伝説の真相を……
リーシェ……正しくは自我を持った「技の力」は、一瞬だけ目を閉じて自分が生み出された時のことを思い出した。
どれくらい昔なのか分からないほど遠い記憶だ。
姿形がはっきり見えない唯一絶対神によって、伝説の力は生み出された。
スティが言った通り、大いなる力と叡智を以てダンジョンを治め、荒れた世界を調律する一種の装置としての役割を担っている。
最初は「技」と「力」などと分かれていなかったが、とあるイレギュラーが発生し2つに分裂してしまった。
そして、「技の力」は赤髪の少女に宿り、「知の力」は黒髪の少年に宿った。
少年の方は生粋の王族として生まれ、王宮で堅牢な警備のもと育てられた。
しかし少女の方は違った。複雑な出生により捨てられてしまい、運悪くスティに拾われたのだ。
スティと、スティと同じ目的を持つキージスは伝説を作り上げた神の眷属が人間に化けた姿である。
神に連なる者ゆえに人の感情がわからず、人間の常識から外れた行動ばかりする。
キージスが何ら躊躇いなく少女に両親を殺せたのも、あの男が人間ではないからだ。
2人の目的はリーシェの自我を失わること。もしくはその心を壊すことだ。
彼らは知っている。伝説の力にも自我が存在することを。
宿り主であるリーシェの自我を破壊、もしくは停止させることでダンジョンを統べる王の自我が出てくると踏んだのだ。
およそ10年間、スティがリーシェを殺すつもりで虐待し続けたのもそれが理由だ。
キージスがわざと残酷な行いをしたのも、全てはリーシェの心を壊すため。
だが、目論見は外れた。
スティの手から逃れリーシェは安住の地を見つけ心を癒した。
キージスに両親を殺されても同時に新しい絆を築くことで、悲しみを乗り越え強くなった。
だからこそ、スティはリーシェ自身をダンジョンに招き、「技の力」の自我を呼び起こす作戦に切り替えた。
そしてそれは成功してしまった。
だが、リーシェの心が壊れたわけでも、消えたわけでもない。
リーシェの自我は少し眠っているだけだ。
(そう。少しの間、体を借りているだけ。彼女の代わりに『私』が決着をつけるために)
深い思考の海に沈んでいたが時間はそこまで経っていなかった。
目を閉じる直前と全く同じ状況だ。
適切な言葉が出てこない2人の少年と1人の青年。
自分の目論見が成功しているとでも思っているのか、笑みを崩さないスティ。
神の眷属とは思えない形相に内心ほくそ笑みながら、リーシェの体を借りた「技の力」は満面の笑みを頬に張りつけた。
リーシェの口調を借り、リーシェの唇を借り、リーシェの表情を借りて、リーシェとは別の「ソレ」は冷たく言い放った。
「クソ喰らえです」
存外に乱暴な言葉。
状況が理解出来ていない3人も、少女の顔で汚い言葉は使うなと言う顔をしている。
だが仕方ない。
何せ「技の力」だ。どんなに少女が優しく美しく平和に使おうが、本質は暴虐の力そのものなのだ。
言葉くらい荒くて当然だろう。
これまでは丁寧な言葉を心がけていたが、なんだかムズムズするし歯も浮いてしまう。
少年らが感じていた違和感はおそらく喋り方のぎこちなさではないだろうか。
他にも何かしらあるのだろうが、それはひとまず割愛するとして。
張りつけた笑みのまま、スティに声を投げる。
その声は零度に冷えきり、口から「氷刻」を放っているようだった。
「わざわざ『私』がダンジョンを治めなくても、この世界は自然と整っていきます。他ならない、私の手によって」
「こ、小娘を信じるというのかい!?アンタがいなきゃ、リーシェはただの平和ボケした小娘なんだよ!?」
「えぇ。確かに私は平穏を求めています。誰より安眠を望み、何よりも理不尽を知っています」
騒ぎ出した老婆に向けて淡々と言い放ち、一呼吸置いてから捲し立てた。
「だからこそ、私は世界中に安寧を与えるでしょう。なぜなら、『私』がダンジョンを治めなくたって、『私』は私の中にいるのです。そして、それが変えようのない事実である以上、世界は私を放っては置かないでしょう」
リーシェは世界から狙われ続ける。
ラピスなら王城にいればある程度は安心だし、何より世界は圧倒的な力を欲している。
優しき平凡な町にいる少女は格好の的だ。
この事実を少女が知れば、どこまでも前向きなリーシェは「なら力が要らない世界にしよう」と思い至るだろう。
であれは、リーシェはリーシェの意思で世界を調律することになり、わざわざ「技の力」の存在理由に固執する必要もなくなる。
それと、スティと正面から決着をつけようと思った理由はもう1つある。
リーシェ特有の穏やかな笑顔から、「技の力」の自我としての冷淡な笑顔に表情を張り替えると、スティがヒッと声を漏らした。
自分の旗色が悪くなったことを自覚して、気味の悪かった笑顔が、気味の悪い絶望顔へ変化していく。
「キージス共々、よくも無駄にリーシェを傷つけてくれましたね。このお礼は何にしましょうか?」
リーシェと一心同体だったからこそ、リーシェの苦痛と悲しみを誰よりも感じとっていた「技の力」。
人の身で背負うにはあまりに大きい苦しみは少女の心を大きく苛んだ。
スティからの苦しみをもう味合わせたくなくて、「技の力」は老婆へ向けて蒼氷の剣を差し向けた。
ついに明かされましたね。「伝説の力」について。
『私』と私でややこしいぜ!って思った方もいると思うので、一応『私』は「技の力」の自我で、私はリーシェのことを指していると思ってください。(遅いよ。ここもう後書きだよ)
応援よろしくお願いします!





