いざ6階層へ
頭から湖の水面を突き破ると、ラピスは急いで周りを確認した。
すると、真正面にいたドライアドとバッチリ視線が合う。
『あら?1位はあなた?』
「1位って……競走じゃないだろう」
ザバッと水から陸に上がると、あんなに立ちこめていた霧が綺麗に消えていた。
目と鼻の先に6階層へ降りる階段があり、ドライアドを見上げると森の管理者は湖を見つめていた。
感情の読めない表情にラピスは声をかける。
「なにか見えるのか?」
『ふむ。何やら危ういものが目覚めてしまったようだの』
その言葉の終わりにかぶせるようにアズリカが出てくる。
若草の髪を濡らしながら近寄ってくる青年の顔は、スッキリとしていた。
まるで無意識のうちに悩んでいたことに決着が着いたような顔だ。
「1位はお前か」
「だから競走じゃないだろう。顔のスッキリ加減で言えばお前の方が上だ」
「分かるか」
「誇らしげに笑うな」
『仲が良いなぁ』
「「仲良くない!」」
不覚にも同時にドライアドの評価を否定すると、少年はアズリカにスッキリしている理由を聞いた。
すると青年は「嬉しかった」のだと言い始める。
「親に捨ててもらえて俺は嬉しかったらしいな。俺の親は、互いを愛していなかったそうだから」
「不倫同士でできた子供か。確かに、路地裏の方がまだ穏やかな暮らしだっただろうな」
「嫌味なくらい察しが良いな。……ところで、他の奴らはまだ来ていないのか?てっきりリーシェの方が早いと思ったんだが」
ラピスも思っていたことに頷きながら、水面に顔を近づける。
鼻の先が水につきそうなほど覗き込んでいると、突然金色の物体が浮き上がってきた。
嫌な音がして額に強烈な痛みが走り後ろに倒れ込む。
「いたぁ!?」
てっきり、湖に落としたのは金と銀の斧どちらなりや?的な声が発せられると思ったが違った。
眩しい金の頭を抑えながら涙目になっているのは、騎士団の1人のキリヤだ。
顰めた顔でぶつかった相手を見た少年は、別の意味で涙目になった。
「お、王子殿下!大変失礼しました!まさか、出た先で王子がお顔を水鏡に写しているとは予想出来ず……!」
「逆に予想出来たら怖いだろ」
アズリカが静かに突っ込んだ。
「人が自分の顔見てうっとりしていたなんて誤解を受ける言い方をするな!水中の様子を窺っていただけだ!」
『仲が良いなぁ』
「どこがだ!」
さっきと全く同じことをドライアドが言った。
赤くなった額を抑えながら全力否定したラピスに、キリヤは質問する。
「リーシェ様は?お姿が見えませんが」
『リーシェはもうすぐ来るであろう。他の騎士は残念ながら魔境谷の外に弾き出されたが』
その言葉を問い詰めると、自己を見つめ直す行為を最初から諦めた者は、問答無用でダンジョンから放り出されるらしい。
もう2度と足を踏み入れないように谷の外に誘導して追い出したと管理者は言った。
メンバーを再選出する必要がありそうだと考え始めた少年の耳に、3回目の水飛沫の音が聞こえた。
勢いよくそちらを見れば、真っ青な湖から赤毛の少女が出てきたところだった。
「みなさんもう来ていたんですね。遅くなりました」
名前を呼ぼうと思ったラピスたちの口が不自然に動きを止める。
声も全く同じ。顔も同じ。何もおかしいところなどないはずなのに、猛烈な寒気と違和感が背筋を凍らせる。
「リーシェ?」
そっと名前を呼べば、彼女の目はラピスに向けられる。
いつも通り微笑まれてますます混乱した。
「そんなに黙ってどうしたんですか?他の騎士の皆さんは?」
「あ、あぁ……。いや、アイツらは6階層に降りる資格を得られなかったらしい」
「それは困りました。6階層からは4人で攻略していかなければならない、ということですよね?」
柳眉を寄せた姿はリーシェそのものだ。
慣れてしまったからか、そもそも気のせいだったのか。違和感はもうない。
だけど妙に胸が騒いだ。
だが、その正体を明らかにすることが出来ないままラピスと3人は6階層へ降りていった。
背中をドライアドに見送られ、階段を降りて到着した6階層。
紫に妖しく光る階層には、これまでいなかった大型のモンスターがうじゃうじゃといて、余計なことに気を回す余裕が無くなっていく。
たった4人の過酷なダンジョン攻略が始まった。





