少年騎士キリヤの正体は
ラピスの背後から棍棒を振り下ろそうとしていたオークを鎖で射抜く。
それでも次々と湧き出てくる化け物に、アズリカは何回目か分からない舌打ちをした。
(このままじゃ全員分断される!そうなれば終わりだ!)
それぞれの死角を補いながら何とか技を避けているが、分断されてしまえばそれも出来なくなる。
体力を消耗すれば周りに気を配る余裕もなくなり結局ジリ貧だ。
(どうする?何か突破口は無いのか!?)
見上げるほどに大きな巨躯に、豚のような顔を持つモンスターを睨みながら、まだ考えるゆとりがあるうちに解決策を考える。
ゴブリンやハウンドに加え6階層から姿を見せたオーク。
最初は的が大きいから倒すのは楽だと思っていたが、張った腹は硬く、弱点は不釣り合いに小さい頭だけ。
アズリカの鎖なら中距離からでも攻撃できるが、剣を使う他の3人は跳躍しなければ刃が届かない。
リーシェならば「技の力」を使えば問題は解決できるだろうが、使用を制限されているので剣で攻防している。
数体のオーク。ハウンドの群れ。無数のゴブリン。
対してこちらは4人だけ。
圧倒的な戦力差に臍を噛んだ時だった。
混沌と化した戦場に一閃の煌めきが走ったのは―――。
「『武闘』第125番、奥義。『閃桜両断』!」
ふわりと桃色の花びらが舞った気がした。
優しく甘い香りが鉄臭さに悲鳴を上げていた鼻腔を癒した。青年たちを飲み込もうとしていた絶望が、文字通り一刀両断され、吹き出た血霧が瞬く間に花弁へ姿を変えた。
今まさに死角から棍棒を振り下ろしていたオークも、アズリカの背後で両断され絶命する。
「これは……『戦人族』の固有能力か!」
少し離れたところでラピスが声を上げた。
「戦人族」とは、世界にいる4種族のうちの1種だ。
「人間」の「発展」。「魔人族」の「魔法」に対して「武闘」の種族固有能力を持っている。
その名の通り、4種族の中で最も戦いに特化している。
だがしかし、かの種族がいるのは南の大陸で西野大陸にはいないはずだ。
そもそもこの場に「戦人族」がいること自体ありえないはずだった。
一閃が放たれた方に目を向けると、マントを翻した少年が剣……というか刀を鞘にしまうところだった。
「お前、『戦人族』だったのか」
アズリカ呆然と呟くと、これまでと同じようにキリヤはにっこりと笑った。
その邪気のない笑顔と「戦人族」の噂から来るイメージが上手く噛み合わず、軽く混乱する。
「戦人族」はその能力ゆえ、戦いこそ全て、という考え方をしている者が多いと聞く。
彼らは普段から戦い続け、気性が荒く沸点が低い。少なくとも穏やかな雰囲気は想像することが出来なかった。
だが少年は最初から穏やかで優しく、また忍耐強かった。
本当に「戦人族」なのか疑わしいところだが、固有能力を使った以上、真実なのだろう。
ニコニコしていたキリヤは、剣に付着した血を払っていたリーシェに近づくと慇懃に膝を着いた。
「改めましてリーシェ様。僕は『戦人族』のキリヤと申します。故国からあなたをお連れするように言われ参じました」
「顔を上げてください。なぜ南の大陸が私の来訪を望んでいるのか聞いてもいいですか?」
慌てた風に両手を振りながらリーシェはキリヤと同じ目線になるように、体勢を低くさせた。
「お答えします。我らが『戦人族』は力こそ全て。強さこそ全て、という認識が種族の根底に刻まれております。故に、昔から伝説の存在……『技の力』を持つお方を軍神と崇め、奉って参りました」
つまり、少年はリーシェに対してやけによそよそしく、緊張し、興奮していたのは、キリヤにとってリーシェは神と同等の存在だったからだ。
確かにずっと崇めてきた神に存在を覚えていてもらったら誰だって感極まるだろう。
「あなたをお守りし、南の大陸にお連れするのが僕の役目。改めて、これからの同行をお許しいただきますようお願い申し上げます」
いつものリーシェなら、セルタで平穏に暮らすことを優先させ大陸渡りを断っていたが……。
「もちろんです。そこに私を必要としている人がいるなら、何があってもそこへ駆けつけます。それまでお世話になります」
(やはり5階層でリーシェに何らかの変化が起きたな)
一切の躊躇なく大陸渡りを許可する言動にそう確信した。
6階層は、部外者の騎士がいなくなったことで正体を明かしたキリヤが大きく活躍した。
序盤で追い込まれたが、そこからはスムーズに抜けることが出来た。
さらに7階層、8階層は6階層と対して難易度は変わらずトントン拍子で進んでいく。
そして1行は、目的の10階層の手前である9階層に到着した。
南の大陸のお話は次章です。お楽しみに!





