小を救いますか?それともーー
分かれ道が見えた。
いつから見えていたのか分からないほど忽然と、二手に分かれた道があった。
13階層に降りた途端に現れた道に、リーシェたちは首を傾げる。
ここに来て9階層までの迷路のような道が再登場するとは予想外だった。
頬を掻きながらラピスが眉を寄せた。
「なぁ、どうする?」
キリヤが困ったように返した。
「どうすると言われましても、1階層の時のようにアズリカさんの鎖でゴールを探すしかないのでは?」
「そもそも、この道はただのフェイクで14階層への道は別にあると言う可能性もあるな」
キリヤに視線を投げられたアズリカだったが、青年は神妙な顔で顎をしゃくった。
そこへどこからか声が響く。
12階層で聞いたものと同じ声だ。
『お前たちに問う。答えを用意できた者だけ14階層への道は開かれる』
スケルトンの問いの時よりも流暢な声が響いた直後、リーシェたちの背後に二足歩行の牛の怪物が現れた。
荒々しい鼻息を吹かせながら怪物はゆっくりと歩いてくる。
よく見るとその体は半透明で、4人になんの反応も示していなかった。幻なのだろう。
怪物はリーシェの少し前……分かれ道の前で歩みを止めた。
声がまた響く。
『目の前に分かれ道がある。一方の道の先には5人の人がおり、もう一方には1人しか人がいない。モンスターに言葉は通じず。人の道理も通じず。なればお前は、どちらを救う?』
今回の問いも人の倫理観を問うている。
誰かを踏み台にして誰かを救うという方法は、リーシェにとってありえない選択だった。
イグラスに囚われた時とおなじだ。
リーシェとアズリカ。アズリカを殺せば平穏が手に入った。しかし、リーシェはアズリカを殺すことは無かった。
これもあの時と同じだ。
よって、12階層の時と同じように一切の迷いなく答える。
「私はどちらも助けます。命を天秤かけるなんて間違っています。道の先にいる人たちを殺そうとする原因を滅します」
次の問に対する答えを言ったのは金髪の少年騎士だった。
「僕でしたらどちらも見捨てます。道に先で化け物と遭遇したとしても、それは僕の知ったことではありません。それに、このようなことは、毎日世界のどこかで起きていますから」
別段迷うことでもない、とキリヤは言い切った。
今回も真正面から対立する意見が出た。それぞれに考え方の違いに、リーシェは内心唇を噛む。
次に謎の声に答えたのはアズリカだ。
「俺なら1人の方を助けに行く。5人もいるならまだ解決策の1つはあるだろ。だが1人となれば待っているのは確実な虐殺だ。なら俺は小を救う」
真っ直ぐな目で述べたアズリカ。
だがこれとは真逆の意見を述べた者がいた。
「俺はそうは思わないけどな」
合理的に物事を判断する節があるラピスだ。
「5人が確実に対処できるとは限らない。5人が死ぬか、1人が死ぬか。そういう問いなら、俺は多い方を取る」
「どうしてですか?ラピス様」
リーシェが無表情で聞くと何ともないようにラピスは言った。
「1が死んだ時の悲しみの値を仮に10とするなら、5人の時は50だ。悲しみは少しでも小さい方がいいだろう?」
その言葉を聞いてやるせない気持ちになった。
ラピスがどうしても冷酷な人間に見えてならなかった。
悲しみを少しでも小さくしたいと少年は告げた。
だが、結局遺されたものにとって悲しみとはそんな数値的なものでは無い。
ラピスの視点はあくまでも客観的に分析しただけ。当の本人たちの感情などは全て抜きにしている。
確かに感情を全部汲んでいくのは難しい。
だが、だからと言って平然と命を選ぶことはして欲しくないと思った。
少しづつ、しかし確実に。
リーシェとラピスの齟齬は大きくなり、まるで罅の入った花瓶のように着実に欠けていくのを感じた。





