ドタバタ二人羽織です……
結局、一夜明けてからかまくらは完成した。
家の前には目を見張るほど綺麗に出来上がった雪室が、3つ鎮座している。
どれも日光を反射しそうなほど凹凸なく整えられ、使うのがもったいないくらいだった。
だがせっかく作って貰ったのだから、何もせずに溶けるのを見ているのもっと勿体ないだろう。
そう自分に言い聞かせると、3つの小鍋に作ったおでんをそれぞれのかまくらの中へ入れ冷めないように「焔刻」で温める。
これなら普通に火を使うよりかまくらにダメージが少ないはずだ。
さすがにおでんから立ち上る湯気や人の熱気で溶けてしまうがどうしようもないことである。
最後のかまくらに鍋を設置し終えると、振り向きながら半目で2人を見た。
今日だけリーシェよりも早く起きて、夜更け前から家の前で騒ぎながらかまくらを完成させたラピスとアズリカは、すでにテンションがオーバー気味だ。
ワクワクとそれぞれが二人羽織用の羽織を胸元で握り締めて頬を上気させている。
達成感とは別のテンションの高さを感じてリーシェは思わず苦笑いをしてしまった。
「今日は2人とも仲良しですね……。いえ、何よりなんですが、そんなに二人羽織が楽しみだったんですか?」
「「ああ!」」
声まで綺麗に揃っている。アズリカの普段の冷静っぷりとラピスの澄ましっぷりは一体どこへ消えたのか。
だが2人が元気なのは良い事なので、リーシェは彼らが変にご機嫌な理由など深く考えなかった。
両手をパンッと合わせると、少年と青年を促す。
「さぁ!ではどっちが先に腕役になるかジャンケンをしてください!勝った方がどちらになりますか?」
この時、ラピスとアズリカには究極の選択が迫られていた。
腕役……つまり、羽織の中に入っておでんを掬う側なら、リーシェを背後から羽交い締めできるし、少々変態だが彼女の髪の匂いを嗅げる。男とはそういうものなのでどうか引かないで欲しいと、誰にでもなくお願いしておこう。
そして羽織から顔を出して食べさせてもらう役になれば、リーシェに「あ〜ん」をしてもらえる。背中に少女の気配を密に感じながら食べるおでんは、どれほど美味だろう。ましてや、おでんはリーシェの手作りだ。
匂いか「あ〜ん」か。
元々、頭の回転が早い2人は一瞬で究極の選択にケリをつけた。
「「勝った方が腕役だ!」」
腕役なら自分がリーシェに食べさせることができるし、匂いも嗅げるし、抱きしめることも出来る。
そういう単純なメリットの多さで決めた。どうせ腕役を先にやろうと、2回目で「あ〜ん」してもらえるのだ。
しかし鬼気迫る様子でジャンケンを始めた男2人の思惑など知らないリーシェは、せっせと二人羽織の準備をしていた。
具体的には、人2人が座れるスペースを壁と鍋の間に作ることや、もしもの時のために水を用意しておく。火傷した時に冷やせるようにという配慮だ。
そうしているうちにグーチョキパーの聖戦が終わったのか、かまくらの外から一喜一憂の声が響いた。
「リーシェ。1回目は俺が腕役に決まった」
と、グーにした拳を振り上げているのはアズリカだ。近くにはピースをしながら肩を震わせている少年が雪の上に伏している。
明るいものである、というイメージがあるピースをしながらサメザメと泣くラピスの姿はなんだか面白かった。
「そうですか。では先にこの羽織をすっぽり被ってください」
準備を整えたかまくらの中で大きな羽織をアズリカに被せてあげる。
「ちょっと待っていてくださいね」
若干、ニヤケながら待機する青年に背を向けると、うずくまったままの少年を引っ張って戻る。
「なんだよ。目の前で見せつける気か?」
「? 何言ってるんです?」
「「え?」」
「アズリカが腕役ならラピス様は食べる役ですよね?」
「「え?」」
「え?」
なぜか3人で首を傾げる。
どうやら認識に大きな齟齬があったようだ。
「私は二人羽織には反対なので、賛成した2人でおでんを食べるのでは無いのですか?二人羽織はてっきり2人で役を交代しながらやるものかと……」
リーシェは最初からそのつもりだったのだが、様子を見るに彼らは違ったらしい。
「俺はてっきりリーシェと二人羽織できるのかと」
呆然と呟くのはアズリカだ。
頭まですっぽり羽織を被って顔だけ出ているので、非常に可愛らしい。
「何が悲しくて野郎にあ〜んされなきゃいけないんだよ!!」
「俺だって、何が悲しくてお前にあ〜んしなくちゃいけないんだ」
ジャンケンに負けた時より大きなショックを受けたラピスは口調がだいぶ変わっていた。おそらく、ショックのあまり前世の記憶にある人物の性格が影響されたのだろう。
人格とは記憶から司られるものなので、そういうこともあるのかもしれない。
「誤解が生じていたようですね。とりあえず私は向かいのかまくらでおでん食べてるので、2人で楽しんでください」
ニッコリ笑ってから、おでんを食べにそそくさとかまくらを出ていった。
☆*☆*☆*
走り去って行った少女の背中を虚しい顔で見送る。
リーシェと二人羽織できない悲しみから先に立ち直ったのはアズリカだった。
「とりあえずおでんを食べるか。ほら、早く来い」
「まさか本当にやるのか?」
「当たり前だ。結局かまくら勝負では負けたが、ジャンケンでは勝ったからな」
ニタニタと悪い顔をする青年にとても嫌な予感を抱きながら、ラピスは大人しくアズリカの足の間に座った。
腕だけになったアズリカが、どこから見ているのか的確におでんの具をスプーンで掬う。
最初は無難にちくわだった。
ちくわは真ん中に空洞があるので冷ましやすいのだ。
悲しみの「あ〜ん」で口に運んでもらい冷ましながらゆっくり咀嚼して飲み込む。
優しい味が口の中に広がって緊張が解けていく。
しばらく食べやすいものが続き、ラピスが目を閉じてうっとりと料理を楽しみ出した頃、アズリカは計画を始動した。
「ほら。口開けろ」
まるで弟に接する面倒みの良い兄のようにスプーンに乗った「アレ」を、少年の口元へ寄せていく。
器を持った左手を顎の下に掲げて、そっとラピスに開いた口に流し込んでいった。
熱々のゆで玉子を……。
次の瞬間、安心しきって思い切り咀嚼したラピスの目がカッと見開かれる。
左手の器に「ソレ」が吐き出された重みを感じ、羽織の中でアズリカは大爆笑した。
それに重なるように響き渡る少年の絶叫。
「ア"ッ"チ"ィ"ィ"ィ"ィ"ィ"ィ"ィ"!!」
「ハハハハハハハハハ!クッ……ハハハハハ!」
断末魔と悪魔のごとき笑い声にリーシェが駆け込んでくる。
「何事ですか!!」
そしてリーシェの目には世にも奇妙なものが映った。
叫ぶラピスの耳の横から伸びる腕。大きく律動する盛り上がった背中。
二人羽織ということをうっかり忘れていたリーシェは、その異形な姿と動きと状況に悲鳴をあげた。
平穏に暮らすことを求めた少女に冬はこうして過ぎていくのだった。
はい。【秋冬生活編】はここまで。次は【ダンジョン攻略編】になります。ぜひご期待ください!
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