒後には黒ローブを着た死神のような化け物が姿を見せた。
12階層のスケルトンによく似ているが、雰囲気は比べるまでもなく醜悪だ。
骨が剥き出しの顔を奇妙に歪ませながら、死神は喋った。
『待っていた。よく誰も欠けずにここまで来たもんだねぇ』
それは紛れもなくスティの声だった。
『最終的には伝説の存在2人だけになっちまえば良かったのに』
「スティおばさん!その壁画は一体何を表しているのですか!?」
大きな声で聞けば黒ローブの死神は鬱陶しそうに鎌を揺らした。
彼女の姿についてだとか、正体についてだとかよりも、壁画の意味の方がよっぽど重要だった。
少なくとも、ここで確実に知っておかなければ必ず後悔する羽目になる。
リーシェはそう直感した。
『まず前提から話してやろう。このままだと世界は滅ぶ』
「「「「!?」」」」
一同驚愕に唖然とする。突然すぎる重大な言葉に脳が追いついていなかった。
だがラピスだけは冷静にその言葉を受け止め、嘘が真か確かめるために口を開いた。
「ここまで来たんだ。勿体ぶらないで全部話せ」
『理由は1つ。伝説が成立していないからさ』
なんの考えがあるのか、スティはこれまでの態度とは一変しやけに素直に全てを語っていく。
かの死神の言葉をまとめるとこうだ。
☆*☆*☆*
世界は衰退と発展を繰り返してきた。
それらは全て、数千年に一度生まれ落ちた完全なる伝説の存在によって為されてきた。
世界の全てを見る「知」と、理不尽の全てを調停する「技」は一体で、決してバラバラに生まれることは無かった。
行き過ぎた発展は破滅を生む。行き過ぎた衰退もまた破滅を生む。
破滅は争いを生み、争いは終滅を呼ぶ。そして終滅は世界を再起不能な状態にまで落とし込み、歴史の全てが失われる。
世界の唯一絶対神はそれを良しとしなかった。
故に「知」にて文明を発展させ、「技」にて衰退を呼び込もうとした。
この2つを1人の存在に集結させることはとても重要な意味があった。
発展と衰退のバランスを1人の裁量にて上手く成り立たせるためだ。
発展させすぎないように定期的に衰退させるには、1人の中で組み立てられた完璧な作戦が必要だ。それは複数人で行えるものではなく、少しでもズレがあると簡単に天秤は傾いてしまう。
だからこそ、伝説が分裂した今の状況は異常だった。
ラピスが発展させ続けるラズリが良い例である。
王都は著しく発展しているが、その周りの町や村の技術は低水準を迷走している。
本来望ましいことではなく、今すぐにでも王都の文明を一定値まで衰退させる必要がある。
だが、力が分裂した今、衰退を行おうにもそれぞれの同意が必要になってしまった。
1人ならば簡単に舵を切ることもできた。だが2人になればそうはいかない。
力を合わせようと何をしようと、伝説は成立していない。
この状況が長く続けば、世界を見守る唯一絶対神はこう判断を下すだろう。
「あぁ。此度は失敗作だった」と。
そして、また新しく完璧な伝説の存在を作り出す。
だが、如何に成り立っていないとはいえ世界には既に伝説の存在が存命している。
そこで矛盾が生まれる。
すなわち、「『技』と『知』は確かに存在している。この力は唯一無二であり、複数の存在はありえない。では新しく作られた伝説の存在の力はイレギュラーであり、本物の伝説とは言い難いのではないか」と。
あったのになかった、という疑問が生まれ、そのズレは確実に世界の認識を崩していく。
そうすると一種のバグのようなものが発生し、無限に伝説の存在が量産される。
その度に本物であり偽物の力は増え続け、世界に反転現象は発生する。
反転の影響は積み重なり、1日だったものが1ヶ月に。1ヶ月だったものが1年になり、理を完全に破壊す。
だからこそ今すぐ伝説成立させる必要がある。
だからこそ今すぐ少年少女に殺しあって貰う必要がある。
この世界にイレギュラーが起き、異常が積み重なっていく前に。
この世界が量産された伝説の力に滅ぼされないうちに。
☆*☆*☆*
『伝説の存在が1人にならなければこの世界は滅ぶ。だからお前たちは互いに殺し合わなけれはならない』
理解が追いつかない頭に鞭を打って、リーシェは思考を回転させる。
約1年前に結んだ「伝説同盟」はただの子供だましに過ぎないと言われた。
リーシェ、またはラピスが生きていることは、世界平穏を壊すことに他ならないのだ。
あまりに残酷な伝説の内容に、リーシェもラピスも言葉を失う。
静かに話を聞いていたアズリカとキリヤも、痛々しげに顔を歪めた。
次回、一体どうなっちゃうんでしょうね……





